手 「手」と「腕」

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/01 05:37 UTC 版)

「手」と「腕」

日本では人体の左右の肩から出ている長い部分、腕も「手」と呼ばれる。日本語(大和言葉)の「て」はもともと肩から出ている長い部分全体を指していた。 漢字の「手」は、手首あたりから指先あたりの形を表した象形文字が変化したものだと漢字辞典などでは解説されている。 英語では手首から指先、手を「ハンド」 (hand) と言う。日本のサッカー界は腕や手でボールを扱った反則を「ハンド」と呼ぶことがあるがこれは hand のことではなく、「ハンドリング」 (handling) を略したものである。

日本語における「手」を含む言葉

和語における「て」は古くから広い意味範囲をもって使われてきており、広辞苑では30を超える語義を示しているほどである。古く万葉集では「価」の字を「テ」と読む例があり、経済(その原初的形態としての交換行為)とのつながりが考えられる。

上手(かみて)・下手(しもて)といったように方角・方向を意味する用法もある。なお、上手(じょうず)・下手(へた)と読んだ場合には「ある行為・行動に対する習熟」の意となるように、手による動作が、次いで援用して手によらずともあらゆる動作・手段・方法、および、その行動の主体が広く「手」と呼ばれたのである。

人を象徴する手

「動作の主体」まで「手」で代表されるということの一例は、手は「仕事」(職業、生業)を象徴し、それはその人自身をも指し示すということである。動作や仕事に「手」を付けることで職業や役割になることは、「手」がいかに「人」を例えているのかが理解できる。例を挙げるならば、騎手・射手・運転手・操縦手などがあり、また、様々な分野において「○○の担い手」といった表現も用いられる。「受け手」「聴き手」といった使い方も馴染みのものであろう。それらは「○○をする人」と同義であり、手による動作と直接の関係が無くとも用いられる。

社会

人の個のつながりとして、手は手話や握手などの手による直接的な触れ合いは、意思の疎通や感情を伝える点において人の社会では重要である。

手は、指を有し把持機能を持つ特徴から、「手組(てぐみ)」とは仲間や組織を作ることであり、「手切(てぎれ)」とは人間関係を断ち切ることでもある、このような言葉に見られるように、人と人とのつながりの象徴ともなる。そして、そうした関係構築に際して、身体の中で「手」は非常に良く動く部位であるため、音声言語によらず感情や意志の伝達を行う手段として選ばれやすい。

人の歴史は共同体の消長における繰り返しの中での戦いの歴史でもあるため、敵や相対する者に対しても手による表現が使われてきた「手合い」は対戦相手や見下したものに対する表現であり、「手向い」や「手返し」は謀反や反抗などを表現している。その他にも戦闘集団においての下位のものを「手駒」といい社会集団でも古い言い方では「手下」という。

経済

手間・手配

仕事や労力を総称して「手間」といい、その仕事がないことを、「手空き・手明き」という。仕事を割り当てる準備する、人員の配置をすることなどを「手配」という。上述の「手当て」と同じ漢字で、送り仮名を使わず「手当」とした場合、日本語においては通常指すものが異なり、「手間賃」と同意としての「労働などに対して報酬として与える金銭」あるいは「基本給のほかに支給する金銭」の意となる。また、古い文章などでは「心付け」の意でも用いている。 実際には治療の「てあて」を「手当」とする場合や、その逆も多く、日本語本来の区別ではなく近代以降便宜的にそのようになされたのみであろう。また、手配と同様に「前もって行う準備」・「人員の手当てをする」も手当てといいなどと用い、これは手が手段・方法・対処などを意味する例と言えよう。

手形

現代、身元確認の一手段として指紋押捺がある。これは拡大鏡などの道具が無かったころには利用することができないものであった。しかし、大まかな指紋と指の節の幅・長さ、そして、掌の形状および掌紋などの関係性から、「手形」は唯一性を持つもの経験的に知られており、個人認証の手段であった。そのため、証書類に署名の代替として用いられることが多く、ここから証書を「手形」と呼ぶようになったとされる。通行手形などもこれに含まれるが、現代は手形と言うと、一定金額の支払いを委託もしくは約束した有価証券を指す。

手仕事

産業革命以降、機械による工業製品の大量生産が行われると、様々な理由から「手仕事」は減少したが、大量生産が難しいものや、手仕事でしかできない技術の高い職人による生産や、人の手が生み出す物ならではの温もりと味わいが見直あり、「手作り」のものが根強く残っている。手作りにおいては丹精込めて作り上げることや仕事をすることを、「手塩に掛ける」や「手間暇掛ける」などという。工芸の分野では、手で直接的に製品を作り上げている場合に「手工芸」と手を強調した表現も使われる。

