智頭急行HOT7000系気動車 概要

智頭急行HOT7000系気動車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/17 08:38 UTC 版)

概要

中国山地を通過する智頭急行智頭線および西日本旅客鉄道(JR西日本)因美線は、山岳路線ゆえに急勾配・急カーブが続く区間がある。本系列は、この高速運転に不利な条件を克服するため開発された、制御付自然振り子機構を採用した高速気動車である[24][20][2]

形式称号のHOTは、智頭線沿線の3県・兵庫県 (Hyogo)、岡山県 (Okayama)、鳥取県 (Tottori)のローマ字表記の頭文字を並べたものであり、番号の7000は1両あたりの機関出力が約700 PSであることに由来する[24][11][25]

構造

車体

気動車における振り子機構は気動車の機構的な性質から困難と考えられてきたが、先んじてJR四国鉄道総研と共同開発した2000系気動車によって問題解決され、同時に「制御付自然振り子方式」が開発されたため(詳細は2000系の当該箇所を参照)、当形式は2000系の振り子機構、エンジン、台車、車体構造の多くを踏襲している[26][27][28]

車体は、全長21.3 m(車体長20.8 m)、全幅2.845 m(車体幅2.820 m)の軽量ステンレス車体で、3次元曲面で構成された先頭車の運転台部分は、普通鋼であり、低重心で車高を抑え、車体断面が制御付自然振り子機構作動時に車両限界を超えないように設計されている[22][13][14][15][26][24][5]

非貫通形の先頭車側の前面ガラスは、前方の視界を向上するため3次元ガラスであり、傾斜角度やガラス面積を大きくし、先頭形状はスピード感あふれる流線形であり、前照灯尾灯は運転台上部に収納し、ワイパーブレードや手すり以外の突起物を取り付けないようにしている[22][11][29]。 貫通形の先頭車側は、貫通扉が目立たず非貫通形とのバランスを考慮し、前面ドア部は傾斜をつけた構造となっており、中間車として運用される場合は幌アダプターを使用することとした[29]

車体側面塗装の塗り分けは、HOT3500形と同じであり、色合いはHOT3500形より明るい色で、山陰・山陽の海の色を表したダークブルーをベースとし、前頭部の裾の部分は白色であり、各車両の側面車端部には山々の緑に映えるワインレッドのアクセントカラーを配し、背景の景色に溶け込む配色とした[22][30][20][11][29]。側面の側窓は、側面全体が流れるような造形とするため大型の高反射率ガラスを使用し、窓周りを黒色に塗装、また車外の吹き寄せ部にもガラスを取り付けて連続窓とした[22][11][29]

振子装置は、超過遠心力による乗り心地悪化を防ぐために、車体傾斜用空気シリンダを取り付けた制御付自然振子装置を採用し、HOT7000形とHOT7020形には曲線や距離を検知した情報などを総合指令を出す振子指令制御装置(CC装置)があり、振子制御装置から指令を受けて各車の振子制御装置(TC装置)でカーブの度合によって車両傾斜を制御しており、智頭線内のみ作動している[30][11][31][26][24]

客用扉は、ウイングスライド式のプラグドアを採用し、45度外側へ45 mm移動し、車体に沿って電話室やトイレ方向に900 mm移動する方式で、車椅子でも容易に乗り降りができるようにし、ステップを張り出す構造としたため戸袋は廃止している。片側1箇所となっており、冬季の雪害対策で客用扉閉時に下部レールが露出しないようにした[30][13][14][15][16][27][24][17]。 また、各車両側面の客用扉付近に、車号表示器や駅名と特急列車名を交互に表示させるように、LEDの表示器を設置した[32][24][17]

車内

車内は、ウォームグレーを基調とし、ワインレッドを加えた色調で、メラミン樹脂化粧板や化粧シートを使用し、落ち着きのある空間とした[30][29]

床には高耐候性鋼板のキーストンプレートの上に車両用の床材を設置し、その上から防音や断熱効果を高めるために塩化ビニル樹脂を貼り付けてカーペットを敷き防音シートを貼り付けたことから、床下からの騒音を軽減し静粛性の向上を図った[30][11][29][27]

照明は、天井中央部に半間接照明を設置し[27]、客室の側窓は、直射日光を遮り、車外から見えにくくするためにハーフミラーガラス(高反射率ガラス)の複層固定式であり、カーテンはプリーツタイプの横引きとした[18][11][27]

