線形動物 線形動物の概要

線形動物

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/15 06:51 UTC 版)

線形動物門
ダイズシストセンチュウ
分類
: 動物界 Animalia
上門 : 脱皮動物上門 Ecdysozoa
階級なし : 糸形動物 Nematoida
: 線形動物門 Nematoda
学名
Nematoda Diesing, 1861
和名
線形動物門
英名
Nematode, Roundworm
下位分類

大半の土壌海洋中で非寄生性の生活を営んでいるが、同時に多くの寄生性線虫の存在が知られる。植物寄生線虫学 (nematology) では農作物に被害をもたらす線虫の、寄生虫学 (parasitology) ではヒト脊椎動物に寄生する物の研究が行われている。

特徴

  • 体は細長い糸状で[1]、触手や付属肢を持たない。一部のものは体表に剛毛を持つ。
  • 基本的に無色透明である。
  • 体節構造をもたない[1]
  • 偽体腔をもつ[2][1]
  • 雌雄異体で有性生殖が主であるが[1]単為生殖を行う種もあり、同一種内で系統により生殖が異なる場合がある。
  • 土壌中に莫大な個体数がおり、地球上のバイオマスの15%を占めているともいわれている。
  • 体長1mmほどの線虫が静電気を使って空中に飛び上がり、昆虫に乗る行動をする。跳躍は秒速1メートル。(北海道大学と広島大学の研究による)[3]
  • 土壌や水中に生息し、種類により人間に有害な細菌を食べたり、農作物の根に寄生して弱らせたりする[3]
  • 周囲の環境が汚れると2ヶ月間エサを食べずに生きられる幼虫に変態し尻尾で立ち上がれるようになる[3]
  • シベリア永久凍土から掘り出された線虫の一種が再び動きだしたといい、4万年以上もの間休眠状態を保っていた[4]

種と多様性

線形動物には、人間の寄生虫をはじめ、人間の生活に関わりの深いものも多く、それらの研究が進められる一方、自由生活のものの研究は後回しになりがちであった。しかし、自由生活のものの方がはるかに種数が多く、その研究が進むにつれ、種類数はどんどん増加しているので、どれくらいの種数があるかははっきりとは言えない状況である。その最大限の見積もりは、なんと1億種というものがある。これは、海底泥中での研究において、サンプル中の既知種の割合から算定されたものである。これが本当であれば、これまで最大の六脚類の種数を大きく抜き去り、地球上の生物種の大半は線形動物が占めていることになる。

土壌中の線形動物はその数も多く、生態的に重要な位置を占めていると思われる。細菌など微生物を食べているものと思われる。線形動物を捕食するものには、昆虫などがあり、また、菌類には線虫寄生菌や、食虫植物のように線虫を捕獲する線虫捕食菌というものがある。

ヒトとの関わり

ヒトには、カイチュウ(回虫)、ギョウチュウの他、(蚊)がベクターとなって、リンパ系フィラリア症や象皮症病原体であるマレー糸状虫、バンクロフト糸状虫が感染する。また、魚介類を通して感染するアニサキスも線虫の1種。

特にカイチュウは戦前には日本人はほとんど全員に寄生していたほどに普通であった。しかし、現在ではほとんど見ることができない。これは、カイチュウの感染経路が遮断されたためである。卵が糞便とともに排出され、それが口にはいることで感染するので、現在のように、糞便の処理が行われ、また、畑に下肥が入らない環境では生活史が維持できない。他方、卵が手から手へと移るギョウチュウは、現在でも広く見られるらしい。

海外産の輸入腐葉土には膨大なセンチュウが生息していることがあり、注意を要する[要出典]

農林業への影響

植物寄生する物としては松枯れ病を引き起こすマツノザイセンチュウ英語版マツクイムシ参照)[2]や、ダイズ生産上最も問題となるダイズシストセンチュウ英語版などがある。1960年代にカナダバンクーバー島南部のサーニッチ半島に上陸したジャガイモシストセンチュウはこの地方の農業産業を衰退させるほどの損害を与えた。また農作物に及ぼす傷害の形態により、ネグサレセンチュウネコブセンチュウとよばれる農業害虫のグループもある。これらは、薬剤散布のほかにマリーゴールドエンバクなどのコンパニオンプランツを導入することで、減少させることが可能である。

農作物へ及ぼすセンチュウ被害を軽減するためクロルピクリン1,3-ジクロロプロペンなどを成分とした殺虫剤が用いられる[5]。田畑の土壌中のセンチュウを駆除するためには大量の薬剤を用いてガスを発生させ燻蒸する必要があることから、環境へダメージを及ぼす1,2-ジブロモエタンなどの薬剤は既に使用が中止されている[6]


  1. ^ a b c d 藤田敏彦『動物の系統分類と進化』裳華房〈新・生命科学シリーズ〉、2010年、151-152頁。ISBN 9784785358426 
  2. ^ a b c d e 白山義久 著「線形動物門」、白山義久(編著) 編『無脊椎動物の多様性と系統(節足動物を除く)』裳華房〈バイオディバーシティ・シリーズ5〉、2000年、142-144頁。ISBN 4785358289 
  3. ^ a b c 読売新聞 2023年7月31日 30面
  4. ^ NHK NEWS WEB
  5. ^ 千葉修「殺線虫剤」『新版 林業百科事典』第2版第5刷 p184 日本林業技術協会 1984年(昭和59年)発行
  6. ^ 使用禁止農薬リスト” (PDF). 農林水産省. 2020年6月3日閲覧。
  7. ^ 毎日新聞2015年3月12日
  8. ^ Hirotsu T, Sonoda H, Uozumi T, Shinden Y, Mimori K, Maehara Y, et al. (2015-03-11). “A Highly Accurate Inclusive Cancer Screening Test Using Caenorhabditis elegans Scent Detection”. PLOS ONE 10 (3). doi:10.1371/journal.pone.0118699. ISSN 1932-6203. https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0118699. 
  9. ^ 線虫で膵臓がん疑い調査 ベンチャー企業、来年から”. 産経ニュース (2021年11月16日). 2021年11月16日閲覧。
  10. ^ 精度が疑問視された線虫がん検査、ブラインド条件での検証を望む:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2023年10月20日). 2023年11月25日閲覧。
  11. ^ 一部メディアでの報道について”. 2023年11月25日閲覧。
  12. ^ Meldal BH et al. (2007). “An improved molecular phylogeny of the Nematoda with special emphasis on marine taxa”. Mol Phylogenet Evol. 42 (3): 622-636. doi:10.1016/j.ympev.2006.08.025. 
  13. ^ a b 藤田敏彦『動物の系統分類と進化』裳華房〈新・生命科学シリーズ〉、2010年4月28日。ISBN 978-4785358426  pp.136-137.


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