予備的考察
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 06:49 UTC 版)
以上の指導原理をもとに、2つの慣性系の間の変換則を導く。まずはそのための準備として、変換則がどのようなものでなければならないかについて考察する。 以下、c を光速度とし、計算を簡単にするため、時間の単位として時刻 t のかわりに ct を用いることとする。ct の単位は距離の単位と一致するので、これは時間と距離に同一の単位を用いた事を意味する。 今、慣性運動する2人の観測者(すなわち何ら外力のかかっていない観測者)A、Bがある一点ですれ違ったとする。A の慣性系における位置と時刻を表す座標系を (ct, x) とし、B の慣性系における位置と時刻を表す座標系を (ct′, x′) とする。なお、両者の座標系で同一の光速度 c を用いることができるのは、光速度不変の原理による。 ここで注意しなければならないのは、2つの慣性系における時刻 ct、ct′ が同一であるとは仮定していない事である。すなわちここで、ニュートン力学の前提であった絶対時間の概念が放棄されているのである。 必要なら位置と時刻の起点を取り直すことで、A、B がすれ違った位置と時刻がどちらの座標系でも0であるとしてよい。 このとき、これら2つの座標系の間の変換則をテイラー展開したものを考えると、何らかの定数ベクトル b→ と行列 Λ とを用いて ( c t ′ x ′ ) = b → + Λ ( c t x ) + {\displaystyle {\begin{pmatrix}ct'\\{\boldsymbol {x}}'\end{pmatrix}}={\vec {b}}+\Lambda {\begin{pmatrix}ct\\{\boldsymbol {x}}\end{pmatrix}}+} (二次以上の項) と表記できる。しかし A、B がすれ違った位置と時刻がどちらの座標系でも0であるとしたことから、b→ = 0→でなければならない。また二次以上の項もゼロでなければならない。なぜなら、もし二次以上の項があるのであれば、B の系で外力が加わっていないにも関わらず、B は A に対して加速度運動していることになってしまうからである。よって ( c t ′ x ′ ) = Λ ( c t x ) {\displaystyle {\begin{pmatrix}ct'\\{\boldsymbol {x}}'\end{pmatrix}}=\Lambda {\begin{pmatrix}ct\\{\boldsymbol {x}}\end{pmatrix}}} と線形変換でなければならない。 すなわち、特殊相対性理論は4次元のベクトル空間で記述され、慣性系はそのベクトル空間の基底であり、慣性系の間の変換は線形写像である事がわかる。
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