トヨタ・G16E-GTS
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系譜
- エンジン型式一覧の自動車用エンジンの系譜を参照。
開発・製造
このエンジンはTOYOTA GAZOO Racing companyのパワートレイン部門にて開発が行われた[15]。ベースとなったエンジンはダイナミックフォースエンジンのM15A型であり、GRヤリス専用設計、ゼロベース開発としつつも[3]、そのベースエンジンに排気量の拡大を施したり、ボールベアリングターボを装着したりするなどして開発された[10]。
開発経緯
当機はWRCのRC2クラスで勝てることをコンセプトにしたGRヤリス専用エンジン(登場当時)として開発が開始された[3]。トヨタのエンジン開発チームは、開発初期の段階で競技用エンジンの規定や使われ方を調べるべくヨーロッパにわたり徹底的な調査を行った[3]。すると競技用エンジンは4,500 - 6,200 rpmの回転域を多用することが判明、加えてヤリスの競合車種を打ち負かすためには1クラス上にも優る動力性能が要求されることも判った[3]。また多品種少産を行う下山工場で生産を行うことなども踏まえ、TNGAエンジンからある程度切り離し、ゼロベース開発を前提としたGRヤリス専用エンジンの開発が開始された[3]。
開発理念には豊田章男社長が求めた『モータースポーツから量産へ』『競技に耐えられる、ラリーで勝てるエンジン』を目標に掲げた[3]。
まず、エンジンレイアウトは開発初期のうちから3気筒エンジンとすることが決定した[3]。これは排気干渉を起こさず、4気筒では必須のツインスクロールターボが不要であるレイアウトであったり、排気カムに可変動弁機構がなくとも中低速のトルクが出しやすいという特性があったり、4気筒と比較しエンジン重量を抑えられるなどの要素からターボエンジンの最適解とエンジン開発チームが判断したためである[3]。
エンジンスペックはCAEやMBDを駆使し[注釈 3]ゼロベースから諸元設定を行った[3][11]。ボアストロークの設定は、出力の最大化を追求しある固定した排気量から6,000 rpm時に最適なボア径の算出から始まった[3]。このときの最適なボア径は87 - 88 mmであったが、車両搭載を考慮しボア径87.5 mmに設定した[3][注釈 4]。また、ストローク量は1,600 ccの排気量から逆算する形で算出されたが、途中から1,620 ccまでが許容範囲であることに気付いた開発陣は許容排気量全てを使い切る方向に舵を切り、最終的に89.7 mmのストローク量に設定した[3]。以上のボアストロークから求めた総排気量は許容範囲ギリギリの1,618 ccとなった[3]。
バルブ径もボアストロークと同じくCAEを用いた開発が行われたが、通常、充填効率を求めると空気を多く取り入れるために吸気バルブ径の方が排気バルブ径よりも大きくなるところ、吸気バルブ径と排気バルブ径がかなり近い大きさになった[3]。これは当機がターボエンジンで排気を再利用できることや[3]、競技使用の際に吸気リストリクターの装着を義務付けられ吸気量に制限が掛かるため、吸気効率を求めるには排気バルブ径を大きくした方が伸び代があること[3]、また最大トルク(GRヤリス仕様)が発生する4,000 rpm付近の回転域では吸気リストリクターによる吸気制限の影響が無いことが判明し、排気バルブの大径化によるレスポンス向上を見込んで開発したためにこのようになった[3]。その他ノッキング耐性や出力向上の観点から[11]、排気流量を増やすことを念頭に数値流体力学(CFD)解析及びCAE設計をした結果でもある[3][11]。
シリンダーヘッドのポート形状は最適な形状を追求して開発を行い、特に排気バルブの大径化と対比した吸気機構の最適化で、吸気ポート形状がモータースポーツ用ではないトヨタの最新4気筒エンジンのものと似通ることとなった[11][注釈 5]。
ピストンの軽量化は開発陣を最も苦労させた[3]。それは3気筒という気筒数が少ないエンジンレイアウトだと重量のアンバランスに繋がり、振動抑制が厳しくなるにもかかわらず、高出力にも耐えられる軽量なピストンを作らなければならないためである[3]。これはトヨタ自動車が持つ技術の全てを注ぎ込み、トヨタ自動車の2Lクラスのエンジン(8AR-FTS)と同様の重量に抑えることで解消した[3]。具体例を挙げると、トップリングの溝にニレジスト鋼を挿入したり、ピストンピンにダイヤモンドライクカーボン(DLC)を蒸着したり、ピストン表面に強度増強のためのショットブラストを掛ける、スカート部に樹脂コーティングを施しフリクション軽減を行うなどの加工をしている[3]。
