C-5 (航空機) 開発経緯

C-5 (航空機)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/09 22:03 UTC 版)

開発経緯

1961年アメリカ空軍C-133 カーゴマスターの後継となる大型輸送機を求め、いくつかの航空機メーカーへの開発を依頼し研究が始まる。アメリカ陸軍は、当時開発中であったC-141 スターリフターの貨物室内部構造が狭いことによる貨物の搭載制限[注 1]に不満を抱えていた。そこで、より大きな搭載量や広い貨物室を備えた輸送機の要望が後の「CX-4計画」に繋がることとなる。1962年にはC-141の拡大型であるエンジン6発搭載案が構想されたが、エンジン数を増やしても大幅な進歩が期待できないため、この計画はキャンセルされた。

1963年後半には「CX-X計画」として、エンジン4発搭載型、総重量249t(55万ポンド)積載量81.6t(18万ポンド)およびマッハ0.75(805km/h)で飛行可能であり、胴体前後に貨物ドアを備えた機体が構想され「CX-X計画」は、その後「CX-HLS計画」に名称が変更し、その仕様をもって、航空機メーカー各社に提案が求められ、ロッキード社、ボーイング社、ダグラス社、マーティン社、ジェネラル・ダイナミクス社がこの提案に応えた。不時着時に動き出した貨物に押し潰されないよう、貨物室上部に操縦席を配置、主翼後退翼を採用、後部ドアを使用した貨物搭載作業の際に障害とならないよう、尾翼はT型尾翼を採用している点など各社共に基本設計は類似していた。それらの設計案の中から、ロッキード社、ボーイング社、ダグラス社案が次の選考に進み、最終的にロッキード社案が採用されることとなる。ロッキード社のジョージア州マリエッタ工場がC-141の生産を終えて稼動施設がたまたま空いていたという理由から当時のリンドン・ジョンソン大統領の政治的判断でロッキード社に開発が委ねられることに決定した[1]。なお、ボーイング社の設計案[2]は大型機開発の技術・スタッフを転用した結果、民間向けのボーイング747へと発展している。

なお、C-5の発注機数は当初115機であったが、開発の遅れと機体価格の高騰を受けて81機に削減された。

初飛行は機体番号「66-8303」号機[注 2]1968年6月30日に行なった。試験飛行時のコールサインは「エイト スリー オー スリー ヘヴィー(eight-three O three heavy)」。 1969年12月にサウスカロライナ州、チャールストン空軍基地所属の第437空輸航空団から納入が開始された。

C-5(1970年)

開発途中でロッキード社は機体重量が予想よりも大きくなることに気付き、軍に要求仕様の変更を求めたが受け入れられず、やむを得ず主翼の厚みをギリギリまで削ることで重量を削減したが、その処置は明らかに失敗であり、納入されたC-5Aは翼の構造強度が不足していることが判明し、その時点までのC-5全生産機が翼面荷重を抑えるため、最大搭載量80%の搭載制限措置が取られた。1976年から補強改修が行われ、1982年より緊急展開軍(RDF)構想の基に新型アルミニウム合金を使用した主翼の改設計などを行った機体がC-5Bとなり、初号機がアルタス空軍基地に納入され、以後50機が生産された。

1970年代初頭にはスペースシャトル輸送機としての運用計画が存在したが、T型尾翼機であるC-5は採用に至らず、低翼機であるボーイング747が最終的に採用されることとなった。対照的にロシアでは、シャトル輸送機には高翼機であるAn-124の発展型であるAn-225が採用されている。

その他ベトナム戦争での運用や第四次中東戦争におけるアメリカ合衆国本土からイスラエルまでの緊急空輸に用いられ、1990年代には湾岸戦争に投入、高い長距離貨物輸送能力を発揮して、高い評価を受けた。

1998年からはグラスコックピット化や新型航法装置、自動操縦装置など新型アビオニクスの搭載、エンジンの換装などを含んだ大幅な近代化・延命改修が計画され、C-5の製造も担当したロッキード・マーティン社が改修契約を獲得、2008年5月から順次換装が行なわれる。改修後の機体はC-5M スーパーギャラクシー(Super Galaxy)となる。アメリカ空軍では、現在でも現役で運用されているC-5のうち52機(C-5A:1機、C-5B:49機、C-5C:2機)をC-5Mへ改造する計画であったが、その後改修対象機が追加され2015年7月時点で計約60機のC-5Mが近代化改修を受けて空軍へ引き渡されている。これらの機体は中東で10年以上続く対テロ戦争に対して、重要な戦略輸送機として活用されている[3]。また、2012年2月に公表された2013会計年度(FY 2013)予算案では、52機の改修案とあわせて改修対象とされなかった27機のC-5Aを退役させる案が示されており[4]、C-5Mへの改修が全機完了すれば、アメリカ空軍の大型長距離輸送機はC-5MとC-17 グローブマスターⅢの2形式に統一されることになる[4]

