ちゅうせい‐びし【中性微子】
ニュートリノ
ニュートリノ | |
---|---|
![]() | |
型数 |
3(ν e、ν μ、ν τ) |
組成 | 素粒子 |
粒子統計 | フェルミ粒子 |
グループ | レプトン |
世代 | 第一、第二、第三世代 |
相互作用 |
弱い相互作用 重力相互作用 |
反粒子 |
ν e、ν μ、ν τ |
記号 |
ν e、ν μ、ν τ |
質量 | あり |
電荷 | 0 |
カラー | 持たない |
スピン | 1⁄2 |
バリオン数 | 0 |
ニュートリノ(英: neutrino[注釈 1])は、素粒子のうちの中性レプトンの名称。中性微子(ちゅうせいびし)とも書く[1]。電子ニュートリノ・ミューニュートリノ・タウニュートリノの3種類もしくはそれぞれの反粒子をあわせた6種類あると考えられている。
ヴォルフガング・パウリが中性子のβ崩壊でエネルギー保存則と角運動量保存則が成り立つように、その存在仮説を提唱した。「ニュートリノ」の名はニュートラルから来ておりβ崩壊の研究を進めたエンリコ・フェルミが名づけた。フレデリック・ライネスらの実験により、その存在が証明された。
性質
フェルミオン | 記号 | 質量(予測値の上限)** |
---|---|---|
第一世代 | ||
電子ニュートリノ | ![]() |
電荷を持たない粒子であるため、中性のパイ中間子のようにそれ自身が反粒子である可能性がある。ニュートリノの反粒子がニュートリノ自身と異なる粒子であるか否かは現在でも未解決の問題である。
仮説と検証の歴史

アルファ崩壊の場合、アルファ粒子(アルファ線)と新しく出来た原子核の質量との合計は、崩壊前の原子核の質量よりも小さくなる。これは、放出されたアルファ粒子の運動エネルギーが、崩壊前の原子核の質量から得られているためである。
ベータ崩壊の場合は、崩壊後の運動エネルギーの増加が質量の減少より小さかった。そのため一部のエネルギーが消えてしまったように見え、研究者の間で混乱が生じた。ニールス・ボーアは放射性崩壊現象ではエネルギー保存の法則が破れると主張した。
一方、ヴォルフガング・パウリは、エネルギー保存の法則が成り立つようにと、β崩壊では(観測されない)電荷については中性の粒子がエネルギーを持ち去っているという仮説を1930年末に公表した[注釈 2]。また、1932年に中性子が発見されたのをきっかけに、エンリコ・フェルミはベータ崩壊のプロセスを「ベータ崩壊は原子核内の中性子が陽子と電子を放出しさらに中性の粒子も放出する」との仮説を発表した。また、質量は非常に小さいか、もしくはゼロと考えられた。そのため、他の物質と作用することがほとんどなく、検出には困難を極めた。
ギュラ・チカイはベリリウムを中性子で照射して得たヘリウム6を霧箱に導く装置を開発し、ヘリウム6がβ崩壊
従来弱い相互作用しかしないこともあって質量が観測できず、質量は0であるとするのが一般的であった。しかし、例えば光子には質量が0であるとする理論的根拠が存在するが、ニュートリノについてはそのような理論は無かった。ニュートリノが質量を持つことが分かったものの、ニュートリノ振動からは型の異なるニュートリノの質量差が測定されるのみで、質量の絶対値はわからない。
1987年2月23日に発見された15万光年離れた大マゼラン雲の超新星SN 1987Aから飛来した電子ニュートリノの観測[注釈 3]によると、電子ニュートリノの静止質量は 5% 以内の誤差で最大 16 eV であり、これは電子の質量の 30 万分の 1 である[7]。三重水素崩壊の正確な測定によると、電子ニュートリノ質量の上限は2 eVである[8]。
ニュートリノの質量が有限値を持つことは理論研究に大きな影響を与える。まず問題になるのは、これまで各種の提案がされてきた標準理論のうちの一部はニュートリノの質量が 0 であることを前提としている。このため、それらの理論は否定される。また、ニュートリノ振動は、各世代ごとに保存されるとされてきたレプトン数に関して大幅な再検討を促すことになる。
また、ニュートリノには電磁相互作用がないため光学的に観測できず、またビッグバン説では宇宙空間に大量のニュートリノが存在するとされていることから、ニュートリノは暗黒物質の候補のひとつとされていたが、確認された質量はあまりに小さく大きな寄与は否定された。
