リアプノフ次元
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/07 10:10 UTC 版)
軌道がカオス的振る舞いをみせるストレンジアトラクターは、フラクタル構造を持つことが多い。このようなアトラクターのフラクタル次元とリアプノフスペクトラムの間には関係が存在する。アトラクターのリアプノフスペクトラムが得られたとして、その各リアプノフ指数 λi がそれらの値の大きさで降順に並べられているとしたとき、次のようなフラクタル次元の一種 DL が定義される。 D L = j + ξ j | λ j + 1 | ( j < k ) {\displaystyle D_{L}=j+{\frac {\xi _{j}}{|\lambda _{j+1}|}}\quad (j<k)} ここで、 ξj は、 ξ j = ∑ i = 1 j λ i {\displaystyle \xi _{j}=\sum _{i=1}^{j}\lambda _{i}} であり、j は ξj が負にならない最大値、すなわち、リアプノフ指数を λ1 + λ2 + λ3 ...と順に足していったときに、その総和が負となる直前における、足し合わせたリアプノフ指数の個数である。ξj ≥ 0 を満たす j が存在しないときは、DL = 0、系の次元数 k と j が一致する場合は、DL = k とする。 このように定義されたフラクタル次元 DL は、リアプノフ次元 (英: Lyapunov dimension)と呼ばれる。リアプノフ次元は、James L. KaplanとJames A. Yorkeにより1979年に提案された。そのためカプラン・ヨーク次元(英: Kaplan–Yorke dimension)とも呼ばれ、記号 DKY とも記される。 上式で定義されるリアプノフ次元は、フラクタル次元の1つである容量次元の考え方をもとにして、次のように導入される。リアプノフ指数の総和は相空間内の k 次元の体積要素の体積変化率を与えるので、同様に部分和である ξj から、j 次元までの体積要素は拡大するが、j + 1 次元以上の体積要素は縮小することになる。そのため、アトラクタを収めるためには少なくとも j 次元は必要で、考えられるフラクタル次元の下限を与えている。一方で、j + 1 次元は考えられるフラクタル次元の上限といえる。k 次元相空間上の一辺が d の立方体は、時間発展により各辺 exp(λ1t), exp(λ2t), exp(λ3t),... の直方体に写像される。ここで、1辺の長さ ε が、 ϵ = d exp ( λ j + 1 t ) {\displaystyle \epsilon =d\exp(\lambda _{j+1}t)} である j + 1 次元立方体の箱を考え、容量次元と同じように、ストレンジアトラクタの不変集合をこの箱を何個も当てながら全体を覆うことを考える。このとき、覆うのに必要な箱の数 N は、 N = exp [ ( λ 1 − λ j + 1 ) t ] × exp [ ( λ 2 − λ j + 1 ) t ] × ⋯ × exp [ ( λ j − λ j + 1 ) t ] {\displaystyle N=\exp \left[(\lambda _{1}-\lambda _{j+1})t\right]\times \exp \left[(\lambda _{2}-\lambda _{j+1})t\right]\times \cdots \times \exp \left[(\lambda _{j}-\lambda _{j+1})t\right]} と推論できる。よって、容量次元と同様の定義から、 lim ϵ → 0 ln N ln ( 1 / ϵ ) ≈ lim d → 0 ( − j λ j + 1 + λ 1 + λ 2 + λ 3 + ⋯ + λ j ) t − λ j + 1 t − ln d = j + λ 1 + λ 2 + λ 3 + ⋯ + λ j − λ j + 1 {\displaystyle \lim _{\epsilon \to 0}{\frac {\ln N}{\ln(1/\epsilon )}}\approx \lim _{d\to 0}{\frac {(-j\lambda _{j+1}+\lambda _{1}+\lambda _{2}+\lambda _{3}+\cdots +\lambda _{j})t}{-\lambda _{j+1}t-\ln d}}=j+{\frac {\lambda _{1}+\lambda _{2}+\lambda _{3}+\cdots +\lambda _{j}}{-\lambda _{j+1}}}} となり、j の定義より −λj + 1 = |λj + 1| なので、リアプノフ次元の定義 D L = j + λ 1 + λ 2 + λ 3 + ⋯ + λ j | λ j + 1 | {\displaystyle D_{L}=j+{\frac {\lambda _{1}+\lambda _{2}+\lambda _{3}+\cdots +\lambda _{j}}{|\lambda _{j+1}|}}} を得ることができる。 他のフラクタル次元と比較したリアプノフ次元の利点は、リアプノフスペクトラムさえ得ることができれば簡単に計算可能なことである。また、リアプノフ次元は系の情報量次元の上限を表している。
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