籠神社 祭神

籠神社

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/23 05:41 UTC 版)

祭神

祭神は次の5柱。

主祭神

  • 彦火明命 (ひこほあかりのみこと)
    天火明命」、「天照御魂神」、「天照国照彦火明命」、「饒速日命」ともいうとする。社家海部氏の祖神。

相殿神

  • 豊受大神(とようけのおおかみ) - 「御饌津神」ともいうとする。
  • 天照大神(あまてらすおおかみ)
  • 海神(わたつみのかみ) - 社家海部氏の氏神。
  • 天水分神(あめのみくまりのかみ)

祭神については古くより諸説があり[3]、『丹後国式社證実考』では伊弉諾尊[注 1]、『神社明細帳』では天水分神としている。

歴史

創建

籠神社奥宮の真名井神社は外宮の旧鎮座地と伝える。

社伝によれば、現在伊勢神宮外宮に祀られている豊受大神は、元々は「真名井原」の地(現在の奥宮真名井神社)に鎮座したという。この地は「匏宮(よさのみや、与佐宮/吉佐宮/与謝宮)」と呼ばれたとし[4]、天照大神が4年間営んだ元伊勢の「吉佐宮」にあたるとしている[4]。そして白鳳11年(671年)彦火明命から26代目の海部伍佰道(いほじ)[注 2] が、祭神が籠に乗って雪の中に現れたという伝承に基づいて社名を「籠宮(このみや)」と改め、彦火火出見尊を祀ったという[4]。その後養老3年(719年)、真名井原から現在地に遷座し、27代海部愛志(えし)が主祭神を海部氏祖の彦火明命に改め、豊受・天照両神を相殿に祀り天水分神も合わせ祀ったと伝える[4]

伊勢神宮外宮の祭神である豊受大神の旧鎮座地が丹後国分出前の丹波国であったという伝承は古く、その比定地には諸説がある[3]延暦23年(804年)の『止由気宮儀式帳』では「比治乃真名井」から伊勢に移されたとし、『神道五部書』以来の伊勢神道では旧地を丹波国与佐宮としている[3]。『倭姫命世記』の元となったと推定される古代の文献『大同本記』には、垂仁天皇の御代に四道将軍の一人として丹波国に派遣された道主命の娘である八乎止女(やをとめ)が「比治乃真井」で「御饌都神」を奉斎したと伝える[5]。籠神社をその地にあてたものとしては、建武2年(1335年)の文書の「豊受太神宮之本宮籠大明神」という記載[6]天和年間(1681年-1684年)の籠神社縁起秘伝の「当社籠大明神ハ即豊受大神也」とし「与謝宮ハ則是籠大明神也」とする記載がある[6]

概史

国史での初見は嘉祥2年(849年)に「籠神」が従五位下に叙せられたという記事で、その後六国史での神階元慶元年(877年)の従四位上まで昇進した。

延長5年(927年)成立の『延喜式神名帳では丹後国与謝郡に「篭神社(籠神社) 名神大 月次新嘗」として、名神大社に列するとともに朝廷の月次祭新嘗祭幣帛に預かった旨が記載されている。籠神社の西方には丹後国分寺跡もあり、当地一帯が丹後国の中心地であったことがうかがわれる。

雪舟「天橋立図」
天橋立の右上に籠神社境内が描かれる。さらに右下には実際には遥か沖合にある冠島沓島が描かれる。

中世の籠神社境内の様子は雪舟の「天橋立図」(国宝、京都国立博物館蔵)に描かれている[6]。また『丹後国田数帳』には籠神社の神領について、籠宮田46町210歩や朔弊料田12町等、計59町3段210歩が記載されている[6]。しかし近世には社領を失い、わずか8斗4升4合であった[3]

明治に入り、1871年 (明治4年)には近代社格制度において国幣中社に列した。戦後は神社本庁別表神社となっている。

神階

  • 嘉祥2年(849年)2月25日、従五位下 (『続日本後紀』) - 表記は「篭神(籠神)」。
  • 貞観6年(864年)12月21日、従五位上から正五位下 (『日本三代実録』) - 表記は「篭神(籠神)」。
  • 貞観13年(871年)6月8日、正五位下から従四位下 (『日本三代実録』) - 表記は「篭神(籠神)」。
  • 元慶元年(877年)12月14日、従四位下から従四位上 (『日本三代実録』) - 表記は「篭神(籠神)」。

神職

籠神社の神職(社家)は、古くより海部氏(あまべうじ)の一族が担っている。海部氏とは海人部を統括した伴造氏族で[7]、全国に分布が見られ、籠神社社家はそれらのうち「海部直」姓を称して丹後に拠点を持った一族である。