カイラリティ
実験結果からは誤差の範囲内で、生成され観測される(ほぼ)すべてのニュートリノはスピン角運動量の回転方向 (ヘリシティ、英: helicity )が左巻き、すべての反ニュートリノが右巻きを持っていることが示されている。このことはニュートリノに質量はないとした極限では、双方の粒子に考えうる2つのカイラリティ(英: chirality )の1つしか観測されていないことを意味する。このようなカイラリティは素粒子相互作用の標準模型での唯一のものである。
実験結果からは、右巻きニュートリノと左巻き反ニュートリノという相対するパートナーが単に存在しないということも考えられる。そうであれば、観測されるニュートリノと反ニュートリノとは実際は全く異なる性質ということになる。理論的には(大統一理論スケールで)反ニュートリノ粒子に対する考察は、非常に重い(シーソー機構)、(ステライルニュートリノのような)弱い相互作用を起こさない、あるいはその両方などと考えられている。
質量がゼロでないニュートリノの存在は状況をやや複雑にする。ニュートリノは弱い相互作用で生成された固有状態である。しかし質量のある粒子のカイラリティは(みかけの)運動が同じにならない。すなわち、ヘリシティ演算子はカイラリティ演算子とは固有状態を共有しない。自由なニュートリノは左巻きと右巻きのヘリシティ状態が混在して伝搬し、 mν⁄E のオーダで振幅も混在している。ただし、実験的に観測されるニュートリノは常に超相対論的であり (mν ≪ E)、振幅の混在は無視できるほど小さいため振幅の混在はほとんど実験に影響しない。例えば、ほとんどの太陽ニュートリノは 100 keV から1 MeV のオーダのエネルギーを持っており、「誤った」ヘリシティを持ったニュートリノの割合は 10−10 を超えない。[9][10]
光速より速いとされた実験結果とその撤回
2011年9月23日CERNで、観測したニュートリノが光速より速かったという実験結果が発表された[11][12]。「国際研究実験OPERA」のチームが、人工ニュートリノ1万6000個を、ジュネーブのCERNから約730km離れたグラン・サッソ国立研究所に飛ばしたところ、2.43ミリ秒後に到着し、光速より60.7ナノ秒(1億分の6秒、ナノは10億分の1)速いことが計測された。1万5000回の実験ほとんどで同じ結果が示された[13]。この発表は「質量を持つ物質は光速を超えない」とするアインシュタインの特殊相対性理論に反するため世界的な論争を呼んだ。光より速い物質が存在しないのは、粒子を光速にまで加速するためには無限のエネルギーが必要だということが理由だが、もしこの実験結果が本当だった場合、このニュートリノはエネルギーを必要としない何らかの相転移で超光速になってまた戻ったとする仮説なども考えられた。
OPERAチームは、光速を超える物質が存在しないことを証明する特殊相対論がこれまでの実験と理論でしっかり確立された理論であり、自分たちの実験結果は誤りだと考えていた。そのため結果を発表するのに数か月の内部討論を重ね、実験結果の誤りを探したが、内部討論では誤りを発見できず、科学界での検証を呼びかけた。OPERAは声明の中で「この結果が科学全般に与える潜在的な衝撃の大きさから、拙速な結論や物理的解釈をするべきではない」としていた[14]。
11月18日、OPERAは、ニュートリノビームの長さを短くした再実験によってもほぼ同様の結果が見られたと発表した[注釈 4][15][16][17]。ただ時間情報は前回と同様GPSを使ったとしている。
その後、ニュートリノの到着側で地上と地下の時計をつなぐ光ケーブルの接続不良やニュートリノ検出器の精度が不十分だった可能性が見つかったため、2012年5月、実験不備を解消した上で再実験を行った。結果、ニュートリノと光の速さに明確な差は出ず実験結果を修正、6月8日にニュートリノ・宇宙物理国際会議で「超光速」の当初報告の正式撤回を発表した[18][19][20]。
実験内容

「中性微子」の例文・使い方・用例・文例
- 中性微子のページへのリンク