ディザ デジタル画像とイメージ処理

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ディザ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/04 15:16 UTC 版)

デジタル画像とイメージ処理

ディザリングの例。赤と青だけを使っているが、それぞれの矩形が小さくなると全体として紫に見えてくる。
IrfanViewにて256色のグラフィックスにディザリングを使用した例

ディザリングは、コンピュータグラフィックスで使われる場合には、制限された数でそれ以上の色調を表現する技法として使われる。ディザリングを施したデジタル画像では、パレットにない色を表現するために、存在する色のピクセルをばらつかせて配置する。ヒトの眼はそのような色の拡散配置を色の混合として知覚する。色数の少ないディザリングを施した画像は、粒状の微細な模様などで見分けが付くことが多い。

ディザリングは印刷における中間色調の表現技法によく似ている。

その性質上、ディザリングは画像に何らかのパターンを導入し、ヒトの眼からはそのパターンが判別できない程度の距離から画像を見るだろうという考え方に基づいている。しかし実際にはそうでないことも多く、パターンは見えることが多い。そのような場合、ブルーノイズのディザパターンが最も目立たない[11]。ブルーノイズのディザリングパターンを生成するため当初は誤差拡散法が使われたが、人工的な見た目に陥ることなくブルーノイズのディザリングを実現する配列ディザリングなどの技法も考案されている。

画像の色数を減らすことは、見た目に多大な副作用をもたらす。元の画像が写真だった場合、色数は少なくとも数千、場合によっては数百万色にもなる。これを固定の色数から構成されるパレットで表現できるようにすると、ある程度の色に関する情報が失われる。

色数を減らした画像は、いくつかの要因により劣化する。その第一の要因は使用しているカラーパレットにある。例えば、元の画像(図1)を216色のWebセーフカラーに減色する場合を考える。元の画像の各ピクセルの色を単純に最も近い色にした場合、ディザリングは行われない(図2)。一般に、このような減色を施すと細部が失われて同色が平坦に連なる領域ができ、元の画像とはかなり印象が変わる。影になる部分や曲面は色の帯ができ、奇妙に見える。ディザリングを施すことにより、そのような人工的な見栄えを改善することができ、元の画像に近い結果を得ることができる(図3)。

固定されたカラーパレットを使用する際の問題として、必要な色がそのパレットにないことが多い点が挙げられる。同時に、元の画像では全く使わない色がパレットに含まれている。例えば、緑の系統の色を全く使わない画像では、パレット内の緑系統の色はほとんど使われない。そのような場合、画像に最適化されたカラーパレットを使用すると画像が改善される。最適化されたパレットの色は、元の画像で多く使われている色から選ばれる。最適化されたパレットを使って減色すると、その結果は元の画像により近くなる(図4)。

パレット内の色数も画質に影響する。例えばパレットが16色となった場合、画像の細部はさらに失われる(図5)。そのような場合でもディザリングを施すことによって画像の見栄えは改善される(図6)。

応用

初期のビデオカード携帯電話や低価格のデジタルカメラで使われている最近[いつ?]液晶ディスプレイでは、表示可能な色数が少ない。ディザリングの主要な応用の1つとして、制限のあるハードウェアでより多彩な色数の画像をなるべく正確に表示するということが挙げられる。例えば、256色しか同時に表示できないハードウェアで数百万色の写真画像を表示するといった場合にディザリングが使われるだろう。ディザリングを行わない場合、元の画像で使われている色は発色可能な256色のうち最も近い色で代替され、見た目が非常に悪くなる。

一部の液晶ディスプレイは、各ピクセルの色を高速に切り替えることで同様の効果を達成している。これをフレームレートコントロール英語版 (FRC) とも呼ぶ。それにより例えば、18ビットカラーの色深度しかないディスプレイで24ビットのトゥルーカラーを表示できる。

ハードウェアの色深度に制限のある場合のディザリングはWebブラウザなどのソフトウェアで一般に行われている。Webブラウザは画像を外部から持ってくるので、表示できないほど色数の多い画像があった場合にディザリングが必要となる。ディザリングされないようにしたい画像(図など)を256色しか表示できない機器でもディザリングされないようにするために、Webセーフカラーと呼ばれるカラーパレットが登場した。