特徴

C-5 上面より

アメリカ本土から世界中どこへでもアメリカ陸軍全ての装甲戦闘車両航空機が運べ、その中には74トンの架橋戦車などの戦闘設備も含まれている。ペイロードはアメリカ軍輸送機としては最も大きく、主力戦車2両分に相当する約122トンもの貨物が搭載可能である。その大きさを生かして、1974年にはミニットマンICBMを空中から発射する試験を行った[5]

胴体は軍用輸送機として一般的に採用されている下面が広いオムスビ型である。主翼は高翼配置、後退角を採用し、角度は25度である。主翼内部には12個の翼内タンクが内蔵されており、機首上部、操縦室後方には空中給油を受けるための給油リセプタクルも装備されている。なおこのリセプタクルは機体中心線よりやや右に設けられている。尾翼はT字尾翼を採用。エンジンは、ターボファンエンジンを主翼パイロンに4基搭載している。

C-5A/Bの貨物室は幅5.8m、高さ4.1m、長さ37.0m(+ランプ部7.2m)という巨大なもので、前後にローディングランプ付の貨物扉を持つ。貨物室は積載物を降ろしつつ搭載が可能な前後貫通式である。前部と後部に油圧式大型開閉扉があり、この前後開閉扉は、搭載作業の障害にならない様、貨物室の最大幅、最大高まで開くように設計されている。降着装置は重量配分を制御するため、合計で28輪となっている。また降着装置には「ニーリング(英:kneeling/ひざまずく)システム」と呼ばれる機構があり、貨物の搭積時には着陸装置を伸縮させる事により機体の床位置を下げる事(低床化)により作業の効率化が図られており、同時に最小縮位置で運搬用トラックの荷台と同じ位置になる様設計されている。このため搭載した車両は自走で降りることが出来る。

他にもMH-53大型ヘリコプターF-16戦闘機も分解・折り畳みによって搭載が可能。ジブコ エッジ540のような小型機ならば分解せずに搭載できる。

機内の一部は2階建てとなっており、上部デッキには兵員73名が搭載可能である。なお、この上部デッキは機体重量バランスの関係上、操縦席の後方ではなく、機体後方部に位置している。

800箇所の場所を試験し、そのデータを分析、不調を検出する解析装置MADAR(Malfunction Detection Analysis And Recording/故障発見解析記録装置)システムを装備し、このデータはFRED/フレッドと呼ばれ、乗組員に周知されている。C-5は維持・整備に多大な労力を要する兵器であり、1996年の記録によると、1飛行時間(フライトアワー)ごとに、A型は46マンアワー、B型は16.7マンアワーもの整備を要していた[6]


注釈

  1. ^ 最大搭載重量に届く前に、貨物室が物理的に満室になってしまう状態が多発した
  2. ^ 後、整備作業中の火災により滅失
  3. ^ 搭載貨物の重量配分や搭載位置、搭載方法などを決定する専従担当員
  4. ^ 実際のKC-10では給油ホースから人が移動することは不可能。
  5. ^ 公開後に出版された小説や公式設定資料集における記述より

出典

  1. ^ 佐貫亦男『ジャンボ・ジェットはどう飛ぶか』より
  2. ^ Three-Views of Boeing's C-5 Proposal ボーイング社の設計案。
  3. ^ a b “Lockheed Martin Delivers Third Production C-5M Super Galaxy To U.S. Air Force” (英語) 3機目のC-5Mがアメリカ空軍に引き渡されたことを公表するロッキード・マーチン社のプレスリリース
  4. ^ a b “Defense Budget Priorities and Choices” (英語) 国防総省が公表した2013会計年度(FY 2013)に向けての予算案の概要説明冊子。9ページ目の“Mobility Aircraft Implications”(機動航空機に関する事項)の項にC-5に関する記述がある
  5. ^ http://www.youtube.com/watch?v=96A0wb1Ov9k&NR=1
  6. ^ C-5 Service Life”. 2011年7月26日閲覧。
  7. ^ “アメリカ空軍ANGからC-5Aギャラクシーが退役”. FlyTeam. (2015年6月3日). http://flyteam.jp/news/article/50719 
  8. ^ 米軍最大の航空機C5ギャラクシー、初飛行から50年”. CNN (2018年6月30日). 2018年6月30日閲覧。





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