第14循環
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第14循環は2002年2月から続く景気循環であり、景気の拡大期間は2002年2月から2008年2月の73か月の長期間にわたり、以後景気が後退に転じた。従来の景気拡大期間が最も長かった第6循環の拡大期(いざなぎ景気・イザナギ景気)の57か月よりも、景気拡大期間が長かったことから「いざなみ景気・イザナミ景気[3][4][5]」とも呼ばれた(名称解説後述)ものの、実質GDP成長率はいざなぎ景気[6]やバブル景気[7]よりも低調であった[8]。
その後、サブプライム問題に端を発した世界金融危機の影響を受け、2008年3月から景気は失速、とりわけ、同年9月15日のリーマン・ショック以降に急速に悪化し2009年3月まで景気後退期(「リーマン不況[9]」とも呼ばれる)は続いた。
内閣府は景気拡大の「山」は2008年2月で、同3月から景気後退が始まったと判定する方針を固め、2011年10月19日に学識者による景気動向指数研究会を開き、景気拡大の時期を2002年2月から2008年2月までの6年1か月(73か月)と確定した[1]。また、2008年12月11日に全米経済研究所(NBER)がアメリカ合衆国の経済が2007年12月から景気後退入りしたことを宣言しており[10]、日米経済はほぼ同時期に景気後退局面に入ったことになる。
景気拡張・後退期間の俗称
拡張期(拡大期)
内閣府景気基準日付の第14循環での景気拡張期間の俗称は、過去の「いざなぎ景気(57か月間)」を1年4か月上回る記録的な好景気によることから、日本神話に記されたいざなぎ・いざなみによる国産みの伝説にちなんで「いざなみ景気」とも呼ばれる[11]。
2009年1月30日の閣議後の記者会見で与謝野馨経済財政担当大臣は「『だらだら陽炎(かげろう)景気』とでも言うんでしょうか」と「かげろう景気」の俗称を提言した[12][13]。好景気期間は長いものの成長率は2%前後と伸び悩み、労働者の賃金の上昇率も頭打ちで、好景気の実感に乏しかった事を表現した模様。
エコノミストらの間では、いざなみ景気の他に「小泉景気」「第三次平成景気」「出島景気」「デジタル景気」「構造改革景気」「いざなぎ越え(超え)景気」「円安景気」「無実感景気」「格差型景気」「リストラ景気」などの名称が提案されている[14]。 中部東海地域や北九州などおもに輸出(外需)産業の集積地では雇用が逼迫し、派遣・請負労働者あるいは外国人労働者を他の地域から受け入れるなど好況に沸いた。他方で賃金は下落し、大手小売や建設を筆頭とした内需・既存産業は停滞を続ける。首都圏都心部では、サービス業における労働供給が極端に不足し賃金は上昇した。地価についても首都圏・基幹都市の中心部は上昇する一方で地方・周辺部では停滞するなど地域・地区、業態による温度差のある景況が続いた。
後退期
2010年6月7日の景気動向指数研究会での座長である吉川洋は、リーマン・ショック(世界金融危機)による不景気の影響が大きいため、「リーマン不況」と名付けている[15]。リーマン不況の他にも「世界同時不況」「世界金融不況」「世界金融崩壊」「グローバル恐慌」「信用バブル(クレジットバブル)崩壊不況」「サブプライム」などとも呼ばれている。
概要
景気拡大
2002年2月から景気拡大期に突入した。
要因
2001年からのゼロ金利政策に代表される金融緩和政策が主因である。2004年の大幅な為替介入[16]により、実質実効為替レートが下がったことによる円安や、新興国、北米の好調な需要の牽引により、輸出関連産業を中心に多くの企業が過去最高売上高・利益を記録した。輸出による経済成長への寄与度は6割超と、いざなぎ景気の頃の8%に対して拡大した。
また、大企業の国内回帰志向から、積極的な設備投資を行ったことにより、雇用が拡大した[17](2002年から2007年に正規雇用が48万人減少し、非正規雇用が281万人増加した[18])。特に、大手製造業は元来採用が新卒主導であったが、好業績や団塊の世代の退職を受けて、中途採用へも拡大した[19] [20] [21]。そして、これらの関連企業では、過去最高のボーナス[22]を記録した(ただし、雇用者報酬は2002年から2007年に0.4兆円減少している[23])。企業の積極的な投資は、内需企業や下請け企業の業績にも大きく寄与し、低金利政策と相俟って企業倒産件数は2002年から2007年には5000件近く減少し、96年以来の水準にまで下がった[24]。
