都道府県知事
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/09 06:05 UTC 版)
地位と職務について
都道府県知事は、都道府県を統括し、これを代表する(第147条)独任制の執行機関であり、地方公務員法の適用がない特別職の地方公務員である。
日本国憲法下では「地方公共団体の長」であるが、議決機関である地方議会の議員と同様に、住民の直接選挙によって公選される。それゆえ、知事と議会は対等の関係にある。
被選挙権について
以下のすべての要件を満たしている者は、都道府県知事の被選挙権を有する(第19条第2項)。
- 日本国民
- 年齢満30歳以上
都道府県知事の被選挙権については、地方議会の議員のそれとは異なり、当該都道府県に住所を有していることは要件とはされない。これは、当該普通地方公共団体の住民以外からも広く有為な人材を求めるためである。(なお、市区町村長も同様に当該市区町村に住所を有していることを要件とはされていない)ただ、実際には、ほとんどの知事、または立候補者は、その都道府県に住所を移している。これは、いわゆる「よその自治体の人」が、その都道府県政に責任が持てるのか疑問だ、などと主張する住民も一部にいるためと思われる。あと、年齢についても引き下げるべきとの意見もある(例えば、25歳とか、20歳などに)。
任期について
任期は4年(第140条)。地方公共団体の長の任期は選挙の日から起算する(公職選挙法第259条本文)。ただし、任期満了による選挙が地方公共団体の長の任期満了の日前に行われた場合において、前任の長が任期満了の日まで在任したときは前任者の任期満了の日の翌日から、選挙の期日後に前任の長が欠けたときはその欠けた日の翌日から、それぞれ起算する(公職選挙法第259条但書)。地方公共団体の長の職の退職を申し出た者が当該退職の申立てがあったことにより告示された地方公共団体の長の選挙(いわゆる出直し選挙)において当選人となったときは、その者の任期については当該退職の申立て及び当該退職の申立てがあったことにより告示された選挙がなかったものとみなして公職選挙法第259条の規定が適用される(公職選挙法第259条の2)。
なお、住民の直接請求の制度として解職請求(リコール)の制度があり、4年の期間満了前に都道府県知事の地位を失うことがある。
兼職禁止について
都道府県知事は、衆議院議員又は参議院議員と兼ねることができない。また、地方公共団体の議会の議員並びに常勤の職員及び短時間勤務職員と兼ねることができない(第141条)。
よって、知事が国会議員選挙に出馬する場合や、逆に、国会議員が知事選挙に出馬する場合は、まず、辞職をしてから立候補する必要がある。辞職せずに立候補したときは立候補の届け出をもって辞職したとみなされる。
なお知事が国務大臣と兼任することについては明確に禁ずる規定は存しないが[2]、内閣は「兼任を禁止する明文の規定はない。しかしながら、内閣の一員として国政を担う国務大臣には全力を尽くして職務に専念することが求められており、都道府県を統轄しこれを代表する知事も同様である。こうした職責の重大さにかんがみ、現に都道府県知事である者を国務大臣に任命することは考えられない」と答弁している[3]。なお、後述の増田寛也・片山善博は知事退任後に総務大臣に就任しているほか、岸田内閣では、かつて長崎県知事を務めていた金子原二郎が、農林水産大臣として入閣している。
兼業禁止について
都道府県知事は、
又は
たることができない(第142条)。
ただし、法人について、当該普通地方公共団体が資本金の2分の1以上を出資するものを除く。
これは、地方公共団体と請負関係にある法人の中には、地方公共団体が主体となって設立し、本来当該地方公共団体が主体となって行う事業を当該地方公共団体にかわって運営しているものがあるという実態にかんがみて認められているものである。
このような場合においては、知事を代表者などとして置くことにより、当該法人の対外的な信用を高めることができる・当該法人に地方公共団体の意向をより反映させることができると考えられている。
主な権限について
地方自治法は二元代表制を採用しており、知事と都道府県議会との関係についても大統領制下における大統領に類似しているが、議会による知事の不信任決議(178条)、知事による議会の解散権(同条1項)や議案提案権(149条1号)等、一部議院内閣制的な要素もみられる[4]。
特徴的な権限は以下のとおりである。
- 議会を解散する権限について
- 議会が知事の不信任の議決をした場合および不信任の議決をしたと見なせる場合にはその通知を受けて10日以内に議会を解散する権限を有する[注 2]。
- 条例案に対する拒否権について
