電子
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/28 23:34 UTC 版)
電流と電子
電気伝導体内を流れる電流の担い手は、特定の原子の原子核にとらえられていない自由電子(伝導電子)である(電荷を運ぶという意味では、ホールやイオンも該当する)。特に半導体においては、伝導電子だけに注目して単に「電子」と表現することが多い(半導体素子において「電子が欠乏」と言っても、原子核だけになっている訳ではない)。
ただし、自由電子の移動する方向と電流の流れる方向は逆である。これは電気発見当時の科学者たちが電気(電流という意味としての)は+極(正極)から−極(負極)に流れると定義した後で、陰極線の発見(次項)により、自由電子の移動する方向は−極(負極)から+極(正極)であることが確かめられたのだが、電流は+極から−極に流れるということはすでに慣例となってしまっていたため、電流と自由電子の流れは逆と定義した事による。
陽電子
反粒子に陽電子 (Positron) がある。陽電子はプラスの、電子と等しい電荷をもつ。1928年、ポール・ディラックが存在の仮説を立て、1932年にカール・デイヴィッド・アンダーソンが、霧箱を用いて観測、命名した。アンダーソンは、ポジトロンと対にするため、電子の正式な名称をエレクトロンからネガトロン (Negatron) に変更する運動を起こしたが、失敗に終わっている。
発見
電子の発見は陰極線の発見に端を発する。その当時物体は、電気を通す物体と電気を通さない物体に分類されることが一般的であった。しかし科学者たちはどんな物体の中でも電圧を上げれば電流を流すことができると考えていた。そこでほぼ真空に近い陰極線管(クルックス管)に電圧をかけてみると直線状の影が現れた。ドイツの物理学者オイゲン・ゴルトシュタインはこの直線が陰極から発せられていたことから「陰極線」と名付けた。この陰極線の正体について学者らの意見は分かれた。欧州大陸の学者は陰極線の正体は海の波のように直線的に動いているので波動であるとし、イギリスの学者は重力の影響を受けないほど高速で移動している粒子であるとした。この大陸側とイギリス側の論争に決着をつけたのはイギリスの物理学者ウィリアム・クルックスであった。クルックスは、今日、自身の名前がつけられている陰極線管、いわゆるクルックス管を用いて、以下のような実験を提案した。
陰極線管に磁石を近づけた際に、
- 負に荷電した粒子であれば磁場によって偏向するだろう
- 波動であれば磁界によって偏向することはない
この実験でクルックスは陰極線が磁場で偏向されることを確かめた。
ジャン・ペランは1895年に陰極線には必ず負の電荷が伴うことを実験で証明した[14]。また、もし陰極線の正体が荷電した粒子であれば、電場によってより容易に偏向するだろうことが予測される。この測定は真空度が低いと上手くいかないため観測されていなかったが、1896年にグスタフ・ヤフマンが、1897年にJ・J・トムソンが、静電気によって陰極線が偏向することを実証した[14]。
陰極線の研究とは別に、1896年から1897年にかけてピーター・ゼーマンらは、ゼーマン効果の研究からイオン振動子(電子)の比電荷を求め、この結果から、電子は電荷が負で原子より小さいという概念に至った[15]。1897年にエミール・ヴィーヘルト、J・J・トムソンはそれぞれ陰極線を構成する粒子の比電荷を測定し、その粒子が原子より非常に小さくて軽いと結論付けた[14][注 1]。これに先立って1890年までにアーサー・シュスターが陰極線の比電荷を測定していたが、その時点では電子が原子から分離するとは考えられていなかったため正しく解釈されず[14]、また測定結果も信用されなかった。1899年にJ・J・トムソンは電子の電荷だけを測定し、それにより質量も計算することができた[14]。ロバート・ミリカンは1911年に単一の電子を分離することに成功した[14]。
この電子の発見は原子モデルに大きな変化をもたらした。
電子場
電子を粒子ではなく場と見なしたとき、その場のことを電子場と呼ぶ。相対論的な電子場はディラック方程式に、非相対論的な電子場はド・ブロイ方程式に従う[16][17]。
注釈
- ^ 陰極線を粒子とは示さなかったものの、ヴァルター・カウフマンも1897年に陰極線の比電荷を測定している。
出典
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- ^ 田崎 (2008).
- ^ Lewis (1916).
- ^ Thomson (1904).
- ^ a b c d e f アルベルト・マルチネス (2015).
- ^ ヘリガ・カーオ (2015)[要文献特定詳細情報]
- ^ 新井 (2000).
- ^ 北野 (2010).
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