ターボチャージャーは2Lエンジンサイズの大型でボールベアリング支持のものを採用した[3]。ボールベアリング支持にした理由はモリゾウ(豊田章男社長)がテストドライバーとして開発に携わっていた際に「野性味が足りない」というフィードバックを送り、フィードバックを受け取った開発陣がダイレクト感を要すと判断して採用した[3]。これにより、無駄な渦の抑制、コンプレッサーホイールのチップクリアランスの最適化、吸気の高効率昇圧が達成された[3]。
また、エンジン製造時にも工夫を凝らしており、異物管理を徹底するためにライン内には関係者以外の立入を禁止する、手組みで組立てを行いピストン、ピストンピン、コンロッド重量のずれの許容範囲をトヨタ自動車従来基準の2分の1に設定するなど厳しい品質管理を行っている[3]。
製造・生産
製造生産はトヨタ自動車の下山工場で、シリンダーブロックを始め鋳物部品の鋳造はトヨタ自動車の上郷工場で行われており[1][3] 、下山工場で「匠」と呼ばれる熟練工が製造した証に「 G R SHIMOYAMA 匠 」と書かれた品質証明のエンブレムが貼られている[1]。また、エンジン生産は専用ラインを使用せず通常の混流生産ラインを用いて行われており、不純物混入を防止する対策や、高精度に組み上げる技術などさまざまな工夫をして、レーシングエンジンに近い高精度さながらも通常ラインでの量産を実現している[1]。
性能
乾燥重量は109 kgで、圧縮比が10.5、最高出力272 PS(6,500 rpm時)と最大トルク370N・m(3,000 - 4,600 rpm間)を発生し[2]、1L当たりの馬力は168.11 PSを発揮する[16]。加えて、純正でBMEPが28.7barほど掛けられ、2020年時点において国産エンジン最大値の26.6barを発揮したスバルEJ20型エンジンをも上回る数値を叩き出している[17]。加速、最高時速はGRヤリスに搭載される場合、0 - 100 km/h加速は5.5秒以下、最高時速は230 km/hを実現する[18]。また、このエンジンは初登場時から、世界最高レベルに高出力な3気筒エンジンとして知られている[18]。
GRカローラ
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![](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/redirect?dictCode=WKPJA&url=https%3A%2F%2Fupload.wikimedia.org%2Fwikipedia%2Fcommons%2Fthumb%2Fe%2Fe0%2F2022_Toyota_GR_Corolla_RZ_%2528Japan%2529_G16E-GTS_engine.png%2F200px-2022_Toyota_GR_Corolla_RZ_%2528Japan%2529_G16E-GTS_engine.png)
2022年4月1日に発表された「GRカローラ」搭載エンジンにおいては、GRヤリスに搭載されている当機に3本出しマフラーを採用し排圧低減や消音性の向上など排気系の強化、さらにピストンの材質変更、過給圧の強化に対応してブロックの強化、カムシャフト、カムホルダー、オイルパンユニットの変更等のチューニングを行ったため最高出力 304 PS (224 kW) / 6,500 rpm、最大トルク370 N⋅m (37.7 kgf⋅m) / 3,000 – 5,550 rpmを発揮している[19][20][21][注釈 6]。
耐久性・チューニング
エンジン本体、ターボが純正状態のままでECUチューニング[注釈 7]のみの場合、過給圧が2.3kgf/cm²時に最高出力410 PS / 最大トルク62 kgf・mを絞り出すことができる[22]。
また、チューニング用のアフターパーツ開発を手掛ける企業『HKS』によるチューニング、またはチューニングパーツの開発がなされている[23]。
