にめい‐ほう〔‐ハフ〕【二名法】
二名法
二名法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/05 00:23 UTC 版)
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二名法(にめいほう、英語: binomial nomenclature)とは、生物分類において種を命名する際に、2語(属名と種小名)のラテン語風の語を用いる命名法である。18世紀にカール・リンネが体系化し、現代に至るまで生物学の基盤となっている命名法であり、学名の基本形式となっている。
概要
二名法では、生物の種ごとに1つの学名が付与される。この学名は、まず属名(genus)で始まり、次に種小名(specific epithet)が続く。たとえばヒトの学名は Homo sapiens であり、「Homo」が属名、「sapiens」が種小名にあたる。
この方式は、世界中の生物学者が同じ種を同じ名称で扱えるようにするために設けられた。言語や地域による俗名(和名など)と異なり、学名は国際的に共通であり、学術論文や図鑑、標本記録などで正確な同定が可能となる。
書式
二名法で記述される学名には以下のようなルールがある。
- 属名は大文字で始め、種小名は小文字で始める。
- 両者とも斜体(イタリック体)で記載する(手書きでは下線を引く場合もある)。
- 学名の後に命名者の名前と発表年が付記されることがある(例:Homo sapiens Linnaeus, 1758)。
- 動物・植物・細菌などの分類群によって命名規則が異なるが、基本構造は共通している。
命名規約
二名法の適用には厳密な国際規約が存在する。生物群ごとに適用される命名規約は以下の通り。
- 国際動物命名規約(ICZN) - 動物を対象とする。
- 国際植物命名規約(ICN) - 植物、藻類、菌類を対象とする。
- 国際細菌命名規約(ICNP) - 原核生物(主に細菌)を対象とする。
- ウイルス分類(ICTV) - ウイルスに対する命名体系。
これらの規約に従って命名された学名でなければ、公式には認められない。新種を記載する際には、適切な記述、標本の指定、査読済み文献での公表が必要とされる。
歴史
近代以前の種の命名は、特徴を羅列した長い記述的な名称(ポリノミア名)であった。これは分類上の混乱を招いていた。18世紀にスウェーデンの博物学者カール・リンネが『自然の体系(Systema Naturae)』(1735年初版)で初めて二名法を体系的に用いた。彼の著書『Species Plantarum』(1753年)は植物分類における二名法の起点とされ、動物分類では『Systema Naturae』第10版(1758年)が起点である。
リンネの方式は、その簡潔さと論理性から急速に普及し、やがて生物学全体において標準的な命名法となった。
使用例
以下に、二名法に基づく代表的な学名の例を示す。
- Homo sapiens(ヒト)
- Panthera leo(ライオン)
- Canis lupus(オオカミ)
- Escherichia coli(大腸菌)
- Arabidopsis thaliana(シロイヌナズナ)
- Felis catus(イエネコ)
これらは、種の明確な同定と分類において重要な役割を果たしている。
三名法との違い
種より下位の分類として亜種がある場合は、三名法(trinomial nomenclature)が用いられる。これは「属名 + 種小名 + 亜種名」の形式となる。例えば、シベリアトラは Panthera tigris altaica と表される。三名法も基本構造は二名法を拡張したものである。
意義と応用
二名法は、生物多様性の記録・保存・研究に不可欠な基礎である。分類学、生態学、保全生物学、医学、農学などの分野で広く用いられ、種の絶滅や外来種の管理、薬用植物や病原菌の同定にも役立っている。
また、デジタル化が進んだ現代では、世界の博物館・標本庫・遺伝子データベースなどが学名をキーにして情報を統合するため、正確な二名法の理解と運用はますます重要となっている。
関連項目
出典
- Linnaeus, C. (1753). *Species Plantarum*. Stockholm: Laurentii Salvii.
- Linnaeus, C. (1758). *Systema Naturae*, 10th Edition.
- 国際動物命名規約(ICZN) [1]
- 国際植物命名規約(ICN) [2]
- 『岩波生物学辞典 第5版』、岩波書店、2013年。
- 大橋広好ほか編『改訂新版 日本の野生植物』、平凡社、2015年。
- 日本分類学会連合『分類学のための命名規約入門』、2020年。
外部リンク
「二名法」の例文・使い方・用例・文例
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