階級 (生物学)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/22 01:56 UTC 版)
階級と学名
階級によって学名の表示の方法は異なっている。国際藻類・菌類・植物命名規約および国際原核生物命名規約で扱われる学名は必ずラテン語として扱われるが[64][65][66]、それぞれの階級に応じて文法上の制限(品詞、性、数、格)が定められている。国際動物命名規約では、学名はラテン語、ギリシア語あるいはその他の言語でよいが[67][68]、ラテン語アルファベットを必ず使用する必要があり[69][70]、学名の要素の最後の綴りがラテン語およびギリシア語であるとき、著者が命名時に否定していなければそれらの言語と見なされ[71][72]、同様に階級に応じて文法上の制約が課される。
属名・種名
国際藻類・菌類・植物命名規約において、属名は単数主格の名詞で大文字 (Capital)で書き始める[73][74]。種名は「属名 + 種形容語」(二語名)で示し、種形容語(および種内分類群の形容語 infraspecific epithet)は形容詞、名詞の属格または同格であり、小文字 (lower case)で書き始められるべきである[75][76][77][78]。種内分類群の形容語(たとえば亜種名や変種名)は種名の後に続け、そのランクを表す用語をつけて表される[79][80]。例えば、ユキノシタ属の1亜品種はSaxifraga aizoon subf. surculosa Engl. & IrmschまたはSaxifraga aizoon var. aizoon subvar. brevifolia f. multicaulis subf. surculosa Engl. & Irmschのように表示される[81][82]。「学名をよりはっきりと表示するために,学名の一部をなす word elements はイタリックで表示されるが、印刷形式は編集のスタイルと伝統の問題であって命名法上の問題ではないので,本『規約』はこの点に関しては他を拘束する標準ではない。」としており、規約には定められていないが、普通イタリックで表示される[83]。
国際動物命名規約においても、種名は必ず「属名 + 種小名」(二語名)で示さなければならず、これを二語名法の原理 (Principle of Binominal Nomenclature)という[84][85]。属名は主格単数形の名詞として扱い大文字で書き始め、種小名(種階級群名)は小文字で書き始めなければならない[84][85][86][87][88][89]。なお、亜種名はそれに小文字で書き始める亜種小名を加え、「属名 + 種小名 + 亜種小名」の三語名で表示する[90]。種階級群名(種小名および亜種小名)は主格単数形の形容詞または分詞、属名と同格の主格単数形名詞、属格の名詞、および共生する生物(宿主)の種小名に由来する属格の実名詞 (substantive)として使用される形容詞のいずれかとして扱わなければならない[91][92]。また、亜属名を挿入する場合、大文字で書き始め、「属名 + (亜属名) + 種小名」と丸括弧にくるんで挿入しなければならず、これを三語名とは数えない(挿入名 Interpolated name)[93][94]。種階級群名を書くときはつねに属名(もしくはその略記)に続けるべきである[95][96]。印刷形式は拘束しないとする国際藻類・菌類・植物命名規約とは異なり、種名は「地の文と違う字体」(普通、斜体 italics)で印刷するべきであるとされる[95][96]。
国際原核生物命名規約では、属名は必ず単数形の実名詞または実名詞として使われた形容詞で、実名詞として扱われる[97]。種名は「属名 + 種形容語」の2語の組み合わせ ( binary combination)である[98]。種形容語は属名と性が一致する形容詞、主格で属名と同格の実名詞、属格の実名詞の何れかでなければならない[99]。主格の亜属名も属名と同様に扱われ、亜属名を種名に含める場合、属名と種形容語の間に "subgen." とともに括弧内に入れる[97][99]。また、規約ではなく提案として、学名の表記について、その国の言語、関連する雑誌や出版社に適した慣例を用いなければならず、学名を他の文章と区別するために、イタリックなどの異なる書体で表示することが望ましいと示されている[100]。
属より上の階級名
国際藻類・菌類・植物命名規約において、科以上のタクソンは複数形の名詞であり、大文字で書き始めなければならない[101][102]。国際動物命名規約において、種階級群よりも高いタクソンの学名は一語よりなり(一語名)、大文字で書き始めなければならない[103]。また、国際動物命名規約において、高位のタクソンの学名には斜体を用いるべきではない[95][96]。それに対し、国際藻類・菌類・植物命名規約においては、本規約中で学名はどのランクであれイタリックで印刷されており、種名や属名と同様にイタリックで表示されるが、上記のように規約上は「印刷形式は編集のスタイルと伝統の問題であって命名法上の問題ではないので,本『規約』はこの点に関しては他を拘束する標準ではない。」というスタンスであり[83]、普通、立体で書かれる[注 2]。
国際原核生物命名規約では(規約で規制される)目以上の各タクソンの学名は、ラテン語またはラテン語化された単語である[104]。綱の学名は中性複数で、亜綱の学名は女性複数で、どちらも頭文字は大文字 (capital letter)で書かれる[104]。
接尾辞
各命名規約において、特定の階級では特定の接尾辞(せつびじ、suffix)[注 3]、または語尾(ごび、termination)[注 4]を語幹に付加する。
国際植物・菌類・藻類命名規約では、科の学名はその科に含まれる属(タイプ属)の学名の属格単数形の屈折語尾[注 5]を語尾 -aceae に置き換えて作られる[108][109]古典語由来でない属名の場合、古典語との類似性が単数主格を決定するのに不十分なときは、-aceae がそのままの属名に加えられる[108][109]。同様に、亜科には‑oideae、族には‑eae、亜族には‑inae をつける[110][111][112][113]。
