軽減税率
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/12 03:37 UTC 版)
日本の軽減税率導入をめぐる指摘や課題
飲食料品への適用
軽減税率が適用される飲食料品は、「食品表示法に規定する食品」(酒税法に規定する酒類を除く)と、厳密に定義されている。飲食料品の定義は問題にならなかったが、「外食」は従来通りの標準税率と決めたため、その線引きが問題となった。これは、元をたどると、軽減税率導入を検討する過程で、「高級料亭での飲食も軽減税率が適用されては、低所得者対策にならない」として公明党が「外食」を適用から除外するよう要求して合意したことに起因する[20]。
軽減税率を適用しない外食を定義する必要性が生じたため、検討の結果、軽減税率が適用されない外食を食品衛生法上の「飲食店営業などで、テーブル、いす等を設けて飲食させるための設備を置いた場所で、食事を提供する」ことを定義した。すなわち飲食を提供する場所を指定して飲食すれば適用対象とはならない。ただし、学校給食や老人ホームでの食事は、生活を営む場で他の形態で食事をとることが困難なため、軽減税率の対象となったとされている[20]。
食品(お菓子)と食品以外のおまけがセットされている「食玩」や器に入った「おせち料理」などの商品(「一体資産」という)については、価格が1万円以下で食品の割合が3分の2以上あれば軽減税率の対象とされたが、商品によって税率が混在している状況である[21]。
新聞への適用について
森信茂樹中央大学法科大学院特任教授は、軽減税率が新聞にも適用になった理由として、「この決定は、読売新聞社の最高権力者の強い要請に応えたものと思われる。筆者はこの件について、一部新聞の世論操作的な報道に強い警鐘を鳴らしてきた。いずれにしても、これで読売をはじめとする新聞社は、安倍政権に大きな借りをつくった」と指摘している。[22]
堀江貴文は『5時に夢中!』(TOKYO MX)の番組内で、公明党が自民党に対し執拗に新聞を対象に含めるよう求めてきた理由として、「公明党の支持母体である創価学会が発行する聖教新聞の消費税が8%から10%になったら、(購読者が)激減する可能性が高く、聖教新聞を守るため」ではないかと主張している[23]。
2015年10月15日、朝日新聞と読売新聞、毎日新聞など日本全国の新聞会社や通信、放送各社の代表らが参加した「第68回新聞大会」が日本新聞協会主催で開かれ、消費増税に伴う新聞への軽減税率適用を求める特別決議が3年連続で採択された。日本新聞協会会長で読売新聞東京本社社長の白石興二郎が、ヨーロッパを始めOECD加盟国のほとんどが、社会政策として新聞に対しゼロ税率か軽減税率を適用しているとして、「新聞の軽減税は世界ではある程度一般的」「読者の負担を減らすことで情報、知識へのアクセスが容易となり、結果的に減税措置は社会に還元される」と軽減税率適用の意義を訴え、新聞への軽減税率適用を求める特別決議を採択した[24][25]。特に読売新聞社は新聞への軽減税率適用を強く求めており、首相と食事するなどロビー活動して新聞への軽減税率適用を訴えてきた[26]。
週2回発行される定期購入契約された新聞が軽減税率の対象で、電子版の新聞やコンビニエンスストアやキヨスクで販売される新聞は、軽減税率の対象外。
インボイス制度導入
消費税率が一律の場合は、仕入れ額や売り上げ額が分かれば、それに消費税率を乗じて消費税額を簡単に計算できた。しかし、軽減税率が導入されると商品ごとに税率が異なるため、商品ごとの税率や税額が分かる書類が必要になる。そこで導入が決ったのがインボイス制度である[12]。連合は長年クロヨン解消のため、強力にインボイス制度の導入を支持している[27]。
しかし、インボイス制度により益税が失われるため、中小企業の経営悪化が懸念される[28]。現在、売上高が1000万円以下の事業者のほとんどは消費税の納付の必要がない「免税事業者」になっている[28]。インボイス制度では、消費税率や税額が書いたインボイスを保存していることが求められるが、インボイスを交付できるのは税務署から登録を受けた課税事業者に限られ、売上高1000万円以下の免税事業者はインボイスを交付することができない[28]。そのため売上高1000万円以下の免税事業者は事業者間取引から排除され、経営悪化に直面することが懸念されている[28]。現状では2021年を目途に、商取引への影響を検証し、必要な場合には一定の措置を講ずることとされている[28]。今後、インボイス制度に関する議論の動向に注目する必要がある[28]。
その他の指摘
日本経済団体連合会・日本商工会議所を初めとする9団体は、軽減税率に反対し、単一税率を維持すべきであると主張している[29]。その理由に社会保障制度の持続可能性を損なうことと、かつ複数税率による事務負担を挙げている[29]。
古賀茂明は、「軽減税率は財務省が特定の品目を軽減対象として認める代わりに、その関連業界の団体・企業に天下りをさせ、族議員ら企業や団体からの政治献金・選挙協力という見返りを得るため」と主張している[30]。しかし、財務省は軽減税率のために必要な財源が毎年約1兆円になることから制度には反対している[31]。
2014年6月11日の第9回税制調査会において、特別委員が軽減税率に対する賛否を表明している。伊藤元重、大竹文雄、土居丈朗などが反対の立場を表明した。会長の中里実は「お二人を除いてかなり強い反対があったと理解しています」「一部の方を除くと、相当強い、全面否定に近いような意見が多くの方から出ました」と総括している[32]。
夏野剛は2018年1月11日に、消費税増税時に日本のキャッシュレス化を進めるために電子決済だと消費税8%に据え置いて、現金決済だと10%に増税することを提言している。理由として、金銭的インセンティブによって現金をよく好んで使う高齢者と女性が一気に電子決済するようになり、日本のキャッシュレス化が進むからだと述べている[33]。
軽減税率の実例
注釈
出典
- ^ サラリーマン増税の「真犯人」は消費税軽減税率だ 週刊diamond
- ^ a b c 軽減税率を導入すべきか - みずほ総合研究所
- ^ a b c “今なぜ軽減税率なのか?|NIRA総合研究開発機構”. www.nira.or.jp. 2023年9月28日閲覧。
- ^ a b 軽減税率はなぜ人気なのか?
