すれ違い
★1.慕い合う二人あるいは敵どうしが、お互いを目前にしながら会えない。
『君の名は』(菊田一夫) 昭和20年(1945)11月24日の夜8時、後宮春樹は再会を約束した数寄屋橋で、氏家真知子を待つ。しかしその2日前、真知子は伯父に連れられて、東京を離れ、佐渡へ渡ってしまった。後、真知子は東京に戻り、春樹の勤める雑誌社を訪れるが、そのわずか10分前に、春樹は編集長と口論して辞職し、社を去ったところだった。その後も2人はすれ違いを繰り返し、なかなか逢うことができない〔*小説は昭和28年(1953)までのことを描くが、最後まで、春樹と真知子は肉体的には結ばれない〕。
『桜姫東文章』「三囲堤」 清玄と桜姫とは、お家騒動の争いの混乱の中で、離れ離れになる。清玄は、桜姫の産んだ赤子を抱いて姫を捜し歩く。桜姫は「我が児に逢いたい」と神仏に祈る。2人は三囲堤で偶然行き合うが、暗闇の中ゆえお互いをそれと気づかず、別れてしまう。
『ジャン・クリストフ』(ロラン)第4巻「反抗」~第6巻「アントアネット」 ドイツの小さな町の劇場で、ジャン・クリストフとアントアネットは出会う。数日後、クリストフの乗る列車とアントアネットの乗る列車が、駅で偶然すれ違う。数分の停車時間に、2人は見つめ合う。後、パリに出たクリストフは、雑踏の向こうにアントアネットを見る。アントアネットもクリストフに気づく。しかし群集や馬車に妨げられて、互いを見失う。アントアネットはクリストフが優れた音楽家であることを知り、思慕するが、肺結核で死ぬ〔*アントアネットの弟オリヴィエがクリストフと親交を結ぶ。しかしオリヴィエも死ぬ〕→〔霊〕1b。
『大菩薩峠』(中里介山) 宇津木兵馬は兄の仇机龍之助を追って諸国を旅する。しかし、たまたま対面してもお互い気づかないとか、兵馬が龍之助の滞在地を訪れた時、一足先に龍之助は立ち去ったところだったなどで、ついに対決の機会を得ないまま、物語は途切れる。
★2.一瞬のすれ違い。
『不如帰』(徳冨蘆花)下編8の2 陸軍中将子爵片岡毅の娘・浪子は、海軍少尉男爵川島武男と結婚して睦まじく暮らすが、結核に侵され、武男の母によって離縁された。浪子は保養のため関西へ旅行し、その帰途、山科の駅ですれ違った列車の窓に、思いがけず夫武男の姿を見る。浪子は手に持ったすみれ色のハンケチを投げ、武男はそのハンケチを狂うがごとく振って呼びかける。それが2人の最後の出会いで、まもなく浪子は死ぬ。
*夫が妻に和解の電話をかけるが、その直前に、妻は夫を殺すための猟銃を持って家を出たため、話し合えなかった→〔電話〕3の『柔らかい肌』(トリュフォー)。
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