「名前」と「種族」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/10 09:33 UTC 版)
「クラテュロス (対話篇)」の記事における「「名前」と「種族」」の解説
ヘルモゲネスは、ソクラテスに反論するのは難しいが、急に説得されて意見を変えることも容易ではないので、「名前」の「本性的な正しさ」なるものが一体どういうものであるのかを、具体的に示してほしいと要請する。 そこでソクラテスは、まずはホメロスが同じ事物に対して、複数の「名前」を挙げている場合を例に、検討を始めていくことにする。神々と人間の間で事物の「呼び名」が異なっている例に関しては、(神々による「名付け」について考察することは手に余ることなので)除くことにし、人間の間で「呼び名」が異なる例として、「ヘクトールの息子」が「スカマンドリオス」「アステュアナクス」という2つの「名前」で呼ばれている例を考察することにする。 ソクラテスはまず、「スカマンドリオス」という名前が婦人たちによって使われていたのに対して、「アステュアナクス」がトロイアの男たちに使われていたことから、後者の「アステュアナクス」の方が正しい名前であると見当を付けつつ、その理由を考察し、この名前は「アステュ」(市・町)と「アナクス」(支配者・主)から付けられたものであり、『イーリアス』内で「ただ一人トロイア人の市と長大な市壁を守備する」と語られているヘクトールの息子にふさわしい名前であることを指摘する。ヘルモゲネスも同意する。 さらにソクラテスは、「ヘクトール」(所有者)と「アナクス」(支配者・主)の意味が似ていることから、このように「同じ自然的本性」を継承・共有する同種族の各個体は、異なる綴りであっても「同じ(類似した)意味の名前」で呼ばれるべきであると指摘する。ヘルモゲネスも同意する。 ソクラテスはさらに、 先の「ヘクトール」(Hektōr)や「アステュアナクス」(Astyanax)と同じく「支配者・王」に類する意味の名前の例として、「アルケポリス」(Archepolis、市を治める者)を 「将軍」に類する意味の名前として、「アギス」(指揮者)、「ポレマルコス」(戦争指導者)、「エウポレモス」(良き戦士)を 「医者」に類する意味の名前として、「イアトロクレス」(医において有名な者)、「アケシムブロトス」(人間を癒やす者)を それぞれ挙げる。 続いてソクラテスは、親子と言えども必ずしも「同じ自然的本性」を継承・共有するとは限らず、「親とは異なる自然的本性」を持った個体については、あくまでもその「自然的本性」に基づいて、それにふさわしい種族の名前が与えられるべきであること、例えば、「敬虔な人」から生まれた「不敬虔な人」には、「テオピロス」(神に愛される者)とか「ムネシテオス」(神を憶えている者)といった敬虔な名前とは反対の意味の名前が与えられるべきことを指摘する。ヘルモゲネスも同意する。
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