イガイ属とは? わかりやすく解説

イガイ属

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/16 21:52 UTC 版)

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イガイ属
ヨーロッパイガイ
分類
: 動物界 Animalia
: 軟体動物門 Mollusca
: 二枚貝綱 Bivalvia
亜綱 : 翼形亜綱 Pteriomorphia
: イガイ目 Mytiloida
: イガイ科 Mytilidae
: イガイ属 Mytilus
学名
Mytilus Linnaeus1798

イガイ属 (イガイぞく、Mytilus) はイガイ科に属する二枚貝の一つ。イガイやいわゆるムール貝が属し、多くの種が食用に供される。

分類

和名については混乱がある。ムラサキイガイはヨーロッパ原産の日本への移入種につけられた和名だが、当初、日本への移入種は Mytilus edulis と誤って同定されており、ムラサキイガイ = Mytilus edulis とされていた時期があった。その後、ムラサキイガイ = Mytilus galloprovincialis だったことが判明している。

ヨーロッパイガイ、ムラサキイガイ、キタノムラサキイガイの3種は、生息域が近接しており、遺伝的・形質的にも近いため、同定が困難であり、ムラサキイガイ類[1][2]、ヨーロッパイガイ複合種(Mytilus edulis complex[3][4]などと呼ばれる。

チリイガイ(Mytilus chilensis Hupé, 1854)は、近年の研究ではヨーロッパイガイに含められる[5]

他にも南半球に未同定の個体群がいくつかあるが、北半球からの外来個体群の可能性もある[6]

ムール貝

フランス語のムール (moule) は、イガイ科全般を広く意味する言葉である。英語のマッスル (mussel) はイガイ科およびイシガイ目、カワホトトギス科をも含む名称である。

日本ではムール・ムール貝は、主にムラサキイガイ[7][8][9][10]、あるいはヨーロッパイガイ[11][2]、あるいはその双方[12][13]とされる。

種ごとの違い

類似種が多く変異も大きいため、ムラサキイガイ類の分類は原産地のヨーロッパでも混乱していた時期が長い。日本のムラサキイガイも昭和初期に移入が確認されて以来、ヨーロッパイガイ (Mytilus edulis) と誤認され続け、そのため文献などでもムラサキイガイの学名を M. edulis とする時期が長かった。しかし2000年前後以降、タンパク質などの比較などからヨーロッパの種が整理され、同時に日本産の種の研究も進んだ結果、本州を中心に見られるムラサキイガイは 地中海原産の Mytilus galloprovincialis であるとされるに至った。

また、かつては日本のものは全て外来として扱われてきたが、北海道の一部の個体群は Mytilus trossulus という在来種であるとされ、キタノムラサキイガイという和名で区別されるようになった。したがって日本に生息するムラサキイガイ類はムラサキイガイとキタノムラサキイガイの2種ということになる。両種は殻内面の筋痕(貝柱の痕)と外套膜痕の位置関係で区別できるとされるが、北海道の一部では両種の交雑個体らしいものも見られるという。

以上を整理し、関連種をいくつか追加すると以下のようになる。

ムラサキイガイ Mytilus galloprovincialis Lamarck1819
地中海原産。現在では世界中の温帯域に分布する。これらは、バラスト水に含まれる浮遊幼生や船底・船荷などに付着した個体などによって拡がったものと考えられている。日本では北海道南部以南に外来種として分布。別名チレニアイガイ。産卵期は秋-冬。付着期は春。
キタノムラサキイガイ Mytilus trossulus Gould1860
日本では北海道の太平洋岸のみに分布する在来種。他にロシア極東部、北アメリカ西岸、東岸北部(メイン湾が南限)など太平洋、大西洋の、ほぼ北緯45度以北に分布する北方系の種。ムラサキイガイほどには大きくならないことが多い。
ヨーロッパイガイ Mytilus edulis Linnaeus1758
日本には棲息していないとされる。ヨーロッパ(主として地中海以外)、北米などに分布。産卵期は初夏-夏。付着期は秋。学名の edulis は「食用の」の意で、ヨーロッパでは盛んに食用利用されることによる。日本に移入されたムラサキイガイは、長い間本種であると誤認されていた。
チリイガイ(ヨーロッパイガイの亜種) Mytilus edulis chilensis (Hupé, 1854)
チリ沿岸全域とアルゼンチン南端部に分布。分布がヨーロッパイガイのそれと大きく隔たっており、しばしば独立種としても扱われる。片殻をはずしたものが食材として日本に輸入されることもある。
イガイ Mytilus coruscus Gould1861
日本のほか朝鮮半島、中国などの極東域に分布する在来種。時に 20cm 以上になる大型種。食用。いわゆるムラサキイガイ類でないが、小型個体ではムラサキイガイとの区別が難しい。ムラサキイガイ類に比べ潮通りの良い深い場所に生息するが、生息域は部分的に重なることもある。1741年ベーリングによる探検隊に参加してカイアック島を調査したシュテラーは、そこに住むエスキモーが、カムチャダールトリンギットと同じように生でイガイを食べていることを確認している[14]

