モデルの理論的背景
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/27 15:36 UTC 版)
「SAF2002」の記事における「モデルの理論的背景」の解説
倒産判別モデルは、アルトマン(E. I. Altman)の1968年に発表された研究が嚆矢とされ、このモデルは今日ではアルトマンのZ値と呼ばれている。アルトマンのZ値もSAF2002と同様の重回帰モデルであり、変数選択に当たっては正準判別分析を用いている。アルトマン以降今日まで、日米の倒産判別モデルに関する研究成果は数多く発表されている。モデルは、重回帰式にとどまらず、ロジスティック回帰、ノンパラメトリック、カタストロフィーさらにはブラックショールズモデルなど様々なものが提案されている。 しかし、アルトマンをはじめとするすべてのモデルに共通する欠点は、サンプル数の不足にある。アルトマン自身のモデルでは、倒産・非倒産をあわせて66件のデータからモデルが構築されている。一般的に大量の倒産データの入手はきわめて困難とされている。一方、SAF2002は、サンプル数のオーダを一挙に2桁程度上げ、9,638件のデータを利用している。このことから実証的には様々な結果を得ることができたと考えられる。 第1に、SAF2002での変数選択では、重回帰判別、正準判別のような線形判別だけではなく、ノンパラメトリックな判別法、またDecision Treeのような人工知能系の変数選択手法を組み合わせている。これは、サンプル数の多さがこのような多様な手法を可能にしていると考えられる。 第2に、モデル構築の過程ではロジスティック回帰を含む多様な非線形モデルとの判別力比較がなされており、それらのいずれも重回帰モデルを凌ぐことがないという点が明らかにされている。非線形モデルは、局所的には高い適合性を示しても多様な局面での適合性を持たないという非線形モデルならではの問題点を明らかにしている。とりわけ2値ロジスティック回帰は元来、倒産・非倒産のような2値モデルを想定したモデルであるが、SAF2002との判別力の差は事実上無いという検証結果が提示されている。 アルトマンのZ値は今日の米国でも高く評価され、また実際に利用されているが、なぜ40年も前のモデルが現代の企業にも適合的であるかについては、アルトマン自身も明らかにできなかった理論的な問題である。SAF2002の研究は、また同時にアルトマンに対する理論的根拠を与えている。
※この「モデルの理論的背景」の解説は、「SAF2002」の解説の一部です。
「モデルの理論的背景」を含む「SAF2002」の記事については、「SAF2002」の概要を参照ください。
- モデルの理論的背景のページへのリンク