シュレーディンガー‐の‐はどうほうていしき〔‐ハドウハウテイシキ〕【シュレーディンガーの波動方程式】
読み方:しゅれーでぃんがーのはどうほうていしき
シュレーディンガー方程式
シュレーディンガー方程式(シュレーディンガーほうていしき、英: Schrödinger equation)とは、物理学の量子力学における基礎方程式である。その名前は、提案者であるオーストリアの物理学者エルヴィン・シュレーディンガーにちなむ。1926年にシュレーディンガーは量子力学の基礎理論に関する一連の論文を提出した[1]。
シュレーディンガー方程式の解は一般的に波動関数または状態関数とも呼ばれる。シュレーディンガー方程式は、ある状況の下で量子系(電子など量子力学で取り扱う対象)が取り得る量子状態を決定し、それが時間的にどう変化していくかを記述する。あるいは、波動関数を量子系の状態を表すベクトルの成分と見た場合、シュレーディンガー方程式は状態ベクトルの時間発展方程式に置き換えられる。この場合は波動関数を用いた場合と異なり物理量の表現によらないため、より一般的である。
シュレーディンガー方程式では、波動関数や状態ベクトルによって表される量子系の状態が時間とともに変化するという見方をする。この考え方はシュレーディンガー描像と呼ばれる。
分類
シュレーディンガー方程式はその形式によっていくつかの種類に分類される。
ひとつの分類は時間依存性で、時間に依存するシュレーディンガー方程式と時間に依存しないシュレーディンガー方程式がある。時間に依存するシュレーディンガー方程式(英: time-dependent Schrödinger equation; TDSE)は、波動関数の時間的変化を記述する方程式であり、波動関数の変化の仕方は波動関数にかかるハミルトニアンによって決定される。解析力学におけるハミルトニアンは系のエネルギーに対応する関数だったが、量子力学においてはエネルギー固有状態を決定する作用素[注 1]である。 時間に依存しないシュレーディンガー方程式(英: time-independent Schrödinger equation; TISE)はハミルトニアンの固有値方程式である。時間に依存しないシュレーディンガー方程式は、系のエネルギーが一定に保たれる閉じた系に対する波動関数を決定する。
シュレーディンガー方程式のもう1つの分類として、方程式の線型性がある。通常、線型なシュレーディンガー方程式は単にシュレーディンガー方程式と呼ばれる。線型なシュレーディンガー方程式は斉次方程式であるため、方程式の解となる波動関数の線型結合もまた方程式の解となる。 非線型シュレーディンガー方程式(英: non-linear Schrödinger equation; NLS)は、通常のシュレーディンガー方程式におけるハミルトニアンにあたる部分が波動関数自身に依存する形の方程式である。シュレーディンガー方程式に非線型性が現れるのは例えば、複数の粒子が相互作用する系について、相互作用ポテンシャルを平均場近似することにより一粒子に対するポテンシャルに置き換えることによる。相互作用ポテンシャルが求めるべき波動関数自身に依存する一体ポテンシャルとなる場合、方程式は非線型となる(詳細は例えばハートリー=フォック方程式、グロス=ピタエフスキー方程式などを参照)。本項では主に線型なシュレーディンガー方程式について述べる。
時間に依存するシュレーディンガー方程式
シュレーディンガー描像では、量子系の時間的変化はその量子系の状態ベクトルや波動関数がその情報を持っていると考える。量子系の状態ベクトルおよび波動関数の時間的変化は、時間に依存するシュレーディンガー方程式によって記述される。状態ベクトル |ψ(t)⟩[注 2]に関するシュレーディンガー方程式は一般に以下のように表される。
シュレーディンガー方程式を解くと、その系の波動関数がどのように時間発展するかがわかる。
しかしシュレーディンガー方程式は、直接的に波動関数が正確に「何であるか」を語るわけではない。量子力学の解釈は全く別問題であり、「波動関数の根底にある現実と実験結果の間にある関係とは何か」というような問題を扱う。
コペンハーゲン解釈では、波動関数は物理系の完全な情報を与える。
重要な側面は、シュレーディンガー方程式と波動関数の収縮の関係である。
最初期のコペンハーゲン解釈では、粒子は波動関数の収縮の間を「除いて」シュレーディンガー方程式に従い、波動関数の収縮の間は全く異なる動きをする。