- 議会が議決した条例や予算について再議に付す権限を有する。ただし、議会が3分の2以上の多数で再可決をすればその議決が確定する。
- 予算の調製と執行について
- 予算を調製して議会に提出する権限を有する。議会には予算の増額修正権(もちろん減額修正も)が認められているが、長の予算案提出権限を侵すような修正はできない。過去にはこの権限をフル活用して、国のダム建設[要出典]や大規模博覧会の中止など大胆な行動に出た知事もいる。
- 人事権について
- 行政委員会職員などを除く知事部局職員の人事権を自由に行使する権限を有する。一部の行政委員会については委員の任命権を持ち、政治的影響力の行使が可能。
- 地方税の賦課について
- 議会の議決と総務大臣の同意を取り付ければ新たな租税(地方税)を創設することができる。例えば、石原慎太郎東京都知事が作り出したホテル税や三重県の産業廃棄物税がこれに当たる。
- 専決処分権限について
- 議会を招集する時間的余裕がないと認められる場合など、独自の判断で条例を制定することができる。ただし次の議会で承認を求めなければならない場合もある。
- 予算の調製・執行
- 議案の提案
- 地方税の賦課徴収、分担金・使用料・加入金、または手数料の徴収、過料を科すること
- 決算を普通地方公共団体の議会の認定に付すること
- 会計の監督
- 財産の取得・管理・処分
- 公の施設の設置・管理・廃止(第149条)
- 規則制定権(第15条第1項)
- 補助機関たる職員の指揮監督権(第154条)
- 当該普通地方公共団体の区域内の公共的団体等についての指揮監督権(第157条)
- 支庁・地方事務所、保健所・警察署その他の行政機関及びその他必要な内部組織に係る設置権限
- 組織に関する総合調整権
なお、普通地方公共団体の事務を執行することは、一般に長の権限に属するものとされる(第149条第9号)ことから、明文により他の執行機関の権限に属するとされる事務以外は長の権限であると推定される。
機関委任事務について
従来は知事が国の行政機関として主務大臣の指揮監督を受けながら国の事務を執行する機関委任事務という制度があったが、2000年(平成12年)4月1日施行の地方分権一括法により廃止され、その大半は自治事務及び法定受託事務となった。
注釈
- ^ なお、内務省は官選の地方長官が在職のまま公選に立候補することを望ましくないとする見解を示しており、このために官選の地方長官の中には、一旦辞職してから最初の知事公選に臨む者があった。また、これとは別に地方長官を辞任して国政に転じる者も相次ぎ、1947年(昭和22年)3月から4月にかけて、地方長官の交代が行われて在任期間が30日から40日余りの「最後の地方長官(官選知事)」が相次いで誕生した。なお、愛知県では辞職して知事公選に出た地方長官が、選挙直前に公職追放とされたために、後任の地方長官が在職20日で辞職して急遽出馬し、当選を果たしている。
- ^ 地方自治法第177条第1項および同条第2項により、「非常の災害による応急若しくは復旧の施設のために必要な経費又は感染症予防のために必要な経費」を議会が削除し又は減額する議決をしたときは知事は理由を示してこれを再議に付さなければならず、再議に付してもなお議会が当該経費を削除し又は減額する議決をしたときは知事は地方自治法第177条第4項によりその議決を不信任の議決と見なすことができる。不信任の議決と見なす場合には知事は議会から予算の送付を受けてから10日以内に議会を解散する(全国都道府県議会議長会事務局内地方議会議員大事典編纂委員会『地方議会議員大事典』第一法規出版p280)。なお、要件を満たさない知事の議会解散権の行使は無効とされ(仙台高裁昭和23年10月25日判決(『地方議会議員大事典』p542))、内閣が衆議院を任意に解散できるのとは異なり知事が任意に議会を解散することはできない。
- ^ 但し、大阪維新の会は国政政党日本維新の会の大阪府総支部を兼ねている。
- ^ 一例として、東京都知事選挙には阪本勝(兵庫県)、細川護熙(熊本県)、浅野史郎(宮城県)、増田寛也(岩手県)、松沢成文(神奈川県)、東国原英夫(宮崎県)といった他県の知事経験者が立候補した事例があるが、いずれも落選している。
出典
- ^ 古川隆久『昭和戦中期の議会と行政』(吉川弘文館、2005年)、p196
- ^ 都道府県知事と国務大臣の兼任の可否に関する質問主意書
- ^ 衆議院議員荒井聰君提出都道府県知事と国務大臣の兼任の可否に関する質問に対する答弁書
- ^ 大橋洋一『行政法 現代行政過程論[第2版]』(有斐閣、2004年)、p226
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