食材

主にヨーロッパ各地の料理で利用される。料理法としてはペスカトーレパエリアブイヤベースワイン蒸しなどがある。特にフランス料理イタリア料理スペイン料理など南ヨーロッパで多用される。またベルギーのムール貝料理は有名で、タマネギリーキとともに蒸し煮にしたムール・マリニエール (Moules Marinière)・「ムール貝のビール煮」という郷土料理がある。トルコにはムール貝の外套膜の中に詰め物をしたミディエ・ドルマス(midye dolması、「ムール貝のドルマ」)という料理があり、メゼとして供される。

日本では、伝統的にイガイが利用されるほか、ムラサキイガイがイガイと同様に利用されることもある。

出典

  1. ^ ムラサキイガイに関する海洋環境研究 調査研究報告書 資料 - 国際海洋科学技術協会
  2. ^ a b 高柳和史; 坂見知子 (2002), “沿岸海域の重金属汚染モニタリングに向けた指標生物候補としての二枚貝の特性―総説―”, 水研センター研報 (2): 35 –46, http://www.fra.affrc.go.jp/bulletin/bull/bull02/takayanagi.pdf 、ただし和名が本稿と異なるので注意
  3. ^ Inoue, K.; et al. (1997), “A possible hybrid zone in the Mytilus edulis complex in Japan revealed by PCR markers”, Marine Biology 128 (1), doi:10.1007/s002270050072 
  4. ^ Innes, D. J. (1999), “Morphological variation of Mytilus edulis and Mytilus trossulus in eastern Newfoundland”, Marine Biology 133: 691–699, doi:10.1007/s002270050510 
  5. ^ Toro, J.E.; et al. (2005), “Molecular characterization of the Chilean blue mussel (Mytilus chilensis Hupe 1854) demonstrates evidence for the occurrence of Mytilus galloprovincialis in southern Chile”, Journal of Shellfish Research 24 (4): 1117–1121, doi:10.2983/0730-8000(2005)24[1117:MCOTCB]2.0.CO;2 
  6. ^ Geller, Jonathan; Braby, Caren (2008), Using Biotechnology and Bioinformatics to Track a Marine Invader, http://www.marinebiotech.net/2008_CD/2_Presentations/Tracking_Mussels_08.ppt 
  7. ^ 魚介類の名称表示等について 別表1 - 水産庁
  8. ^ OPRFニューズレター第171号 海の外来生物―招かざる客と招いた客 - 海洋政策研究財団
  9. ^ あわしま図鑑 - あわしまマリンパーク
  10. ^ 要注意外来生物リスト:無脊椎動物(詳細) - 環境省
  11. ^ 森岡裕詞、「英国メナイ海峡におけるヨーロッパイガイの餌料環境に関する研究」『東京大学大学院新領域創成科学研究科 修士論文』 学位記番号 修創域第3003号, 2009年
  12. ^ ムラサキイガイに関する海洋環境研究 調査研究報告書 2. ムラサキイガイ(ムール貝)は日本にいつ来たか - 国際海洋科学技術協会 梶原武
  13. ^ 江戸川放水路の無脊椎動物 ~二枚貝類~
  14. ^ L.ベルグ『カムチャツカ発見とベーリング探検』龍吟社、1942年、P.245。

「イガイ属」の例文・使い方・用例・文例

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