ヘンリー・キッシンジャー 退任後

ヘンリー・キッシンジャー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/19 00:31 UTC 版)

退任後

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とともに(2001年)
ドナルド・トランプ大統領とともに(2017年)

1977年、キッシンジャーはフォード政権の退陣と共に国務長官を退任した。コロンビア大学から教授就任の誘いを受けたが、学生の激しい反対にあい、就任を断念する。その後ジョージタウン大学戦略国際問題研究所(CSIS)に招かれ、在職中次々と政権時代の回想録を発表し、話題を呼ぶこととなった。1980年に『キッシンジャー秘録』で全米図書賞受賞。

1982年、国際コンサルティング会社「キッシンジャー・アソシエーツ」を設立し、社長に就任し、主に対中ビジネスを行う企業を対象にコンサルタント業務を始め、財を成した[17]。同社にはジョージ・H・W・ブッシュ政権で国務副長官を務めたローレンス・イーグルバーガー(後に国務長官)や、国家安全保障担当大統領補佐官を務めたブレント・スコウクロフトなどが参加している。また、バラク・オバマ政権で財務長官に就任したティモシー・ガイトナーも、一時同社に籍を置いていた。

「現代外交の生き字引的存在」として多くの著書を持つほか、世界各国で講演活動を行っている。また、ニクソン以降のアメリカの歴代大統領をはじめとする世界各国の指導層と親交を持っており、国務長官退任から30年以上たった現在でもその国際的影響力は「最大級」と評価されている。[要出典]

最近では、ジョージ・W・ブッシュ政権において指南役として活躍した。ブッシュはキッシンジャーとは定期的に会談の機会を設けており、政権外で最も信頼する外交アドバイザーであった。キッシンジャーはブッシュ政権下で行われているイラク戦争も基本的に支持していた[32]

また、2007年1月4日にはジョージ・シュルツウィリアム・ペリーサム・ナンらと連名で「核兵器のない世界に(A World Free of Nuclear Weapons)」と題した論文を『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙上に発表した。同論文はイラン・北朝鮮などが核開発を試み、また国際テロリスト・グループによる核保有の可能性すら存在する現代において、核兵器に過去のような抑止効果は存在しないとして核兵器廃絶をアメリカが唱道すべきことを訴えており、注目を集めている[33]

2009年4月20日、岡山大学にて特別講演会を実施[34]。この模様は後日岡山放送でも放映された。2011年11月11日夜には、首相官邸を訪問、野田佳彦首相と会談し、「TPP交渉参加方針を歓迎する」と述べた[35]

2016年アメリカ合衆国大統領選挙で当選した第44代アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプとはトランプ曰く「政治の世界に入るずっと前からの友人」という旧知の仲であり[36]、大統領就任前後からトランプはキッシンジャーに助言を仰いできた[37][38]。キッシンジャー・アソシエーツに所属したキャスリーン・マクファーランド英語版国家安全保障問題担当大統領副補佐官やCSISで同僚だったレックス・ティラーソン国務長官の抜擢はキッシンジャーの推薦だったとされる[39][40]。これらのことから非公式の外交顧問になっていると目されている[41]

2016年12月には、訪中して習近平国家主席党総書記)と北京で会談し、タイミング的に勝利したトランプ新政権の対中外交方針を伝えたものとされている[42]2017年5月10日には、ホワイトハウス大統領執務室にて報道陣と応対、トランプが「キッシンジャー氏と議論ができて光栄だ」とコメントしている。同年7月にティラーソン国務長官に対して「米中は北朝鮮の政権崩壊に向けて在韓米軍撤退を事前合意すればよい」と提言したとされ[43]、同年8月にはウォール・ストリート・ジャーナルで「北朝鮮問題は専ら米中で解決すべき」とする寄稿を行った[43]。同年10月10日には、トランプは日中韓3か国への初のアジア歴訪に備えてキッシンジャーと会談した際に「キッシンジャー氏を尊敬している」と発言した[44]

2017年6月29日、ロシアを訪問してウラジーミル・プーチン大統領と会談。その直後、ホワイトハウスは同年7月に米露首脳会談を実施することを発表したことから、ロシアの報道機関はキッシンジャーが調整役を担ったとの見方を示した[45]。2016年2月にもプーチンの招待で訪露していた[46]

