ほ乳類とレトロウイルスの進化的軍拡競争:APOBEC3遺伝子
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/11 20:04 UTC 版)
「ウイルスの進化」の記事における「ほ乳類とレトロウイルスの進化的軍拡競争:APOBEC3遺伝子」の解説
内在性レトロウイルス(ERV)は、宿主のゲノムに残るウイルス感染の痕跡であり、哺乳類においてゲノムの大きな割合を占めることから、哺乳類の祖先はレトロウイルス感染にさらされてきたと考えられる。哺乳類は、レトロウイルス感染に対抗するためにウイルス感染防御機構を進化させてきた。 このような感染防御を担う遺伝子にAPOBEC3遺伝子(Apolipoprotein B mRNA editing enzyme, catalytic polypeptide-like 3)がある。APOBEC3遺伝子は、核酸のシトシンのアミノ基を脱アミノ化し、ウラシルへと転換する酵素である。レトロウイルスの複製の逆転写過程において合成されるマイナス鎖(ナンセンス鎖)のウイルスゲノム中のシトシンをウラシルに変異させることにより、プラス鎖(センス鎖)のウイルスゲノムにグアニンからアデニンへの変異を蓄積させる。こうしてウイルス遺伝子にミスセンス変異、ナンセンス変異が挿入され、ウイルス遺伝子の機能が失われることにより、ウイルス感染を阻害する。 ほ乳類の進化においてAPOBEC3ファミリー遺伝子は遺伝子重複により多様化してきたが、これはレトロウイルスの複製・増殖を抑制するために引き起こされた可能性が考えられる。 2019年12月、東京大学医科学研究所感染症国際研究センター システムウイルス学分野の佐藤准教授らは、160種のほ乳類ゲノム配列のメタ解析により、過去に大量のレトロウイルス感染を経験したと思われる種ほど多様なAPOBEC3遺伝子を持っていることが明らかとなった。これにより、APOBEC3ファミリー遺伝子とレトロウイルスが、ほ乳類の進化の過程において、進化的軍拡競争を繰り広げ、共進化してきたことが強く示唆された。
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