ヘイトクライム
英語:hate crime
人種や宗教などに対する差別意識や憎悪を動機とする犯罪行為の総称。人種や民族、宗教、あるいは障害を持っていることや、同性愛のような特定の嗜好に対する差別や暴力もヘイトクライムに含まれる。
多種多様な人種が共存する米国では、ヘイトクライムは長らく大きな問題となっており、特に2001年同時多発テロ事件以降はイスラム教徒に対するヘイトクライムが特に深刻化しているという。全米で年間6000件、7000件といった単位のヘイトクライムが発生している。
2012年8月、米国ウィスコンシン州で男がシク教の寺院に押し入り、銃を乱射してシク教徒6名を殺害した事件では、犯人が死亡したため真偽は定かでないが、ヘイトクライムによる犯行だったと見られている。
関連サイト:
Hate Crimes - FBI
米国内で増加するヘイトクライムの現状について - 在ニューヨーク日本国総領事館
ヘイトクライム
「ヘイトクライム」とは、憎悪犯罪のことを意味する表現である。
「ヘイトクライム」とは・「ヘイトクライム」の意味
「ヘイトクライム」は、「憎悪犯罪」を意味する英語表現「hate crime」を、カタカナで表記したものである。「hate」は「憎むこと」を意味し、「crime」は「犯罪」という意味だ。「hate」と「crime」はそれぞれ、「ヘイト」「クライム」という表記で、日本語の表現の中で使用されることがある。ヘイトは、相手から敵意を向けられることを意味する表現であり、クライムは元の単語通り犯罪を指す。その2つが合わさり、ヘイトクライムになると、意味合いが変わる。ヘイトクライムは、特定の人種や民族、性的指向を持った人に対する犯罪を指す。差別が進んだ結果として、発生することが多い犯罪である。暴行や脅迫、強盗など、種類は特に重要視されない。人種や性的指向など、特定の属性に対する憎悪が動機になっている犯罪であれば、ひと通りヘイトクライムと呼ぶことができる。
ヘイトクライムは、憎悪犯罪という意味であるため、個人的な憎悪が動機となった犯罪も含まれる、という誤解をされることがある。しかし、ヘイトクライムはあくまでも、特定の属性に対する憎悪が動機になった犯罪に限定される。会社をリストラされた、恋人から酷い別れを切り出されたなど、個人的な憎悪が動機となる犯罪は、ヘイトクライムには当たらない。
ただ、日本において、具体的にどういった犯罪がヘイトクライムに当たるのか、明確な定義付けはされていない。ヘイトクライムを取り上げている辞書も、出版社によって細かな定義が異なる場合がある。人種や民族などに対する憎悪が動機であれば、明確にヘイトクライムであるとわかる。けれど、特定の企業に対する差別的な憎悪や、差別的な憎悪と個人的な憎悪が混在する場合など、ヘイトクライムであると明言するのが難しい場合もある。そのため、ヘイトクライムの定義について、議論されることも少なくない。
日本における代表的なヘイトクライムとしては、2021年に京都のウトロ地区で発生した放火事件が挙げられる。ウトロ地区は、大勢の在日コリアンが住む場所である。放火を行った犯人は、裁判において、韓国人に対する敵対感情が動機であったことを明かした。そのため、ヘイトクライムとして扱われるようになった。そして、ヘイトクライムである点が、判決の内容に影響を与えたり、法律の専門家による議論を巻き起こしたりする結果となった。
世界規模で見れば、日本人もヘイトクライムのターゲットになることがある。実際、日本人ジャズピアニストが2020年に、アメリカのニューヨークでヘイトクライムの被害に遭った例がある。アジア人であるというだけの理由で、複数人から暴行を受けた。その結果、右腕を骨折するなどの重傷を負い、一時はジャズピアニスト生命が危ぶまれた。
ヘイトクライムに似た言葉に、「ヘイトスピーチ」というものがある。特定の人種や民族、性的指向を持つ者に対して、言葉を使って攻撃することを指す言葉だ。差別的な発言であり、モラルには反するが、ヘイトクライムのように、必ずしも犯罪行為に該当するとは限らない。ただ、ヘイトスピーチの中には、殺害予告など、法律に抵触するものもある。そのようなヘイトスピーチは、ヘイトクライムの一種であると捉えられる。また、日本の自治体の中には、いかなる内容であっても、ヘイトスピーチは全てヘイトクライムであると考え、ヘイトスピーチを禁止する条例を設けているところもある。
現代では、ヘイトクライムは、撲滅されるべきものであると認識されている。そのため、法律によって規制されたり、自治体主導による周知活動が実施されたり、ヘイトクライム撲滅を訴える映画作品が作られたりするといった対策が取られている。また、ヘイトクライムの実情を世間に知らしめるために、実際に起こった犯罪行為を捉えた動画が拡散されることもある。