2019年11月、国家安全保障会議において「AIが人間の意識を超越していくことを確信している」と人工知能に対しての分析を行った。特に軍事,地政学,外交においての利用では、AIが戦争と戦略の本質を変えることに繋がると考えているようである。「紛争や戦場においてAIによる判断で攻撃を行う"戦争ゲーム"が本当に信頼できるのかどうかを考えないといけない」と懸念を表明した[47]。キッシンジャーは、人工知能について元Google取締役のエリックシュミットと共に書き下ろした共著本を出した[2]

2020年1月15日、米中貿易戦争の打開に向けて結ばれた米中経済貿易協定の署名式では同じく中国と関わりの深いラスベガス・サンズ会長兼CEOのシェルドン・アデルソンブラックストーン・グループCEOのスティーブン・シュワルツマンらとともに出席した[48]

2020年4月3日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生に対して、「COVID-19が終息しても、世界は以前と全く違う所になるだろう」と発言し「(バルジの戦いの時のように)特定の人を狙うのではなく、無作為で破壊的な脅威を感じる」と言及した。加えて「人間の健康への危機は一時的なものになるだろうが、政治的、経済的激変は何世代にもわたって続く可能性がある」とし、世界の貿易と自由な移動に依存するこの時代に時代遅れの『障壁の時代』がよみがえる恐れがあることを分析した。

2020年11月25日、トランプ政権のクリストファー・ C・ミラー国防長官代行は国防総省の諮問機関である国防政策委員会英語版からキッシンジャーら11人の委員を解任し[49]、同年12月15日に対中強硬派のマイケル・ピルズベリーを新たな委員長とする人事刷新を行った[50]

2021年3月、リチャード・ニクソン財団主催のセミナーに出席し、2020年アメリカ合衆国大統領選挙で当選したジョー・バイデン大統領に対してアブラハム合意など対イランでイスラエルの防衛を強化したトランプ前大統領の中東政策を継承することを助言した[51]

2022年5月23日、スイス東部ダボスで開かれている世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にオンラインで参加[52]。ウクライナ情勢について「今後2カ月以内に和平交渉を進めるべきだ」との見解を示すとともに、「理想的には、分割する線を戦争前の状態に戻すべきだ」と述べた[52]。また「ロシアが中国との恒久的な同盟関係に追い込まれないようにすることが重要だ」と強調した[52][53]。同月31日、バイデン大統領は米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)に寄稿し、ウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン大統領について「米国は彼(プーチン)の追放を模索したりはしない」と強調[54]。「この戦争は最終的に外交的解決しか道はない」とも述べた[54]。バイデン大統領はウクライナとロシアの和平実現に向け、プーチンにも一定の配慮を示した[54]

2022年5月23日にバイデン大統領が来日し、日米首脳会談後に行われた記者会見の場で「台湾有事の際には台湾の防衛に軍事的に関与する意思がある」というホワイトハウスが意図しない発言をしてしまった事態に対してキッシンジャーは、「台湾を米中交渉のカードにすべきではない」と米CNBCのインタビューに応じた[55]

2022年7月11日、日本の奈良で8日発生した安倍晋三銃撃事件の報道を知り、ニューヨークの日本総領事館に設けられた記帳所へ弔問に訪れた。その際、「日米関係はとても強固で重要なものであり、それは安倍氏の努力によるものだと思う」「彼はアメリカの同盟国として、またアジアの枠組みの柱として、不可欠な日本を築き上げた。彼を知ることができて光栄でした」と言葉を残した[56]

2022年10月26日、来日したキッシンジャーは岸田文雄首相と30分ほど面会を行った[57]。面会の内容について松野博一官房長官は「国際情勢について一般的な意見交換をした」と説明。訪日した理由としてはこのときJPモルガンが主催する「The International Council」が東京で開かれたためである[58]

2023年7月19日、中国を訪問し、北京李尚福国務委員国防相と会談した[59]米中関係が悪化する中、キッシンジャーは「米中はお互いに誤解をなくし、対抗を避けるべきだ」と述べ、「両軍が対話を強める」必要性を強調した[59]。その後、21日には習近平と会談した[60]

2023年11月29日、コネチカット州の自宅で死去。満100歳没[1]








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