交響曲第3番 (團伊玖磨)とは? わかりやすく解説

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交響曲第3番 (團伊玖磨)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/11 08:10 UTC 版)

團伊玖磨交響曲第3番は、作曲者の番号付き交響曲のうち3番目の作品。

作曲の経緯

1959年末から1960年はじめにかけて、作曲者はオペラ夕鶴』の米国初演を指揮するため、ニューヨークに滞在していたが、その間、「下宿の二十階の部屋から毎夜ながめて受けた、マンハッタン摩天楼の「現代の遺跡」とでも形容したいような力強さ、美しさ、不気味さ」[1]カルチャーショックを覚え、次第にそれまでの自分の作品が脆弱に思えるようになっていった[2]。緊密な構造美を追求したいという衝動が本作の作曲に繋がり、米国滞在中に一気にスケッチを終えている。帰国後にオーケストレーションの仕上げを行い、1960年3月17日葉山において完成した。なお、発表当初は『2楽章の交響曲』あるいは『2楽章制の交響曲』の題名で呼ばれていた[3][4]

初演

1960年3月27日[5]読売ホールで開催された第4回「3人の会」演奏会において、岩城宏之指揮NHK交響楽団により行われた。翌年には東芝音楽工業よりウィリアム・ストリックランド指揮インペリアル・フィルハーモニー交響楽団による商業録音も発売された[3]が、「調性を離れ(中略)、今までの叙情性をも捨てて、抽象的な方向に歩をすすめた」[6]本作は理解されにくく、また、初演の際の演奏にも問題があったせいか[2]、真価は認められず、どちらかといえば冷淡に受け止められた[2][3][7]。これに発奮したのか、作曲者は1963年読売日本交響楽団を指揮して自作交響曲(1番2番、本作)演奏会を行い、改めて本作を世に問うている[2]。翌1964年にはペータース社から楽譜が出版された[3]

楽器編成

ピッコロフルート2、オーボエ2、イングリッシュ・ホルンクラリネット2、バス・クラリネットファゴット2、コントラファゴットホルン6、トランペット3、トロンボーン4、テューバハープピアノティンパニ小太鼓シンバル大太鼓タムタム木琴グロッケンシュピール弦五部(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラチェロコントラバス[3]

構成

演奏時間は約25分[8]

第1楽章 アンダンテ・ソステヌート

ソナタ形式。ヴァイオリン、フルート、オーボエ、クラリネット、バス・クラリネット、打楽器の順で奏される動機が第1主題とされるが[1][9]、複数の素材の綜合による第1主題群とでもいえるもの[3]。いずれの動機も半音の動きに特徴がある。ヴァイオリンに現れる第2主題は作曲者が「神経質」と呼んだリズム的性格の強いもの[1]だが、主題の提示のみで確保が行われないため、提示部から展開部においては影が薄い存在である[9]。逆に再現部では第1主題の再現がなく、第2主題が再現、確保されて盛り上がる。終結部は第1主題による変容が続けられ、静かに楽章を終える。

第2楽章 アレグロ

三部形式、あるいは第1楽章の要素を挿入した変形ロンド形式[9][10]。4部からなり、第1部ではこの楽章で新たに登場する3つの主題が示される。曲は強烈な総奏の一打とそれに続く作曲者が言う「不安な、連続する付点音符の急速な進行」で開始され[10]、まずチェロ・コントラバスによってリズミカルな主題Aが登場、次にオーボエでなめらかな動きの主題B、続いて木管楽器とホルンに律動的な主題Cが現れる。第1部全体の流れは、主題Aの提示→主題Aの確保→主題Bへの推移→主題Bの提示→主題Bの確保→主題Cの提示→主題Bへの推移→主題Bの提示→主題Cの提示→主題Aの提示、というものになる[9]。第2部は第1楽章の第1主題が再登場し、第1楽章展開部や終結部が回想される。第3部は主題Aの提示→主題Bの提示→主題Bの確保という流れ[9]。終結部にあたる第4部は主題A、主題B、第1楽章第1主題を用い、壮大な結末を迎える。

主要録音

録音年 指揮者 オーケストラ レーベル 備考
1961? ストリックランド インペリアル・フィルハーモニー交響楽団 東芝音楽工業 LP(JSC-1004[11])は1961年7月発売。
1971 團伊玖磨 読売日本交響楽団 キングレコード
1989 團伊玖磨 ウィーン交響楽団 ロンドンレコード

脚注

  1. ^ a b c 『最新名曲解説全集3 交響曲III』399頁。
  2. ^ a b c d CD解説『團伊玖磨:交響曲全集』16頁(佐川吉男「團伊玖磨の芸術」)。
  3. ^ a b c d e f CD解説『團伊玖磨:交響曲全集』30-33頁(藤田由之「楽曲解説」)。
  4. ^ 『名曲事典』の項目名は『交響曲第3』、『最新名曲解説全集3 交響曲III』は『第三交響曲』、CD『諸井三郎とその門下の音楽』は『交響曲第3番』、CD『團伊玖磨:交響曲全集』は『交響曲第3番(2楽章制)』となっている。
  5. ^ 『名曲事典』及びCD解説『諸井三郎とその門下の音楽』では「1960年4月」とするが誤り。
  6. ^ 『名曲事典』650頁。
  7. ^ 雑誌『音楽芸術』1960年6月号(157-159頁)に掲載された木村重雄による演奏会の批評で、本作は「同じ作曲者による映画《太平洋の嵐》の音楽よりは、たしかにシンフォニックだし、大きなオーケストラがただ鳴つているのは壮大であるのもまちがいないとしても、全体をひとつのまとまつた演奏会用の作品として成立させる根本的な条件が、不足している。」と酷評されている。
  8. ^ 『最新名曲解説全集3 交響曲III』は「約20分」、『名曲事典』は「22分」とするが、作曲者が遺した2つのセッション録音はどちらもほぼ25分。
  9. ^ a b c d e CD解説『諸井三郎とその門下の音楽』29-31頁。
  10. ^ a b 『最新名曲解説全集3 交響曲III』400頁。
  11. ^ カップリング曲は同じ指揮者・オーケストラによる芥川也寸志の『エローラ交響曲』。『エローラ交響曲』のみ他の芥川作品と組み合わせて1997年にCD復刻(TOCE-9426)されているが、解説で1961年録音とされている。本作の録音も同時に行われたと思われるが、推測のため録音年は「1961?」と記しておく。

参考文献

  • 石田一志『最新名曲解説全集3 交響曲III』音楽之友社、 1979年、398-401頁(「團伊玖磨 第三交響曲」の項)。
  • 属啓成『名曲事典』音楽之友社、1991年(第16刷)、650頁。ISBN 4-276-00120-X
  • CD解説『團伊玖磨:交響曲全集』(佐川吉男、藤田由之他執筆 LONDON POCL-3577/80) 1989年発売。
  • CD解説『諸井三郎とその門下の音楽』29-31頁(鈴木潮執筆 KING RECORDS NKCD6573/5) 2011年復刻発売(タワーレコードより)。



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