15ビット(32,768色)や16ビット(65,536色)など、ディスプレイがフルカラーの写真を表示するのに十分な色数を使用可能であっても、スムーズに色の変化する大きな領域があると色の帯が目立つことがある。この場合、ディザリングによって「擬似フルカラー」を実現することで見栄えが大きく改善される。24ビットRGBのハードウェアであっても、ディザリングでより高い色深度をシミュレートすることでガンマ補正後の色相の喪失を最小限に抑えることができる。Adobe Photoshop などの高機能画像処理ソフトウェアでは、ディザリングで見た目を改善することがよく行われている。

ディザリングが使われる場面として、画像ファイル形式に制限がある場合もある。特に良く使われるGIF形式は、多くの画像エディタなどで256色かそれ以下に色数が制限されている。PNGなどの他の形式の画像でも、ファイルサイズを小さくするために色数を制限する場合がある。これらの画像では、その画像が使っている全色を含む固定カラーパレットがファイル形式に含まれている。そのような場合、グラフィックソフトウェアで色数を制限する際にディザリングを施すことになる。

ディザリングは印刷における網点技法に似ている。インクジェットプリンターは孤立したドットを印刷可能であり、そのために印刷分野でもディザリングがよく使われるようになってきている。そのため、ディザと網点は同義語として使われることもあり、特にデジタル印刷の分野でその傾向が強い。

典型的なデスクトップ型のインクジェットプリンターの色数は15色(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの組み合わせ)で、ブラックのインクを混ぜると他の色が隠されてしまうことが多いため、実際の色数はもっと少ない。様々な色を再現するにはディザリングが必須である。暗い密に印刷された部分ではインクのドット同士がくっつくため、ディザリングが見えないことが多い。しかし、明るい部分では詳しく見るとディザリングが施されていることが見える。

アルゴリズム

ディザリングを行うよう設計されたアルゴリズムはいくつか存在する。1975年という早い時期に開発され、現在でも人気があるのがフロイド-スタインバーグ・ディザリングアルゴリズムである。このアルゴリズムは、誤差拡散英語版処理を通して人工的な見た目を改善する。単純なディザリングアルゴリズムよりも元に近い画像を生成することができる[12]

ディザリング法には以下のようなものがある:

  • 平均 (Average) ディザリング[13]: 最も単純なディザリング法。固定のしきい値を設定し、最も近い色を使用する。ただし元の画像の詳細が失われやすい[12]
  • 無作為 (Random) ディザリング: 各ピクセルに乱数的要素を導入し、電波が弱いときのテレビ画像のような画像を生成する。人工的パターンはできないが、ノイズが強く画像の詳細が失われやすい。版画のメゾチントの技法に似ている[12]
  • パターン (Patterning) ディザリング: 固定のパターンを使用。入力値に従って固定のパターンを出力に配置していく。最大の難点は入力の1ピクセルを複数ピクセルのパターンで表すため、出力画像のピクセル数が大きくなる点である[12]
  • 配列 (Ordered) ディザリング: "dither matrix" というピクセル毎に交互に色が並ぶパターンを使用する。画像の各ピクセルについて、パターンの対応する位置の値をしきい値として使用する。隣接するピクセルは相互に影響を与えないので、アニメーションなどにも適している。パターンを変えれば、見た目も大幅に変わる。実装は容易だが任意のパレットで機能するように変更するのは容易ではない。
    • ハーフトーンディザリング: 印刷技術の中間色調の表現に類似した技法。オフセット印刷レーザープリンターでよく使われる。これらはインクやトナーがドットの形状を保たず、隣接するドットが相互にくっついて網状になる性質があり、ハーフトーン技法が適している。
    • バイヤー (Bayer) マトリクス[12]: 非常に特徴的な網掛けパターンを生成する。
    • ブルーノイズ向けに調整されたマトリクス(void-and-cluster法など[14])は誤差拡散法に近い見た目を生成する。
(元画像) 平均(2値) 無作為 ハーフトーン(解説用の表現)
配列(バイヤー) 配列 (Void-and-cluster)
  • 誤差拡散英語版ディザリング: 量子化誤差を周辺のピクセルに拡散させるフィードバック処理を行う。
    • フロイド-スタインバーグ・ディザリング: 隣接するピクセルにのみ誤差を拡散させる。最もよく使われている。
    • Jarvis, Judice, and Ninke dithering: 隣接するピクセルだけでなく、さらにそれらに隣接するピクセルにも誤差を拡散させる。フロイド-スタインバーグ法よりも性能が悪い(関与するピクセル数が多いため)。
    • Stucki dithering: Jarvis を改良して若干高速化したもの。見た目はシャープになる。
    • Burkes dithering: Stucki を単純化して高速化したもの。Stucki ほどシャープではない。
フロイド-スタインバーグ Jarvis, Judice & Ninke Stucki Burkes
  • 誤差拡散ディザリング(続き)
    • Sierra dithering: Jarvis を改良して高速化したもの。Jarvis とほぼ同じ見た目になる。
    • Two-row Sierra: Sierra を高速化したもの。
    • Sierra Lite: さらに単純化、高速化したもの。
    • Atkinson dithering: ビル・アトキンソンが考案。Jarvis や Sierra と似ているが、高速である。誤差全体ではなく4分の3だけを拡散させる。画像の詳細をよく保持するが、非常に明るい部分や非常に暗い部分は詳細が失われやすい。
Sierra Two-row Sierra Sierra Lite Atkinson

