チョウチョウウオ科とは? わかりやすく解説

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チョウチョウウオ科

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/09/21 05:37 UTC 版)

チョウチョウウオ科
チョウチョウウオ科とキンチャクダイ科の様々な魚
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
: スズキ目 Perciformes
亜目 : スズキ亜目 Percoidei
: チョウチョウウオ科 Chaetodontidae
下位分類群
本文参照

チョウチョウウオ科 (チョウチョウウオか、Chaetodontidae) は、スズキ目スズキ亜目に属する。世界中の暖かい海のサンゴ礁などに約130種以上が生息し、日本近海でも53種が見られる[1][注釈 1]。木の葉のように丸くて薄い体型をしており、鮮やかな色彩をもつものが多い。英語ではButterflyfish(バタフライフィッシュ)と呼ばれる。また、チョウチョウウオの名の由来は「サンゴ礁のなかをひらひらと泳ぐ様」を「お花畑をひらひらと飛ぶチョウ」の姿に準えたものである。この科は種類も多く、人気の高い観賞魚の仲間であり、今日では多くの種が観賞魚として流通している。

科の学名 Chaetodontidae は、ギリシア語のchaiteodous に由来し、それぞれ「髪の毛」、「歯」を意味する。本科の魚の口には毛のような歯が生えており、これを表したものであろう。キンチャクダイ科 Pomacanthidae に近縁だが、本科は鰓蓋に棘がないことで区別される。

形態

チョウチョウウオ属の化石

本科の仲間は小型で、最大のニセフウライチョウチョウウオ Chaetodon lineolatusでも30 cm程度にしかならない。ほとんどの種がサンゴ礁や岩礁での生活に適応し、サンゴや岩の隙間を自在に遊泳できるよう左右に扁平(側扁体型)な体形を持つ。尖った口吻を持つ種類が多く、これは微小なプランクトンや狭い隙間に潜む小動物などを餌とする生態に対応する(下記「食性によるグループ分け」参照)。横から見た形は円盤形で、背鰭と臀鰭(しりびれ)が後方まで延長し、尾鰭と接近する。様々な模様のものが多く中には似たような模様のものまでいる。鮮やかに彩られた体の模様は、同種個体間でのコミュニケーションに役立っているという。また、多くの種では体の後方に目玉模様(アイ・スポット)を備え、捕食者に目(頭部)の位置を錯誤させることで生存上有利に作用していると考えられる。本当の眼は黒い帯状模様に隠れていることが多い。また、本科は食性により大きく3つに分けられる。

  1. 雑食性(小型の甲殻類、サンゴのポリプ、コケなどの植物質のものなど様々なものを口にする)
    アケボノチョウ、アミチョウ、アミメチョウ、イッテンチョウ、オニハタタテダイ、カガミチョウ、ゲンロクダイ、コクテンカタギ、ゴマチョウ、シラコダイ、スダレチョウ、セグロチョウ、チョウチョウウオ、チョウハン、ツキチョウ、テングチョウ、トゲチョウ、ニセフウライチョウ、ハタタテダイ、ヒメフウライチョウ、フウライチョウ、フエヤッコダイ、ベニオチョウ、ミゾレチョウ、ムレハタタテ、ユウゼン、レモンチョウ、インディアンバタフライフィッシュ、ゴールデン・バタフライフィッシュ、ブルーストライプド・バタフライフィッシュなど……吻が尖がっている。
  2. ポリプ食性(サンゴのポリプを主食とする)
    ウミヅキチョウ、オウギチョウ、スミツキトノサマダイ、トノサマダイ、ハクテンカタギ、ハナグロチョウ、ミカドチョウ、ミスジチョウ、ミナミハタタテ、ヤスジチョウ、ヤリカタギ、ゴールデン・ストライプド・バタフライフィッシュ、レインフォーズ・バタフライフィッシュなど……吻はそれほど尖がっていない。
  3. プランクトン食性(プランクトンを主食とする)
    カスミチョウ、トンプソン・バタフライ、ブラックピラミッド・バタフライなど……雑食性ほどではないが吻が若干尖がっている。
  4. 食性不明(何を口にするか不明なもの)
    ウラシマチョウ、オブリーク・バタフライフィッシュなど……吻が尖っている。

生態

浅瀬のサンゴ礁で一生を過ごすが、中にはウラシマチョウチョウウオ Prognathodes guyotensisなど深海でしか見つかっていない種もいる。餌はサンゴのポリプや動物プランクトン海綿、その他の無脊椎動物などである。他の魚の体表についている寄生虫を食べるクリーニング行動を行う種も知られている。昼行性で、夜はサンゴや岩の陰に隠れて眠る。また、昼夜で体色や模様が変化することが知られ、夜間の体色・模様は鮮やかではなく黒ずんでいる。

本科の仔魚はトリクティス幼生と呼ばれ、頭部の骨が大きく張り出してをかぶったような独特の体型をしている。成長すると変態し、頭蓋骨は普通の大きさになる。

地球温暖化の影響

サンゴ礁のチョウチョウウオは、地球温暖化による海水温の上昇とそれに伴う熱ストレスを回避するために温帯海域へ移動することがある[4]。特にポリプ食性のチョウチョウウオは、地球温暖化によるサンゴの白化と熱ストレスの影響を受けやすい[5]

日本でも、東京湾で11月になっても生存しているチョウチョウウオの幼魚が発見されている[6]

分類

チョウチョウウオ科 Chaetodontidae は12属133種を含む。

チョウチョウウオ属

チョウチョウウオ属 Chaetodon - 87種[7]タイプ種はFoureye butterflyfish Chaetodon capistratus[8]。チョウチョウウオ科の中で最大の属である。

ハタタテダイ属

ハタタテダイ属 Heniochus - 8種[9]。タイプ種はハタタテダイ[8][注釈 2]

ハシナガチョウチョウウオ属

ハシナガチョウチョウウオ属 Chelmon - 3種[10]。タイプ種はハシナガチョウチョウウオ[8][注釈 3]

タキゲンロクダイ属

タキゲンロクダイ属 Coradion - 3種[11]。タイプ種はキスジゲンロクダイ[8][注釈 4]

フエヤッコダイ属

フエヤッコダイ属 Forcipiger - 3種[12][13]。タイプ種はオオフエヤッコダイ[8][注釈 5]

カスミチョウチョウウオ属

カスミチョウチョウウオ属 Hemitaurichthys - 4種[14]。タイプ種はカスミチョウチョウウオ[8][注釈 6]

ゲンロクダイ属

ゲンロクダイ属 Roa - タイプ種はRoa excelsa[8]

テンツキチョウチョウウオ属

テンツキチョウチョウウオ属 Parachaetodon - 1種[15]

ウラシマチョウチョウウオ属

ウラシマチョウチョウウオ属 Prognathodes - 13種[16]。タイプ種はLongsnout butterflyfish Prognathodes aculeatus[8][注釈 7]

Amphichaetodon属

Amphichaetodon 属 - 2種[17]。タイプ種はAmphichaetodon melbae[8]

Johnrandallia属

Johnrandallia 属 - 1種[18]

Chelmonops属

Chelmonops 属 - 2種[19]。タイプ種はChelmonops truncatus[8][注釈 8]

人とのかかわり

食用として利用されることは少ない。ほとんどの場合、観賞魚として利用されるが、海水魚の中でも餌付けが難しい種類が多い。個体の大きさ(生育段階)や食性によっては、人工配合飼料だけでは飼育できない場合もある。以下に代表的な種を食性別に分けた。食性と飼育の難易度は概ね対応する。

雑食性グループ(小型の甲殻類、サンゴのポリプ、コケなどの植物質のものなど様々なものを口にする)
アケボノチョウ、アミチョウ、アミメチョウ、イッテンチョウ、オニハタタテダイ、カガミチョウ、ゲンロクダイ、コクテンカタギ、ゴマチョウ、シラコダイ、スダレチョウ、セグロチョウ、チョウチョウウオ、チョウハン、ツキチョウ、テングチョウ、トゲチョウ、ニセフウライチョウ、ハタタテダイ、ヒメフウライチョウ、フウライチョウ、フエヤッコダイ、ベニオチョウ、ミゾレチョウ、ムレハタタテ、ユウゼン、レモンチョウ、インディアンバタフライフィッシュ、ゴールデン・バタフライフィッシュ、ブルーストライプド・バタフライフィッシュなど……雑食性の種は比較的環境に馴れると人工餌も口にする。そのため、このグループの種は飼育しやすい初級者向けに分類される。中でもアケボノチョウとミゾレチョウは特に餌付けが容易なので飼育しやすい入門種といえるが、ハシナガチョウのようになかなか餌付かない種もいる。

ポリプ食性グループ(主にサンゴのポリプを主食とする)
ウミヅキチョウ、オウギチョウ、スミツキトノサマダイ、トノサマダイ、ハクテンカタギ、ハナグロチョウ、ミカドチョウ、ミスジチョウ、ミナミハタタテ、ヤスジチョウ、ヤリカタギ、ゴールデン・ストライプド・バタフライフィッシュ、レインフォーズ・バタフライフィッシュなど……このグループの種はサンゴを与えないと飼育が難しい場合が多い。また、色彩も鮮やかな種もこのグループには多い。しかし、サンゴは高価なので経済的に悪い上、環境保全上の問題もある。但し、種によっては殻付きアサリを与えると餌付くので、徐々に人工餌に馴らせることもできる。このグループの種はどの種も難しい上級者向けに分類される。スミツキトノサマダイに関しては個体により人工餌を食べる場合もある。

プランクトン食性グループ(プランクトンを主食とする)
カスミチョウ、トンプソン・バタフライ、ブラックピラミッド・バタフライなど……このグループの種は細かい粒状の人工配合飼料を水流に乗せて与えると食べる。難しそうだが、比較的飼育しやすい中級者向けに分類される。しかし、このグループは小さく種類も少ない。また、入荷も少ないので、価格も比較的高めである。

食性不明グループ(何を口にするか不明なもの)
ウラシマチョウ、オブリーク・バタフライフィッシュなど……このグループの種は深場に生息する種が多く、観察される機会が少ない。水槽で飼育されたことがないものもいる。そのため、飼育の難易度は不明に分類される。

なお、上にあげた全ての種に上記の説明が常に当てはまるわけではなく、個体や種により、雑食性なのにポリプ専食だったり、生息環境が特殊で深いところや汽水のようなところだったり、もともと食べているものが特殊だったり、といった例外があることには注意すべきである。

脚注

注釈

  1. ^ 和名がついているものは51種、和名がついていない2種はBurgess' butterflyfish Chaetodon burgessi久米島で記録あり[2])とThompson's butterflyfish Hemitaurichthys thompsoni小笠原諸島で記録あり[3])である。
  2. ^ Chaetodon macrolepidotusはハタタテダイのシノニムである。
  3. ^ Chaetodon rostratusはハシナガチョウチョウウウオのシノニムである。
  4. ^ Chaetodon chrysozonusはキスジゲンロクダイのシノニムである。
  5. ^ Chaetodon longirostrisはオオフエヤッコダイのシノニムである。
  6. ^ Chaetodon polylepisはカスミチョウチョウウオのシノニムである。
  7. ^ Chelmo peltaはLongsnout butterflyfish Prognathodes aculeatusのシノニムである。
  8. ^ Chaetodon truncatusはEastern talma Chelmonops truncatusのシノニムである。

出典

  1. ^ 中村(2003), p. 7.
  2. ^ 中村(2003), p. 96.
  3. ^ undefined. 2010. Hemitaurichthys thompsoni. The IUCN Red List of Threatened Species 2010: e.T154788A4633577. doi:10.2305/IUCN.UK.2010-4.RLTS.T154788A4633577.en. Accessed on 09 June 2022.
  4. ^ Jodie L. Rummer & Scott F. Heron (2022年3月21日). “Adapt, move, or die: repeated coral bleaching leaves wildlife on the Great Barrier Reef with few options” (English). The Conversation. https://theconversation.com/adapt-move-or-die-repeated-coral-bleaching-leaves-wildlife-on-the-great-barrier-reef-with-few-options-179570 2024年9月21日閲覧。 
  5. ^ Jennifer M.T. Magel & Julia K. Baum (2020年5月21日). “Marine heat waves spell trouble for tropical reef fish — even before corals die” (English). The Conversation. https://theconversation.com/marine-heat-waves-spell-trouble-for-tropical-reef-fish-even-before-corals-die-137383 2024年9月21日閲覧。 
  6. ^ 地球温暖化から日本を守る 適応への挑戦”. 環境省. p. 4 (2012年). 2024年9月21日閲覧。
  7. ^ Froese, Rainer, and Daniel Pauly, eds. (2013). Species of Chaetodon in FishBase. March 2013 version.
  8. ^ a b c d e f g h i j Richard van der Laan & Ron Fricke. “Eschmeyer's Catalog of Fishes”. California Academy of Sciences. 2021年8月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年6月8日閲覧。
  9. ^ Froese, Rainer, and Daniel Pauly, eds. (2013). Species of Heniochus in FishBase. March 2013 version.
  10. ^ Froese, Rainer, and Daniel Pauly, eds. (2013). Species of Chelmon in FishBase. March 2013 version.
  11. ^ Froese, Rainer, and Daniel Pauly, eds. (2013). Species of Coradion in FishBase. March 2013 version.
  12. ^ Froese, Rainer, and Daniel Pauly, eds. (2013). Species of Forcipiger in FishBase. March 2013 version.
  13. ^ a b Allen, G.R. & Erdmann, M.V. (2012): Reef Fishes of the East Indies. Volumes I-III. Tropical Reef Research, Perth, Australia. 1292pp. Universitiy of Hawai'i Press. ISBN 978-0-9872600-0-0
  14. ^ Froese, Rainer, and Daniel Pauly, eds. (2013). Species of Hemitaurichthys in FishBase. March 2013 version.
  15. ^ Froese, Rainer, and Daniel Pauly, eds. (2013). Species of Parachaetodon in FishBase. March 2013 version.
  16. ^ Froese, Rainer, and Daniel Pauly, eds. (2013). Species of Prognathodes in FishBase. March 2013 version.
  17. ^ Froese, Rainer, and Daniel Pauly, eds. (2013). Species of Amphichaetodon in FishBase. March 2013 version.
  18. ^ Froese, Rainer, and Daniel Pauly, eds. (2013). Species of Johnrandallia in FishBase. March 2013 version.
  19. ^ Froese, Rainer, and Daniel Pauly, eds. (2013). Species of Chelmonops in FishBase. March 2013 version.

参考文献

  • 中村庸夫『チョウチョウウオガイドブック』TBSブリタニカ、2003年、pp. 7,96頁。ISBN 4-484-03404-2 

関連項目


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