HKSによるチューニングパーツ開発は3台のGRヤリス(G16E-GTS型エンジン搭載車)を使用しており、そのうち1台は「HKS レーシング パフォーマー GRヤリス」というサーキット仕様車として、他の2台はストリート仕様としてチューニングされ、G16E-GTS型用チューニングパーツ開発の足掛かりに使用している[23]。このうち、主軸となるチューニングはサーキット仕様車を用いたものであり、エンジンの限界性能を探ることを目的に試行されている[23]。
エンジンの限界性能を探るためにHKSの開発陣はエンジン本体をノーマルのままタービン交換を行い、過給圧を2.3kgf/cm²まで引き上げた[23]。このとき、G16E-GTS型は450 PSを出力しており、開発陣は「通常はここまでのパワーアップを行うと何かしらの損傷やトラブルが起こる」と想定し、その損傷した部分を強化する部品を開発しようとしていたが、実際は全くの無傷であった[23]。
これほどチューニングを施してもエンジンが損傷しなかった理由として開発陣は「市販車とは思えないほど高品質なピストン、コンロッドが使用されている」と述べた[23]。このためエンジンを損傷させることが出来ず、HKSの商品開発が進行しないため、現状ではエンジン本体をノーマル状態で使用している[23]。また、純正部品の段階で各部品がかなり軽く開発陣は「アフターパーツメーカーとしては開発が大変」、「アフターパーツメーカー泣かせ」と述べる一方で、トヨタ自動車に対し
細部の作り込みや部品を検証していくと、よくトヨタはこんなに軽くクルマを作れたな、この値段で実現したな、と思いますよ!それにチューニングしがいのあるクルマを出してくれてありがとうという気持ちです—GAZOO、【ワクワクが止まらない!GRヤリスの世界】アフターパーツメーカー『HKS』開発最前線!どれだけ追い込んでも“壊れないエンジン”の強度と耐久性に驚愕!
と感嘆のコメントを残した[23]。
出典
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注釈
- ^ G16E-GTSの生産拠点である下山工場では、GRヤリスのラインオフ式より約4週間先立って2020年7月27日にラインオフ式を執り行った[1]。
- ^ なお、このエンジンのベースはM15A型であり、M15A型に排気量拡大を施す、ボールベアリングターボを装着するなど、ベースエンジンを拡張的に進化させる開発により誕生した[10]。
- ^ 設計諸元の最適解の大半を殆どMBDだけで導き出したほど[11]。
- ^ このボア径はA25A型と同じではあるが、結果的なものでありA25A型との関係性はない[3]。
- ^ その最新4気筒エンジンと全く同じ形状というわけでは無く吸気ポートに機械加工を施し複雑かつストレートな形状を作り出していることや、ペントルーフ形の燃焼室に真っ直ぐ繋げるようポート角を調整していること、吸気ポートのサイアミーズ分岐部を短くしていることなどと細かい部分に違いが設けられている[3][11]。
- ^ GRカローラモリゾウエディションの最大トルクはRZよりさらに向上し400 N⋅m (40.8 kgf⋅m) / 3,250 – 4,600 rpmとなっている[19]。
- ^ ここではモーテックのM142型ECUを使用[22]。
- ^ DOHCに油圧式ラッシュアジャスターが採用された例として、トヨタが初めて独自開発したDOHCエンジン5M-GEUが挙げられる[24][25]。
- ^ M15A型は1枚で構成されているのに対し当機はチェーンカバーを上下2枚に分割した構成である[3]。
- ^ ただし、吸気側のバルブにもバルブ径を極力大きくするなどの追求を行ったり、レーザークラッドバルブシートを採用せずともダイナミックフォースエンジンさながらの効率及びダンブル流を実現することを求めたりして偏心バルブシートを圧入するなどの工夫がされている[3]。
- ^ シリンダーブロック上端部の水路孔が1つに繋がっている形[28]。
- ^ なお、この浅底ウォータージャケットはウォータージャケット底部に肉厚な部分ができるため鋳巣が出来易くなるという課題があったが、G16E型ブロックを鋳造しているトヨタ自動車の上郷工場でシミュレーションや試行を繰り返し行い鋳造条件の最適化をすることによって解決した[3]。
- ^ 2021年現在から数えた近年。
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