国際植物・菌類・藻類命名規約において、科より上のランクには自動的にタイプ指定される学名 (automatically typified names)と特徴名 (descriptive names)がある[101][102]。前者は科名と同様に、属名から適切なランクを表す語尾(下表参照[114][115])を加えて作られるが、後者では異なる階級でもそのまま使用できる[101][102]。また前者では、亜門の学名は門、亜綱の学名は綱、亜目の学名は目と、対応する上のランクと同じ属名から形成される[116][117]。目より上のランクでは、属名に含まれる2番目の単数主格の語幹である語要素-clad-[注 6]、-cocc-[注 7]、-cyst-[注 8]、-monad-[注 9]、-mycet-[注 10]、-nemat-[注 11]、-phyt-[注 12]は、ランクを表す語尾の前に省略でき、由来が明らかな場合は自動的にタイプ指定される[118][119]。ラテン語の語尾で終わりながら、以下の表の語尾以外を持つ自動的にタイプ指定された学名は,著者名または発行日を変更せずに修正される[114][120]。
国際動物命名規約では接尾辞 (英: suffix)は2つの意味を持ち、科階級群の接尾辞(仏: terminaison standard)では、科階級名においてある単語の語幹に付加するものを指す[105][106]。上科、科名、亜科、族、亜族に用い、各接尾辞は科階級群の他の階級に用いてはならないとされる[121]。ただし、科階級群内のこれら以外の階級におけるタクソンの学名の接尾辞は規定されず、科階級群名の接尾辞と同じ綴りの語尾を有する属階級群および種階級群における学名は影響されない[121]。また、属階級群の接尾辞(仏: suffixe)では、-ella あるいは-istesといったラテン語の接尾辞を構成するものを指す[106]。条30の下、接尾辞に基づいてラテン語の性の決定がなされる[122]。そのため、本節で述べる「接尾辞」とは異なる。
国際原核生物命名規約では、綱と属の間にある目、亜目、科、亜科、族、亜族の階級につけられるタクソン名は、タイプ属の語幹に適切な語尾を加えることで形成される[123]。また、綱の名前は、その綱のタイプ目のタイプ属の名前の語幹に接尾辞 -ia を加えて形成され、亜綱名は亜綱のタイプ目のタイプ属の学名の語幹に接尾辞 -idaeを付加して形成される[104]。
以下に各規約で定められている、各階級における接尾辞(語尾)を示す。その他、現在有効な規約中で定められていないがよく使われる接尾辞(語尾)として、植物(菌類・藻類)の上目名 -anae、下目名 -aria、上科名 -acea、動物では目名 -iformes, -ida、下科名 -odd、下科名 -ad, -iti がある。
分類階級 rank |
接尾辞 suffix / 語尾 termination | |||||
植物 (ICN[注 13]) |
藻類 (ICN[注 14]) |
菌類 (ICN[注 15]) |
動物 (ICZN[124]) |
細菌・古細菌 (ICNP[104][123]) | ||
門 | Division/Phylum | -phyta | -mycota | |||
---|---|---|---|---|---|---|
亜門 | Subdivision/Subphylum | -phytina | -mycotina | |||
綱 | Class | -opsida | -phyceae | -mycetes | -ia | |
亜綱 | Subclass | -idae[注 16] | -phycidae | -mycetidae | -idae | |
目 | Order | -ales | -ales | |||
亜目 | Suborder | -ineae | -ineae | |||
上科 | Superfamily | -oidea | ||||
科 | Family | -aceae | -idae | -aceae | ||
亜科 | Subfamily | -oideae | -inae | -oideae | ||
族 | Tribe | -eae | -ini | -eae | ||
亜族 | Subtribe | -inae | -ina | -inae |
注釈
- ^ なお、種の概念自体は生物学が生まれたギリシア時代まで遡ることができる[51]。
- ^ 例えば、ほとんどの研究者により合意がなされている被子植物の分類体系であるAPG IVやシダ植物の分類体系であるPPG Iでも、属名より上の分類階級は立体で表記されている[7][5]。
- ^ 国際動物命名規約における用語[105][106]。
- ^ 国際植物・菌類・藻類命名規約における用語[107]。特に、「属より上のランク高位分類群を示す語尾 termination of rank for higher taxa above genus」と呼ぶ[107]。
- ^ ラテン語の-ae,-i,-us,-is 、翻字されたギリシア語の-ou,-os,-es,-as,-ous、およびそれに相当する-eos[108][109]
- ^ ギリシア語 κλάδος "kládos" 「枝」
- ^ 近代ラテン語 coccus 「球菌」← ギリシア語 κόκκος "kókkos" 「種子」
- ^ 後期ラテン語名詞 cystis 「嚢」←ギリシア語 κύστις "kústis"「膀胱」
- ^ ラテン語名詞 monas←ギリシア語 μονάς「1」に由来する。「単細胞」を含意する。
- ^ ギリシア語名詞属格 μύκητος "múkētos"←主格 μύκης 「菌」
- ^ ギリシア語名詞属格 νήματος "nêmatos"←主格 νῆμα「糸」
- ^ ギリシア語複数名詞 φυτά "phutá"←単数形 φυτόν 「植物」
- ^ 門から亜綱までは第16条第3項[114]、目及び亜目は第17条第1項[115]、科は第18条第1項[108]、亜科は第19条第1項[110]、連および亜連は第19条第3項[112]に記載されている。また、日本語版の命名法用語集(規約中の用語解説 Glossaryとは異なる)にまとめられている[107]。
- ^ 植物と同様にICN中に記載。
- ^ 植物と同様にICN中に記載。
- ^ ただし-viridaeではない[114]
出典
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