ヘイトクライム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/18 21:56 UTC 版)
ヘイトクライム(英: hate crime、憎悪犯罪[1])とは、人種、民族、宗教、などに係る、特定の属性を持つ個人や集団に対する偏見や憎悪が元で引き起こされる、嫌がらせ、脅迫、暴行等の犯罪行為を指す[2]。アメリカ連邦公法によれば「人種・宗教・性的指向・民族への偏見が、動機として明白な犯罪 (Public Law101-275) 」と定義されている[3][4]。
注釈
- ^ 英: Ku Klux Klan Act
- ^ 英: federally protected activities
- ^ 英: Hate Crime Statistics Act of 1990
- ^ 英: Hate Crimes Sentencing Enhancement Act of 1994
- ^ 例えば過重暴行の場合、判決ガイドラインに定められた基本となる反則レベルは15だが、ヘイトクライムが認められた場合18となり、実際の判決も「禁固18カ月 - 24カ月」から「禁固27カ月 - 33カ月」と厳しくなる。
- ^ 英: Racial hatred offences。日本語訳については(元山(1988))
出典
- ^ [1] デジタル大辞泉 - コトバンク
- ^ a b ブリタニカ百科事典:ヘイトクライム (英語)
- ^ (新恵里 2001, p. 141)
- ^ “PUBLIC LAW 101-275—APR. 23, 1990” (PDF). 2015年11月閲覧。
- ^ a b c d e 前嶋和宏 2001.
- ^ “NYで線路に男性突き落とし殺害 女訴追、憎悪犯罪か”. 共同通信社. 47NEWS. (2012年12月30日) 2014年1月29日閲覧。
- ^ 米、ヘイトクライムで3人訴追 黒人学生を侮辱、暴行 47NEWS(よんななニュース) 2013年11月23日
- ^ Pat Buchanan Dis-Integrating America Townhall Aug 28, 2015
- ^ Ashley Fantz; Faith Karimi; Eliott C. McLaughlin (2016年6月13日). “Orlando shooting: 49 killed, shooter pledged ISIS allegiance”. CNN
- ^ “バイデン氏、アジア系標的のヘイトクライムを非難 「米国らしくない」”. AFP (2021年3月12日). 2021年3月14日閲覧。
- ^ いきなり顔を横一直線に切られ……急増するアジア系アメリカ人への暴力
- ^ a b c https://www.vogue.co.jp/change/article/celebrities-stop-asian-hate
- ^ 「全てのアジア人殺す」米でアジア系女性ら8人殺害2021/03/19 15:15テレ朝ニュース
- ^ “アジア系女性、突然蹴られ重傷 NY、ヘイトクライムか:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル. 2021年11月3日閲覧。
- ^ “日本人女性を暴行した韓国人 差別的発言に韓国TVも「ピー音」だらけ”. ライブドアニュース. 2019年11月29日閲覧。
- ^ “"헌팅 거절하자 때려"…홍대 폭행사건 日여성, 법정서 '눈물'” (朝鮮語). news.naver.com. 2019年11月29日閲覧。
- ^ “韓国の「弘大日本人女性暴行」30代男性、拘束起訴”. 中央日報 - 韓国の最新ニュースを日本語でサービスします. 2019年11月29日閲覧。
- ^ 編集部. “韓国・日本人女性暴行事件、「チョッパリ!」に透ける韓国人の“根深い反日感情””. ビジネスジャーナル/Business Journal | ビジネスの本音に迫る. 2019年11月29日閲覧。
- ^ “韓国人の暴行事件に『ゴゴスマ』で武田邦彦が「日本男子も韓国女性が来たら暴行しなけりゃいかん」とヘイトクライム煽動 (2019年8月28日)”. エキサイトニュース. 2021年4月26日閲覧。
- ^ “朝鮮学校で「スパイの子」 “抗議行動”を告訴へ”. 47NEWS (2009年12月18日). 2009年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年4月26日閲覧。