技としての手

手は日本伝統の技芸などでは、特定の技法やそれによって構成されるものを指したりする。「本手」とは伝統音楽において本格的な手(曲)・本来の手(曲)、あるいは元々の旋律を指し、「派手」は前者の、「替手」は後者の対義である。また、歌・唄に対して「手」と呼ぶときは、声楽に対する器楽、あるいは楽器が奏する旋律、旋律型、技法を指す(旋律型としての「楽の手」、技法としての和琴(わごん)の「折る手」やの「押し手」、三味線の「摺り手」など)。

なお「手事」は、地歌など三曲の音楽において、唄と唄との間に置かれた長大な器楽部分であり、まさに手によってなされる事の意である。また、「合いの手」は唄と唄の間をつなぐ、手事よりも短い旋律であり、これも同様の意味から来ており、本来、手拍子とは無関係とされる。また、従来の曲に新しいパートを付ける(編曲、アレンジする)事を「手付け」と呼ぶ。これに対し、唄を付けるのが「節付け」である。

相撲などでいう「決まり手」も決まり技という意味で使われる。

琉球の挌闘術であるは、挌闘技法のことであり、これは英語においてarm(腕)が武装・軍備を指すこととも通じる。空手はかつて唐手と書いてトウテイ(トウティ)と読み(参考Wiktionary:en:karate)、中国から伝わった挌闘技法(をベースにしている)を意味した。

脚注


注釈

  1. ^ インドイスラム諸国では排泄行為後は(トイレットペーパーで拭くのではなく)手桶の水を流しながら左手で肛門周囲の汚れを洗い落とすのが習慣だったため、後の時代ではトイレ備え付けのシャワーホースを使って肛門周囲を水洗浄することが通常になったとは言え、かつての習慣から左手は衛生面で不潔(不浄)な手とされており、食事の際には左手を隠し、右手でつかんで食べる文化がある。公の食事の席では左手を出すのは無礼な行為とされている。ただしインドイスラムでも左利きの人はいる。この場合食事は右でその他の動作は左で行う(ただしインドでこの食事文化が厳格なのは右手の指先だけで食べる習慣があるインド南部であり、インド北部ではほとんど意識されていない)。
  2. ^ 割り当て領域の場所は、遺伝である程度は傾向づけられているが、各人がどんな活動をどの程度行うか、行わないか、ということで、領域が広がったり狭くなったりする。例えば脚ばかりを使う人は、脚に割り当てられる領域がいくらか広がってゆく。頻繁に使うと、(神経網、シナプスが枝を伸ばし)結果として若干 割り当て領域が広がる。
  3. ^ 人にとって、口によるコミュニケーションが主たるものでついそちらばかりに気をとられがちだが、実は、「目は口ほどにものを言う」と言われており、目にも人の感情がしっかりと現れている、人の眼をよく見ると 人の気持ちが良く分かる、とか、「あの人は口では何も言わなかったけれど、眼に感情が現れていた」とか、「眼をよく見たほうがコミュニケーションも円滑になりますよ」といった意味である。そして、実は人は手でもコミュニケーションを行っている。
  4. ^ しばしば仏像が示す、さまざまな手の形。
  5. ^ 例えば聖書の次の箇所である。
    イエスがある町におられたとき、そこに全身レプラ(重い皮膚病)にかかった人がいた。この人はイエスを見てひれ伏し、「主よ、あなたならばわたしを清くすることがおできになります」とのべた。 イエスが手を差しのべてその人に触れ、「よろしい。清くなれ」と言われると、たちまちにしてその病は消え去った。 — 『ルカによる福音書』5章12~13
  6. ^ ロイヤル・タッチは結核の一種に対して有効な治療とされ、時代が下って1718世紀ごろにも儀礼化して盛んに行われ、ルイ15世は戴冠式で2,000人に触れたという。この治療対象は瘰癧(るいれき。頸部リンパ節結核。英語:Scrofula、別名:the king's evil)で、日本などでは珍しかったと思われるが、近世までのヨーロッパでは生活環境の違いなどから、儀礼的な行為も含め、ずっと多かった模様である。
  7. ^ カニサソリなど、節足動物でも前足に特徴のある場合はそれを「手」ということもあるが、これもあくまで俗用である。[要出典]
  8. ^ 生物学では、手を「ヒト前肢」と言うことがある。これは学問的で正式な表現である。だが、逆向きに、動物の前肢を「手」と呼んでしまうのは、あくまで俗用であり、学問的ではない。

出典






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