一族には、現存では日本最古の系図「海部氏系図」(国宝、平安時代の書写)が残されており、彦火明命を始祖(初代)として82代の現宮司までの名が伝えられている[8]。また海部氏一族が丹波国造を担ったとも伝えているが[注 3]、丹波国造について『先代旧事本紀』の「国造本紀」では尾張国造と同祖で建稲種命四世孫の大倉岐命を祖と記し、同書「天孫本紀」では饒速日尊(天火明命)六世孫の建田背命を祖と記すように[9]、天火明命を祖とする尾張氏系と彦火明命を祖とする当一族との関連性が見られる[注 4]

境内

「上宮」の奥宮(真名井神社)に対して、本宮は「下宮」に位置づけられる[10]。本殿は、桁行三間、梁行二間の神明造で、檜皮葺弘化2年(1845年)の再建で、京都府の有形文化財に指定されている[11]。なお、欄干の擬宝珠は赤、黄、緑に彩色された「五色の座玉」で、格式の高い神社を表すと伝えられる[12]

神門前の左右に立つ凝灰岩製の石造狛犬は、安土桃山時代の作で国の重要文化財に指定されている[13]。なお、神社側では鎌倉時代の作と伝える[12]。阿形の狛犬の右前足は割れて鉄輪が嵌められているが、昔この狛犬が橋立に現れて悪さをしたので、天正年間(1573年-1592年)に岩見重太郎が斬ったことによると伝えられている[14]


  1. ^ 伊弉諾尊が天から通うための梯子が倒れ、天橋立になったという『丹後国風土記』逸文(釈日本紀所収)の伝承に基づく。
  2. ^ 代数は彦火明命を初代とした『元伊勢籠神社御由緒略記』に基づくもので、「海部氏系図」では代数から1を減じた「○世」と記している。
  3. ^ 丹後国は、和銅6年(713年)の分立まで丹波に含まれている。
  4. ^ 『国造制の研究 -史料編・論考編-』(八木書店、2013年)p. 222では、丹波国造の氏姓を「丹波直・海部直」とし、「アメノホアカリ・尾張国造系」に分類する。
  1. ^ 文化庁. “日本遺産認定ストーリー一覧”. 「日本遺産(Japan Heritage)」について. 2020年11月11日閲覧。
  2. ^ 文化庁. “300年を紡ぐ絹が織り成す丹後ちりめん回廊”. 日本遺産ポータルサイト. 2020年11月11日閲覧。
  3. ^ a b c d 『日本の神々』籠神社項。
  4. ^ a b c d 『元伊勢籠神社御由緒略記』p. 4。
  5. ^ 御巫清直『豊受神霊由来或問』(『大神宮叢書 神宮神事考証 前編』所収)神宮司庁(1935)402頁
  6. ^ a b c d e f 『京都府の地名』籠神社項。
  7. ^ 『日本古代氏族人名辞典 普及版』(吉川弘文館、2010年)海部氏項。
  8. ^ 『元伊勢籠神社御由緒略記』p. 8。
  9. ^ 『日本古代氏族人名辞典 普及版』(吉川弘文館、2010年)丹波氏項。
  10. ^ 『元伊勢籠神社御由緒略記』p. 1。
  11. ^ a b 籠神社 本殿(京都府生涯学習・スポーツ情報)。
  12. ^ a b c d 『元伊勢籠神社御由緒略記』p. 7。
  13. ^ a b c 国指定文化財データベース による。
  14. ^ 『元伊勢籠神社御由緒略記』p. 15。
  15. ^ 摂末社は『元伊勢籠神社御由緒略記』p. 2による。
  16. ^ a b 籠神社 摂社真名井神社本殿(京都府生涯学習・スポーツ情報)。
  17. ^ 平安時代から続く神事で、長く女人禁制とされてきた。少子高齢化で振り手を担える男性が減り、2014年から女性も振り手を務めるようになった。【ぷらすアルファ】「女人禁制」伝統に変化『毎日新聞』朝刊2018年4月14日(くらしナビ面)
  18. ^ 文化庁『国指定文化財等データベース』ほか諸資料
  19. ^ 籠神社文書(京都府生涯学習・スポーツ情報)。
  20. ^ 籠神社経塚出土品(京都府生涯学習・スポーツ情報)。
  21. ^ 籠神社の祭礼芸能(京都府生涯学習・スポーツ情報)。
  22. ^ いずれも『元伊勢籠神社御由緒略記』・神社由緒書に基づき、文化財評価は 平成21年の籠神社の至宝展 出陳一覧(京都府教育委員会)を参照して記載。


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