- ^ 『世界』(7月号)中村一成「ヘイトクライムに抗して──ルポ・京都朝鮮第一初級学校襲撃事件」[リンク切れ]
- ^ “社説[障がい者施設殺傷]兆候は幾つも出ていた”. 沖縄タイムス. (2016年7月27日)
- ^ “相模原・障害者殺傷 ヘイトクライム許さない 「優生思想、尊厳抹殺の克服を」”. 東京新聞. (2016年7月16日)
- ^ 伊藤乾『京都アニ放火殺人の本質はヘイトクライム』(JP press 2019.7.30)[2]※学術博士(東京大学)
- ^ 伊藤乾 (2019年7月30日). “京都アニ放火殺人の本質はヘイトクライム (6/7)”. gooニュース. 日本ビジネスプレス. 2019年12月7日閲覧。
- ^ “京都・ウトロ放火は「ヘイトクライムの可能性」 市民団体が根絶目指し声明”. 京都新聞 (2021年12月15日). 2021年12月16日閲覧。
- ^ 18 U.S.Code§245
- ^ 元山(1988).
- ^ Anti-terrorism, Crime and Security Act 2001. Part5 Race and Religion. 40 Racial hatred offences: penalties In section 27(3) of the Public Order Act 1986 (c. 64) (penalties for racial hatred offences) for “two years” substitute “ seven years ”.(legislation.gov.uk)[3]
- ^ 日本国憲法における「表現の自由」の意義、梅山香代子
- ^ 山口厚『刑法総論』有斐閣、大谷實『新版 刑法講義総論』成文堂、裁判所職員総合研修所監修『刑法総論講義案』司法協会、大塚仁『刑法概説(総論)』有斐閣ほか刑法総論の基本書多数あり。
- ^ 東京新聞 (2013-3-29)「こちら特報部 欧州との違い 法規制なし」
- ^ 前田朗『ヘイト・クライム法研究の射程 人種差別撤廃委員会 第79会期情報の紹介』pp. 5-13 NAID 40019492803
- ^ 前田朗『ヘイト・クライム法研究の射程 人種差別撤廃委員会 第79会期情報の紹介』pp. 12-13 NAID 40019492803
- ^ ヘイト・スピーチ処罰は世界の常識である(前田朗Blog)を参照。
- ^ a b 第183回国会 参議院法務委員会 第7号 [4]
- ^ 英: Hate Crimes Sentencing Enhancement Act of 1994
- ^ ジェームス・ジェイコブス(ニューヨーク大学法科大学院教授)など
- ^ Jacobs and Potter,Hate Crimes
- ^ James Morsch,“The Problem of Motive in Hate Crimes: The Argument against Presumptions of Racial Motivation,” Journal of Criminal Law and Criminology 82 (1991) 659-96
- ^ (新恵里 2001)
- ^ 月刊機関紙『法と民主主義』435号(日本民主法律家協会、2009年1月)<刑事法の脱構築 1> 「人種差別の刑事規制について」
- ^ “憎悪の表現と法規制 ヘイトスピーチ 朝日新聞「報道と人権委員会」”. 朝日新聞: p. 朝刊12版9面. (2015年7月21日)
- 1 ヘイトクライムとは
- 2 ヘイトクライムの概要
- 3 概要
- 4 ヘイトクライム関連法の問題点
- 5 脚注
ヘイトクライム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 05:02 UTC 版)
FBIは2014年のヘイトクライムに関するレポートにて、性的指向が原因で標的にされた犠牲者が1248人(全体の18.6%)、性自認が原因で標的にされた犠牲者が109人(全体の1.8%)いたことを報告している。トランスジェンダーの女性はとくにヘイトクライムの被害に遭いやすい。
※この「ヘイトクライム」の解説は、「性的少数者」の解説の一部です。
「ヘイトクライム」を含む「性的少数者」の記事については、「性的少数者」の概要を参照ください。
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