その他の官能基の保護
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/08 08:01 UTC 版)
「ペプチド合成」の記事における「その他の官能基の保護」の解説
多くのアミノ酸には側鎖にも官能基があり、これが副反応の原因となるため保護しなくてはならない。これらの保護基は合成終了時に強酸による処理で一度に除去することが多い。 リジン側鎖のアミノ基、グルタミン酸側鎖やアスパラギン酸側鎖のカルボキシ基には上で述べた保護基を適切に選択して用いる。 セリンやトレオニンのアルコール性ヒドロキシ基はベンジル基やtert-ブチル基で保護する。ベンジル基はフッ化水素酸処理や水素化、tert-ブチル基はトリフルオロ酢酸処理で除去できる。一方、チロシンのフェノール性ヒドロキシ基は2-ブロモベンジルオキシカルボニル (Z(2Br)) やtert-ブチル基で保護する。ベンジル基は強酸処理で芳香環上のオルト位に転位しやすいため用いない。 システインのスルフヒドリル基は4-メチルベンジル基 (Bzl(4Me))、トリチル基 (Trt)、tert-ブチル基、N-(アセチル)アミノメチル基 (Acm) などで保護する。多くの場合、システインのスルフヒドリル基は最終的にジスルフィド結合へと変換する必要がある。ジスルフィド結合させたいスルフヒドリル基のみを脱保護することで選択的に結合形成できる。例えばBzl(4Me)基は強酸で脱保護され、Acm基は強酸で脱保護されないがヨウ素で選択的に脱保護されると同時にジスルフィド結合を形成する。そこでジスルフィド結合をつくりたい2対のシステイン残基がある場合、それぞれの対をBzl(4Me)基とAcm基で保護する。まず最初に強酸でBzl(4Me)基を脱保護した後、ジスルフィド結合の形成を行うと1対目のジスルフィド結合が選択的に形成される。そのあとでヨウ素で処理すれば、もう1対のジスルフィド結合も選択的に形成することができる。 アルギニンのグアニジノ基は求核性が強いため、電子求引基であるスルホニル基を保護基として末端のアミノ窒素と縮合させて反応性を落とす。p-トルエンスルホニル基(p-Ts)などが使用される。 ヒスチジンのイミダゾール環は求核性を持ち、また塩基性によりα-炭素のエピ化を促進する。π-窒素をベンジルオキシメチル基(Bom)やtert-ブトキシメチル基 (Bum) で保護したり、τ-窒素を2,4-ジニトロフェニル基 (Dnp)、トリチル基などで保護する。なおこれらの保護基を脱保護した際に生じる副生成物はスルフヒドリル基と強い親和性を持つ。そのため、スルフヒドリル基の脱保護に先立ってまず脱保護を行う必要がある。 ペプチド結合していないアスパラギン、グルタミンのアミド基はDCCなどの縮合剤により一部が脱水されてニトリルとなる。これはフッ化水素酸などの強酸で処理すると元のアミドに戻るので保護は不要であるが、強酸を使わない場合には保護しておく必要がある。ペプチド結合してしまえば脱水は起こらないので、簡単に脱保護できる保護基が使用される。トリチル基やキサンチル基 (Xan) が用いられる。 トリプトファンのインドール環は酸処理による脱保護の際に酸化やカルボカチオンの付加を起こしやすい。そのため、N-ホルミル化を行う。ホルミル基 (For) は塩基やチオールによる処理で脱保護される。酸処理が一度しかない場合にはBoc保護でも良い。 メチオニンのスルフィド結合には、トリフルオロ酢酸処理やフッ化水素酸処理による脱保護の際にE1脱離で生じるカルボカチオンが転位してくる場合がある。これを防ぐためにスルホキシドに酸化して保護する場合がある。脱保護の際にチオアニオールなどのカルボカチオンスカベンジャーを加えるだけで保護は必要ないことが多い。
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