- ^ a b c d e OECD Economic Surveys: Japan 2015, OECD, (2015-04), Assesment and recommendations, doi:10.1787/eco_surveys-jpn-2015-en, ISBN 9789264232389
- ^ “軽減税率、高年収ほど恩恵” (日本語). 共同通信 (共同通信社). (2019年3月1日) 2019年3月3日閲覧。
- ^ 事務局長 相原 康伸 (12 December 2019). "与党「令和2年度税制改正大綱」に対する談話" (Press release). 日本労働組合総連合会.
- ^ a b c https://zeihogakkai.com/press/files/573/209-224.pdf
- ^ “VATの還付制度:EU | 貿易・投資相談Q&A - 国・地域別に見る - ジェトロ”. www.jetro.go.jp. 2019年7月3日閲覧。
- ^ a b c 『諸外国の付加価値税 : 2008年版』,鎌倉治子,2008年
- ^ a b c d 消費税の軽減税率とC 効率性 - みずほ総合研究所
- ^ a b “インボイス制度導入による影響”. 株式会社エクス. 2022年7月22日閲覧。
- ^ 日本経済新聞「基礎的財政赤字、6兆円台半ばに拡大 軽減税率で」
- ^ “軽減税率導入、財源80億円不足=減収穴埋め策判明-消費増税:時事ドットコム”. 時事ドットコム. 時事通信社 (2019年2月5日). 2019年2月6日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 「軽減税率は先進国の常識」の大ウソ!欧州の「失敗」を繰り返さないために…
- ^ 主要国の付加価値税の概要 財務省
- ^ a b 経済・マネー 【金融スクープ】消費増税各国が苦心する軽減税率の“珍”線引き zakzak 2013年1月16日(2013年1月13日時点のインターネットアーカイブ)
- ^ 日本型軽減税率制度 - みずほ総合研究所
- ^ “消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)|国税庁”. www.nta.go.jp. 2018年11月10日閲覧。
- ^ a b “まるで「クイズ」のような軽減税率の線引き”. 東洋経済ONLINE. 東洋経済新報社 (2016年2月22日). 2019年3月17日閲覧。
- ^ “おもちゃ付きお菓子の軽減税率まとめ|プロ野球チップスなどの食玩は?”. ZEIMO. エファタ (2019年10月4日). 2023年11月12日閲覧。
- ^ “なぜ新聞まで!?国民不在の消費税軽減税率”. ダイヤモンド・オンライン (2015-12-17)閲覧。
- ^ “堀江貴文氏、軽減税率をめぐる公明党の狙いを指摘「聖教新聞守るため」”. livedoorNews. livedoor (2015年12月19日). 2015年12月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年10月21日閲覧。
- ^ “新聞に軽減税率を適用する必要はない” (日本語). HuffPost Japan. (2015年10月16日) 2018年10月4日閲覧。
- ^ “消費増税と新聞の軽減税率 朝日社説の変節ぶり(THE PAGE) - Yahoo!ニュース” (日本語). Yahoo!ニュース 2018年10月4日閲覧。
- ^ “「進次郎が訴えてもメディアはスルー…「新聞軽減税率」はなぜタブーか”. gendai.ismedia.jp. 週刊現代. 2020年8月28日閲覧。
- ^ 『連合 税制改革構想(第4次)』日本労働組合総連合会、2019年6月6日 。
- ^ a b c d e f “税率引き上げより怖い消費税の「インボイス制度」”. 大和総研グループ. 大和総研グループ (2018年12月12日). 2019年6月22日閲覧。
- ^ a b 『消費税の複数税率導入に反対する意見』(プレスリリース)日本経済団体連合会、2014年7月20日 。
- ^ 問題だらけの軽減税率 〜天下り先確保、野放しの脱税、そして増税…得をするのは金持ちだけ
- ^ “政治裁定:軽減税率/上(その2止) 財務省、重ねた誤算 - 毎日新聞” (日本語). 毎日新聞 2018年10月4日閲覧。
- ^ “税制調査会 2014年度 - 内閣府”. 内閣府ホームページ. 2019年3月22日閲覧。
- ^ 日本のキャッシュレス化に向けた課題-日本のキャッシュレス化について考える(3):研究員の眼 夏野剛公式twitterアカウント 2018年1月11日
- 1 軽減税率とは
- 2 軽減税率の概要
- 3 実状と単一税率による再分配との比較
- 4 各国の軽減税率の区分と問題
- 5 軽減税率と単一税率のC効率性比較
- 6 日本の軽減税率導入をめぐる指摘や課題
- 7 脚注・出典
軽減税率と同じ種類の言葉
- 軽減税率のページへのリンク