漢文法 漢文法の概要

漢文法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/31 04:02 UTC 版)

今日の書き言葉の中国語(白話文)と比べてもっとも顕著な違いは、漢文においては二字からなる単語がほとんど使われず、ほぼ全ての単語が1字のみで表される点にある。現代中国語では二字からなる単語が極めて一般的である。この現象が存在する理由の一つには、読みの変化によって同音異義語が増える中で、複合語をつくることにより、この曖昧さを解決しようとしたことがあげられる。

類型学的な概説

漢文は長らく、語形変化のない言語であると説明されていた。すなわち、名詞や形容詞は定性特定性英語版、またはによって変化せず、また動詞は人称、数、テンスアスペクト限界性 英語版結合価証拠性、またはによって変化しないと考えられてきた。しかし、派生形態論の観点からいえば、漢文には産出的な方法ではないが、複合語、畳語、(おそらくは接辞も)がある[1][2]。また、ゼロ派生が広汎に見られる。

漢文の基本的な構成素の順序はSVO型(主語 - 動詞 - 目的語)であるが[3]、例外もあり、VSやOV語順の場合もある。話題 - 焦点の構成も用いられる。主語または話題が必須であるわけではなく、意味が通じる場合(語用面で推論可能な場合)は省略されることが多く、またコピュラ文が動詞を省略したものになることも多い。

名詞句においては、指示語量化限定詞形容詞所有、および関係詞は、主要部の名詞より前に置かれる。一方、基数詞は名詞の前後どちらにも現れる。動詞句においては、副詞は通常動詞の前に置かれる。本稿の分析のとおり、漢文では動介詞中国語版(連動文の場合)や後置詞も使われる。英語では従属節となる場面においても漢文では並列を多用する[4]。ただし、従属節を構成する手段はあり、主節の前後どちらにも現れる。文末助詞もいくつかある。

単純な関連する2つの名詞が結合することがあるが、常に生じるわけではない。2つの名詞が所有の関係で結合したとしても、必ずしもその役割が表されるわけではないから、曖昧さにつながる。例えば、「山林」は「山と林」とも「山の林」とも読み取れる[5]

形態論における語形変化がないことから、漢文はゼロ標識言語である。ただし、所有と関係節は通常、従属部標示が助詞によって行われる。

否定は動詞の前に否定助詞を置くことで表す。諾否疑問文 (Yes–no question) は文末助詞で表し、疑問詞疑問文はin situの疑問代名詞にて表す。受け身形は複数あり、能動文と同様の文型となることも(少なくとも書き言葉においては)ある[6]

漢文の語彙は、大きく「実詞」と「虚詞」の2つに分類される[7]。漢文学者の間において語彙分類法が完全に一致しているわけではないが、漢文の品詞分類法はラテン語のそれと類似している(名詞、形容詞、動詞、…)[8]。しかし、多くの語が様々な品詞として使われることから、依然として議論が続いている。

品詞分類(詞類)

一般に漢文の品詞は実詞内容語)と虚詞機能語)に分類される。

以下、三省堂『全訳漢辞海 第四版』や数研出版『体系漢文』などに見られる標準的な品詞分類である。

伊藤東涯『操觚字訣』での分類

  • 助字助辞) - 現代の文末助詞に相当する。
  • 語辞 - 現代の副詞、前置詞、接続詞、感嘆詞に相当する。
  • 虚字 - 現代の動詞の一部に相当する。
  • 雑字 - 現代の動詞の一部、形容詞、数詞に相当する。
  • 実字 - 現代の名詞に相当する。

  1. ^ Peyraube 2008, p. 995.
  2. ^ Schuessler 2007, p. 16: Most of the affixes in [Old Chinese] also have counterparts in [Tibeto-Burman] languages; they are therefore of [Sino-Tibetan] heritage. Most are unproductive in [Old Chinese].
  3. ^ Peyraube 2008, p. 997–998.
  4. ^ Pulleyblank 1995, p. 148.
  5. ^ Barnes, Starr & Ormerod 2009, p. 9.
  6. ^ Aldridge 2013.
  7. ^ Peyraube 2008, p. 999.
  8. ^ Zádrapa 2011, p. 2.
  9. ^ 宮本・松江 2019年 131頁
  10. ^ 全訳漢辞海 第四版 1701頁
  11. ^ Barnes, Starr & Ormerod 2009, p. 5.
  12. ^ Peyraube 2008, p. 997.
  13. ^ Pulleyblank 1995, p. 14.
  14. ^ Barnes, Starr & Ormerod 2009, p. 12.
  15. ^ Peyraube 2008, p. 1006.
  16. ^ Pulleyblank 1995, p. 147.
  17. ^ Pulleyblank 1995, p. 16.
  18. ^ Pulleyblank 1995, pp. 18–19.
  19. ^ Peyraube 2008, p. 1007.
  20. ^ Pulleyblank 1995, pp. 20–21.


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