クローニングと人工合成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/18 09:46 UTC 版)
「ポリオウイルス」の記事における「クローニングと人工合成」の解説
1981年にRacanielloとボルティモアは遺伝子組み換え技術を用いて動物のRNAウイルスの感染性のクローンを生み出すことに初めて成功している。この時に作製されたのがポリオウイルスであり、ポリオウイルスのRNAゲノムをコードするDNAを培養ほ乳類細胞に導入する事で、感染性のポリオウイルスが産生された。感染性クローンの作製はポリオウイルスの理解を進め、この技術は様々なウイルス研究の場で標準的な技術となった。 2002年にはニューヨーク州立大学ストーニーブルック校のEckard Wimmerらのグループが化学的なコードから培養細胞を利用せずにポリオウイルスを人工合成することに成功している。これは世界初の人工合成ウイルスの作製であり、同時に初の合成ゲノムの報告でもある。彼らはまず既知の7741塩基長のポリオウイルスRNAゲノム配列を、人工合成が比較的容易なDNAの配列に変換した。ポリオウイルスゲノムの合成は以下の方法によってなされた。まず、DNA配列を分断化した数十塩基長の短いDNA断片を発注し、これを組み合わせて多数の400 - 600塩基長の配列を作製する。さらにこれを切り貼りする事で約2 - 3 キロ塩基長の断片を3つ作製、この3つの断片をDNA合成会社が組み合わせて完全長のポリオウイルスゲノムを合成した。この丹念なウイルス合成の全工程には2年を要している。人工ポリオウイルスと野生型と区別するためには19のマーカーが合成DNAに組み込まれた。合成DNAは酵素によってRNAへ変換され、さらに別の酵素を利用してRNAから機能的ウイルス粒子を産生するためのポリペプチドが翻訳された。新たに合成されたウイルスはPVRマウスへ接種され、人工的に合成されたウイルスが感染性を持つか試験された。合成ウイルスはマウス体内で増殖も感染も可能であり、さらにマウスに対し麻痺や死を引き起こす事も可能であった。ただし、合成ウイルスは基のウイルスと比べ1,000倍から10,000倍病原性が低下していた。
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