量子デコヒーレンスの出現は、別のアプローチ(エヴェレットの多世界解釈のような)を可能にした。それらではシュレーディンガー方程式が常に満たされ、波動関数の収縮はシュレーディンガー方程式から説明される。
後述する時間に依存しないシュレーディンガー方程式を満たす状態ベクトル |ψ⟩ として、
シュレーディンガー方程式の具体的な形は、適当なポテンシャルを決定することで得られる。ポテンシャルは粒子に付随する基本的な変数の関数として与えられる。ただし一般にはポテンシャルの変数は物理量の演算子であり、通常の意味での関数とは異なる。ポテンシャルの変数となる物理量はたとえば粒子の位置であり、スピンである。ポテンシャルは、外界から及ぼされる相互作用と対象とする量子系の粒子間に働く相互作用の二つがある。古典論と同じく一体のポテンシャルは、多体間ポテンシャルを何らかの意味で平均化したものと考えることができる。例えば原子核および内殻電子から外殻電子に及ぼされるクーロン相互作用は、原子核や内殻電子の運動が外殻電子の運動にほとんど影響を受けないならば、原子核と内殻電子に関係するポテンシャルの変数は固定され、二体間ポテンシャルを一体のポテンシャルに置き換えることができる。多体間ポテンシャルの例として最も基本的なものは粒子間のクーロン相互作用およびスピン相互作用である。応用上では有限の井戸型ポテンシャルやレナード-ジョーンズ・ポテンシャルなども利用される。
粒子系のハミルトニアンは前述のポテンシャルの他に、一般には粒子の運動エネルギーが加えられたものになる。具体的なハミルトニアンから波動関数を得るには、物理量の交換関係に従い物理量演算子の表現を決め、得られたハミルトニアンをシュレーディンガー方程式に適用し、その解を求める。
例えば以下の方程式は、位置演算子を掛け算演算子とした場合の一体のポテンシャルに対する一粒子の運動を表す。
時間に依存しないシュレーディンガー方程式に対して、磁場のない一粒子系のハミルトニアン
ポテンシャルが一定V = V 0 の場合、シュレーディンガー方程式の解はエネルギーが古典的に許されるかどうかによって異なり、E > V 0 のときは振動解、E < V 0 のとき指数解になる。振動解では粒子は古典的に許されたエネルギーを持ち、解は実際の古典的な運動に対応する。一方で指数解では粒子は古典的に許されないエネルギーを持ち、トンネル効果のため、古典的に許されない領域へも波動関数が滲むことを記述する。ポテンシャルV 0 が無限に大きい場合、運動は古典的な有限の領域に制限される。つまり、全ての解は充分遠方では指数的減少となり、エネルギー準位は、allowed energies (許容準位)と呼ばれる離散集合に制限される[10]。
調和振動子のシュレーディンガー方程式は
代表的な解
具体例
調和振動子
粒子の波動性

非相対論的なシュレーディンガー方程式は波動方程式とも呼ばれる偏微分方程式の一種である。そのためよく粒子は波として振る舞うのだと言われる。現代の多くの解釈ではこの逆に、量子状態(つまり波)が純粋な物理的実在であり、ある適切な条件の下では粒子としての性質を示すのだとされる。
二重スリット実験は、通常は波が示す、直感的には粒子と関連しない奇妙な振る舞いの例として有名である。ある場所では二つのスリットから来た波同士が打ち消し合い、別の場所では強め合うことで、複雑な干渉縞が現れる。直感的には1個の粒子のみを打ち出した時には、どちらかのスリットのみを通り両方のスリットからの寄与の重ね合わせにならないため、干渉縞は現れないように感じられる。
ところが、シュレーディンガー方程式は波動方程式であるから、一粒子のみを二重スリットに打ち出した時にも同じ干渉縞が「現れる」(左図)。なお、干渉縞が現れるためには実験を繰り返し何度も行う必要がある。このように干渉縞が現れるという事は個々の電子が「両方」のスリットを同時に通る事を示している[19][20][21]。直感と反する事ではあるが、この予言は正しく、この考えで電子回折や中性子回折をよく理解でき、科学や工学で広く使われている。
回折の他に、粒子は重ね合わせや干渉の性質を示す。重ね合わせの性質によって、粒子は古典的には異なる 2 つ以上の状態を同時にとる事ができる。例えば、粒子は同時に複数のエネルギーを持つことや、異なる場所に同時にいる事ができる。二重スリットの実験の例では 2 つのスリットを同時に通ることができるのである。古典的なイメージに反する事ではあるがこの重ね合わせ状態は一つの量子状態のままである。
線型性と平面波
最も単純な波動関数は平面波である: