人皮装丁本とは? わかりやすく解説

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人皮装丁本

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/23 04:59 UTC 版)

人皮装丁本(にんぴそうていほん、: Anthropodermic bibliopegy)は、人間皮膚を材料にして装幀(装丁)が施された。現代ではほとんど行われないが、この製本技術は少なくとも17世紀頃には確立していた。

概要

本の表紙である装幀は、一般に、または動物のが使われる。しかし中には特殊なものもあり、宝石を散りばめた豪華なもの(en)や、反対に樹皮爬虫類の皮またはタケノコの皮(稈鞘)やミノムシなどの例もある。この後者の一風変わった装幀を施した本を「下手装本」(げてそうほん)とも呼ぶが、人の皮を使う人皮装丁本はその最たるものである[1]

現代に伝わる人皮装丁本の例では、解剖された死体の皮膚で作られた解剖学テキスト、遺言に基づき故人の皮膚から作られた一種の遺産、レッド・バーン殺人事件英語版(赤い納屋の殺人事件) の例が示すように有罪判決を受けた殺人者の皮膚を裁判記録の写しを綴じるために用いた例などがある。

調査方法

人間の皮かどうかは、毛包による識別が行われていたが、革を処理する過程で変化してしまうため難しかった。DNAは、時間経過で劣化し、触った人間によって汚染もされているため難しかった[2]

近代的な方法として、ペプチドマスフィンガープリンティングマトリックス支援レーザー脱離イオン化法などによる判断が行われている。

蔵書

アメリカ合衆国のアイビー・リーグ大学は1冊以上の人皮装丁本を所蔵している。ハーバード大学のランデル法律図書館(Langdell Law Library)は貴重な本を蔵書しており、スペイン法律に関する論文を記した人皮装丁本『Practicarum quaestionum circa leges regias Hispaniae』は稀覯本の典型で、この本の後付には以下の言葉が記されている。

The bynding of this booke is all that remains of my deare friende Jonas Wright, who was flayed alive by the Wavuma on the Fourth Day of August, 1632. King Btesa did give me the book, it being one of poore Jonas chiefe possessions, together with ample of his skin to bynd it. Requiescat in pace.
訳:この本の装丁は、我が親愛なる友ヨナス・ライトの形見である。彼は1632年8月4日、ワブマ族に生きたまま皮膚を剥がされた。この本は、ブテサ王その人が私に下げ渡したもので、貧しかったヨナスの持ち物のなかで最も価値あるもののひとつであった。本とともに与えられた彼の皮膚は、この本を装丁するに充分であった。彼の魂が安らかなることを祈る。

ワブマ族とは現在のジンバブエにいたアフリカの部族だと思われる。

しかし、その後の調査によると表紙は羊革でありは牛と豚のものであると判明した[3]

ブラウン大学ジョン・ヘイ記念図書館の特別蔵書には、3冊の人皮装丁本がある。この中にはアンドレアス・ヴェサリウスが著した『De humani corporis fabrica』(人体の構造)の珍しい写本がある。

テンプル大学にはチャールズ・ブロクソンのアフロ・アメリカンコレクションがあり、この中にはデール・カーネギー著の『知られざるリンカーン(Lincoln the Unknown)』(en)の装丁にアフリカ系アメリカ人の人皮が使われているものがある[4]

韓国ソウル大学附属図書館も17世紀の人皮装丁本を所蔵している[5]

伝わる人皮装丁本の例

フランス詩人天文学者カミーユ・フラマリオン著の詩集『空の中の地』 (Les Terres du Ciel) に人皮装丁が施された一冊がある。これは彼の詩を好んだ貴婦人(サン・トウジ伯爵夫人とも言われる)が若くして亡くなった際、残した遺言に従って1882年に製作されたものであり、彼女の肩の皮膚が使われた表紙には金文字でその旨が記されている。この本はフラマリオンが蔵していたが、現在ではアメリカに渡っている[1]

藤田嗣治も人皮装丁本を所蔵していたという。南米エクアドルを訪問した際に大統領の子息から譲り受けたもので、1711年にスペインマドリードで出版された宗教の本だった[1]

ナチス・ドイツブーヘンヴァルト強制収容所所長夫人のイルゼ・コッホは、収容者を殺害しては皮膚を手に入れ、色々な品物を作ったという[6]。その中にはアドルフ・ヒトラーの『我が闘争』や家族のアルバム日記など本の装丁もあった[1]

レッド・バーン殺人事件英語版の犯人とされる人物の皮は、外科医 George Creed によってなめされ、殺人事件の裁判記録にするために使用された[7]

備考

  • 装丁という形式ではないが、人皮を材料とした書物に関しては仏教にも見られ、『太政官奏』(722年成立)の記述によれば、平城京において、女性が皮膚を剥がして、それに写経をするといった過激な修行があったとされる[8]
  • 古いインドの仏教ではの皮を剥いでそれに写経をした[9]。この「肘の皮に写経」という表現は、『続日本紀養老元年(717年)4月23日条にもみられ、古代における仏教文化圏では人皮に文字を書いていたことがわかる。

脚注

  1. ^ a b c d 庄司浅水「稀覯本ものがたり」『別冊・名著総解説ダイヤル 世界の奇書101冊』自由国民社、1978年、238-239頁。 
  2. ^ The Science” (英語). The Anthropodermic Book Project (2015年10月19日). 2016年12月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年4月21日閲覧。
  3. ^ 852 RARE: Old Books, New Technologies, and “The Human Skin Book” at HLS”. 2014年4月5日閲覧。
  4. ^ Ignorant teacher inspired black archivist's life's work” (英語). San Francisco Chronicle. 2010年6月11日閲覧。
  5. ^ ソウル大学図書館、人皮装丁本など貴重書を展示”. カレントアウェアネス・ポータル. 2010年6月11日閲覧。
  6. ^ New York Times, Sept. 24, 1948, p. 3
  7. ^ Rosenbloom, Megan (20 October 2020). "The Postmortem Travels of William Corder". Dark Archives: A Librarian's Investigation Into the Science and History of Books Bound in Human Skin. New York, New York: Farrar, Straus and Giroux. pp. 115–130. ISBN 978-0-374-13470-9.
  8. ^ 勝浦令子 『古代・中世の女性と仏教』 山川出版社 2003年 34頁
  9. ^ 宇治谷孟 『続日本紀 (上) 全現代語訳』 講談社学術文庫 第4刷1994年 182頁

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