小泉純一郎政権が、従来の「低効率企業の淘汰」という構造改革路線(骨太の方針)を転換したことも主因である。当初掲げた国債発行30兆円枠にこだわらず、また、大手銀行への公的資金注入は、企業への貸し出しを増やし[25]、景気を上向かせた。結果、バブル崩壊後、日本経済を悩ませていた不良債権問題が解消していくこととなった。併せて、景気好転によりバブル崩壊後積まれていた多額の貸倒引当金を取り崩すことができたため、銀行は過去最高益を計上するに至った[26]。
また、この景気を下支えしたのが外資系企業である。彼らの積極的な投資は、大都市の不動産市場(REIT)を盛り上げた。そのため、景気後半では、輸出に関わらない企業(特に不動産・建設)でも過去最高の売上高を記録していった。また、これは証券市場においても同様で、それを受けて多くのM&A(企業の合併・買収)が行われた。一方で、彼らの増加は、株主総会で「もの言う株主」を招き、企業はこれに対応するため、配当金を増やしていった。
特徴
2002年1~3月期から、2006年4~6月期まで名目GDP(年率換算)は21兆円増えた計算になる。一方で、全体の所得は4兆円減っている。要因として、企業や金融機関がバブルの後遺症から、従来の好況期と異なり、より積極的な投資(借金によるレバレッジ投資)を手控えた事があげられる。
2002年からの景気拡大は期間が長かったものの、実質経済成長率は年平均2%弱で、いざなぎ景気の10%超、バブル景気の5%程度などと比べ低水準にとどまった。また、生活実感に近い名目経済成長率が実質経済成長率より低かった。結果、賃金に関しては、いざなぎ景気の時は倍増した雇用者報酬が、いざなみ景気では2002年の262.5兆円から2007年には262.1兆円に減少した[23]。消費者態度指数は2003年3月を底にし、上昇したが、2007年からは減少へ転じた[27]。消費者心理は改善せず、個人消費は盛り上がりを欠いたままだった[28]。
この景気拡大期では、六本木ヒルズ族やワーキングプアに代表される、いわゆる格差社会論争が沸き起こった。また、デジタルカメラ、DVDレコーダー、薄型テレビのいわゆる「デジタル三種の神器」の需要が急速に伸び始めたことから、景気回復基調が鮮明となってきた2003年春ごろから暫くの間は「デジタル景気」と呼ばれ、マスコミの注目を浴びた。
3度の「踊り場」
長く続く好景気の中では、踊り場が3度あった。
1度目の「踊り場」は、2002年12月、内閣府が月例経済報告を月例経済報告関係閣僚会議に報告した際、景気の基調判断を「踊り場的な状態」と下方修正した。以後、2003年9月までが最初の「踊り場」である。主な原因としては、イラク戦争によるイラク国内の情勢悪化の影響で輸出が鈍化した上に、新型肺炎(SARS)も追い打ちをかけたことが挙げられる。しかし、イラク戦争の終結などで輸出が回復し、企業部門が持ち直したため、この踊り場をくぐり抜けることができた。
2度目の「踊り場」は、2004年12月(11月に引き続き2か月連続の下方修正)~2005年8月。アテネオリンピック前に薄型テレビが売れた反動もあり、世界的な在庫調整が起きたことによるものだったが、今回も調整一巡後に脱却した。
そして2008年3月19日、当月の月例経済報告で大田弘子経済財政担当大臣が、生産などの陰りが要因で現在の経済状態が3度目の「踊り場」を迎えていると説明した(2月に引き続き2か月連続の下方修正)。今回の踊り場では、主要な輸出先であるアメリカがサブプライム住宅ローン問題の深刻化で国内経済が減速していること、一向に歯止めのかからない原油価格の高騰や、2008年に実施された鉄鋼の約65%の大幅値上げ、1995年11月以来12年7か月ぶりに1ドル=100円突破を記録する急激な円高、建基法不況による2007年度以降続く建設・不動産やその関連会社の倒産件数の増加など、不安材料を抱えていることが背景とされている。そのため、今回の景気拡張局面では賃金の伸びが鈍く、家計部門での波及が乏しく、内需に火がついていないだけに、外的要因に左右されやすい。
景気後退
長く続いた景気も、2008年2月を頂点に後退に転じた。
要因
一昨年の2006年夏を頂点に米国の住宅価格が下落に転じ、住宅価格の上昇分をエクイティファイナンスの形で金に換えて消費を続けてきた米国の購買意欲が減退した。同時にサブプライムローン問題が徐々にその姿を見せつつあり、證券市場から流出した資金は商品市場へと流れ込んだ。
2007年半ば以降、原油価格など資源価格の高騰でコストが上昇はじめ、原料高で企業収益が悪化。更に、サブプライム問題が金融システムを揺るまでに拡大し、世界的な金融危機が起き、輸出が減退した。2007年12月19日の官房長官記者発表において町村信孝内閣官房長官は、「原油高騰、円高、また、所得の伸びの緩さ、消費もあんまり伸びなかったというようなこともあったようでございますが、大きいのはやはり、建築基準法でございます。」と建築基準法改正の悪影響(建基法不況)が経済見通しの下方修正の主因であるとの認識を語った[29]。2008年9月以降は「100年に1度」の金融危機と世界経済悪化で深刻な不況に突入した。詳細は世界金融危機を参照。
