凧の空微塵もなかりふるさとは
作 者 |
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季 語 |
凧 |
季 節 |
春 |
出 典 |
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前 書 |
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評 言 |
掲句を収める句集「早桃」は昭和21年8月15日発行(目黒書店)の第3句集。発行日に込めた思いがあるのは明らかだろう。ちなみに「後記」の日付は昭和20年12月30日になっている。 林火は横浜生まれ。したがって掲句は戦災で焦土と化した故郷横浜を詠んだと思われる。林火の自解があるかもしれないが、多義的な詠みが可能な一句。一つ前に良く知られる「あをあをと空を残して蝶別れ」。また、同句集には東京大空襲を題にした「三月九日夜半」六句があり「東京焼く火明かりさむく星消したり」など。 さて、季語「凧」は春の季語である。季の由来としては『滑稽雑談』に「他季にては風に過不及あり春風に時を得たり」とある。また、長崎の凧上げが著名なためともいわれる。しかし、俳句をはじめる前の印象では凧は正月のものであったし、一般にそう思われる方も多かろう。「凧」を新年で立項した歳時記の初出は『俳諧発句当時流行季寄新題集』(嘉永元年)かと思われる。今井柏浦『新校俳諧歳事記』(修省堂、大14)には、「由来春季に編入しあるも、新春多く玩びて正月気分を唆るもの多きを以て新年に入る」とある。 いずれにせよ季語の本意としては明るい気分があるはずだが、掲句には「国破れて~」の気分が濃厚である。 |
評 者 |
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備 考 |
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