  1. ^ Ken C. Pohlmann (2005). Principles of Digital Audio. McGraw-Hill Professional. ISBN 0-07-144156-5. http://books.google.com/?id=VZw6z9a03ikC&pg=PA49&dq=didderen+dither+intitle:Principles+intitle:of+intitle:Digital+intitle:Audio 
  2. ^ William C. Farmer (1945). Ordnance Field Guide: Restricted. Military service publishing company. http://books.google.com/?id=15ffO4UVw8QC&q=dither 
  3. ^ Granino Arthur Korn and Theresa M. Korn (1952). Electronic Analog Computers: (d–c Analog Computers). McGraw-Hill. http://books.google.com/?id=dwsuAAAAIAAJ&q=dither 
  4. ^ Thomas J. Lynch (1985). Data Compression: Techniques and Applications. Lifetime Learning Publications. ISBN 978-0-534-03418-4. http://books.google.com/?id=E7EmAAAAMAAJ&q=first+suggested+by+Roberts+in+1962&dq=first+suggested+by+Roberts+in+1962 
  5. ^ Lawrence G. Roberts, Picture Coding Using Pseudo-Random Noise, MIT, S.M. thesis, 1961 online
  6. ^ Lawrence G. Roberts (February 1962). “Picture Coding Using Pseudo-Random Noise” (abstract). IEEE Trans. Information Theory 8 (2): 145–154. doi:10.1109/TIT.1962.1057702. http://ieeexplore.ieee.org/xpls/abs_all.jsp?arnumber=1057702. 
  7. ^ L. Schuchman (December 1964). “Dither Signals and Their Effect on Quantization Noise” (abstract). IEEE Trans. Communications 12 (4): 162–165. doi:10.1109/TCOM.1964.1088973. http://ieeexplore.ieee.org/xpls/abs_all.jsp?arnumber=1088973. 
  8. ^ Lipshitz, Stanley P; Vanderkooy, John; Wannamaker, Robert A. (November 1991). “Minimally Audible Noise Shaping”. J. Audio Eng. Soc. 39 (11): 836–852. http://www.aes.org/e-lib/browse.cfm?elib=5956 2009年10月28日閲覧。. 
  9. ^ Vanderkooy, John; Lipshitz, Stanley P (December 1987). “Dither in Digital Audio”. J. Audio Eng. Soc. 35 (12): 966–975. http://www.aes.org/e-lib/browse.cfm?elib=5173 2009年10月28日閲覧。. 
  10. ^ Mastering Audio: The Art and the Science by Bob Katz, pages 49–50, ISBN 978-0-240-80545-0
  11. ^ Ulichney, Robert A (1994年). “Halftone Characterization in the Frequency Domain”. 2012年7月20日閲覧。
  12. ^ a b c d e Crocker, Lee Daniel; Boulay, Paul & Morra, Mike (1991年6月20日). “Digital Halftoning”. Computer Lab and Reference Library. 2007年9月10日閲覧。 Note: this article contains a minor mistake: “(To fully reproduce our 256-level image, we would need to use an 8x8 pattern.)” The bold part should read “16x16”.
  13. ^ Silva, Aristófanes Correia; Lucena, Paula Salgado & Figuerola, Wilfredo Blanco (2000年12月13日). “Average Dithering”. Image Based Artistic Dithering. Visgraf Lab. 2007年9月10日閲覧。
  14. ^ Ulichney, Robert A (1993年). “The void-and-cluster method for dither array generation”. 2012年7月19日閲覧。


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