特徴
内閣府によると、世界的な景気悪化で、日本の輸出はかつてない速度で減少しており、アジア金融危機時(1997年)やITバブル崩壊後不況(2000年)時とは比べ物にならない速さという[30]。
国内における消費が伸び悩む中で、外需減退による輸出鈍化がおきたため、様々な問題[31]を抱える日本経済が、いざなみ景気後の不況に耐えられるかは不透明である。
- ^ a b “景気動向指数研究会”. 2011年10月20日閲覧。内閣府経済動向指数研究会は2011年10月19日に、第14循環の景気の山を2008年2月、景気の谷を2009年3月と決定した。
- ^ 内閣府 景気動向指数研究会 (参考)景気基準日付、2017年2月25日閲覧。
- ^ 2006年から呼び方の提案があったが、2008年に正式に名付けられた。
- ^ 景気の名称(通称)で他にも呼び方がある
- ^ 政府(内閣府)としての、いざなみ景気の呼び方は、あまり評価されていない。
- ^ “旧68SNA・平成2年基準のGDP参考系列(平成13年1-3月期)”. 2009年3月20日閲覧。
- ^ “平成7暦年基準GDE(GDP)需要項目別時系列表”. 2009年3月20日閲覧。
- ^ “1. 四半期別GDP速報(93SNA、平成12年基準)1-2. 時系列表(GDP・雇用者報酬): 平成6年1-3月期 - 平成20年10-12月期2次速報値(平成21年3月12日)”. 2009年3月20日閲覧。
- ^ 不況の名称(通称)で他にも呼び方がある
- ^ “Determination of the December 2007 Peak in Economic Activity”. 2009年2月1日閲覧。
- ^ 最初期には2006年12月26日の日経新聞市況面コラム「大機小機」でこう命名する提案がある事が伝えられている。
- ^ 「かげろう景気」与謝野経財相が命名、最長でも実感乏しく - 読売新聞 2009年1月30日
戦後最長の景気回復は「だらだらかげろう景気」与謝野経財相 - 日経新聞 2009年1月30日
「かげろう景気」の名称については、予め定めておいてこの場で発表したのではなく、今までの景気の名称について記者の質問に応えて暫く考えてから告げた事が伝えられている。 - ^ 特に決まりはないが、2023年現在、政府関係者による景気の名称を決めるのは、なるべく控えている。
- ^ 景気名称:戦後最大の□□景気 「だらだら陽炎」「リストラ」「格差型」「無実感」… - 毎日新聞 2009年1月31日
- ^ 時事ドットコム 景気の「谷」は昨年3月=戦後最大級の落ち込み-内閣府[リンク切れ]
- ^ 参考:マネーパートナーズ 日銀介入状況http://www.moneypartners.co.jp/market/boj.html
- ^ 日経新聞 失業率の推移と有効求人倍率の推移[1]
- ^ a b 総務省『労働力調査』
- ^ 人材確保へ競争激しく 中国地方50社 採用アンケート - 中国新聞就職ナビ2009
- ^ Tech総研“重厚長大”業界が採用復活!胸を熱くする仕事と技術 - リクナビ
- ^ トヨタグループ 正社員登用大幅に拡大 新年度「非正規」から即戦力 - 中日新聞2007年3月28日付け
- ^ 07年冬ボーナス、89万2318円で過去最高=経団連 - ロイター
- ^ a b 内閣府『国民経済計算』
- ^ 倒産件数・負債総額推移 - 東京商工リサーチ
- ^ 内閣府 今週の指標No.902「地域銀行による融資の重要性」
- ^ ただし、貸倒引当金の戻し益は金融機関本来の業務(融資など)による収益ではないため、過去最高益であっても、収益が十分とは限らない。参考:佐賀銀行 第10回 平成19年年頭のあいさつ(平成19年1月4日)
- ^ 経済社会総合研究所景気統計部 消費動向調査(全国、月次)平成20年9月実施結果[2]
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- ^ 新日鉄、君津の高炉休止へ 08年度の減産420万トンに - 日本経済新聞 2009年1月29日
- ^ 日立が「無給の休日」=平日の休日を導入へ - 読売新聞2009年3月9日 2009年度に休日を増やし賃金を3~5%削減する。
- 1 第14循環とは
- 2 第14循環の概要
- 3 経過
- 4 主な出来事
- 5 景気後退への対策
第14循環と同じ種類の言葉
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