腰掛は、980 mmのシートピッチで4列シートであり、ジャガード張りの中肘掛け付き回転式フリーストップリクライニングバケットシートを採用しており、背面に大型テーブルやフットレストを装備している[30][32][26]。 HOT7020形の運転席側には2人・4人用のソファーの簡易個室を設け、HOT7040形の出入台部側の2席分が車椅子固定ベルト付きの専用席とし、HOT7050形の半室グリーン席の腰掛は、1,170 mmのシートピッチで3列シートである[32][14][16][27][17]

客室と出入台部の仕切り扉は、光電管式電気式自動扉であり、接点不良などによる故障を防ぐ構造とし、客室側の仕切り扉上部にLED案内情報表示器を設置し、停車駅・沿線案内などを表示し[32][27]、自動音声装置で停車駅のアナウンスを自動で放送できる仕組みである[33]

各先頭車両前部にテレビカメラを設置し[32][34][35][33]、客室の前後端にあるビデオモニターに前面展望映像やビデオ映像を映し出すことができる[32][33]

トイレは、中間車のHOT7030形・HOT7040形・HOT7050形の客用扉側に清掃が容易なFRP製ユニットの大便所と小便所が設置され、その反対側には人工大理石洗面所が設置されており、HOT7030形の大便所は和式、HOT7040形は車椅子のまま使用可能な洋式、HOT7050形は洋式であり、それぞれ床下に循環式汚物処理装置を設けている[18][15][16][36][17]

走行装置

走行用ディーゼルエンジンは、HOT3500形と同じコマツSA6D125H-1 [261 kW (355 PS) / 2,100 rpm]を各車に2基ずつ搭載する[18][31][12][36][5]。 力行指令は6ノッチで高出力化を図るとともに、機関の部品はHOT3500形と共用とし、部品の共通化を図った[31][27]液体変速機は変速1段・直結2段式の 新潟コンバーター製のTACN-22-1608を搭載し、変速と直結の切替は、自動切替とした[12][21][19]

台車は、制御付き自然振子装置組込円錐積層ゴム式ボルスタレス1軸駆動台車であり、車輪径は他の振子式気動車と同じ810 mmとし、密封複式円錐コロ軸受を採用しており、台車形式はFU46Dであり、ブレーキ装置は、ユニットブレーキを用いた特殊鋳鉄制輪子の踏面両抱き式を採用し、メンテナンスの向上を図った[18] [32][12]

制動装置は、営業最高速度が130 km/h[18][20][12]であり、高速度からの制動を配慮するため、電気指令式空気ブレーキ・応荷重装置・応速度装置・滑走防止装置や機関排気ブレーキを装備した[18][32][33]。また、下り勾配では抑速制動も可能としており、保安ブレーキは直通予備ブレーキを装備した[18][32][33]

当形式で改良された技術がN2000系にフィードバックされている。

空調装置

暖房装置は、運転席に能力4.9 kW(4,200 kcal/h)のエンジン排熱を利用した温風式が2基、客室のHOT7000形とHOT7010形に6基、HOT7020形に7基、HOT7030形・HOT7040形・HOT7050形に9基搭載されている[18][12]。 冷房装置は、能力27.9 kW(24,000 kcal/h)の新冷媒対応のBCU-50が2基搭載されており、換気は、天井に取り付けた電動換気扇を3台設置している[18][31][12][19]

改造

リニューアル

2009年までに全編成に「なごみの空間」をテーマにした、グリーン席・自由席車の腰掛モケットの交換や、内装・トイレの真空洋式化・車椅子対応トイレの自動扉化・LED 案内情報表示器のFM文字放送の表示・客用扉の開閉音声メッセージ機能の追加などのリニューアル工事を施工し[37][6]、リニューアルにより全車両禁煙となり1・5号車に喫煙ルーム(2009年6月に廃止)が設置された[38][37]。HOT7010形とHOT7020形車両の携帯電話コーナーは撤去され飲料の自動販売機が設置された[39]。このリニューアルにより2008年度グッドデザイン賞「身体の移動 領域部門」を受賞した[40]

リニューアル車の展示会などは以下の日程で実施された。

  • 2007年8月5日 - 展示会を鳥取駅2番のりばで実施。リニューアル車が公開された[37]
  • 2008年8月2日 - 展示会を倉吉駅3番のりばで実施。また、試乗会を鳥取 - 智頭間(片道)と智頭 - 大原間を往復する区間で実施。
  • 2008年8月3日 - 展示会を神戸駅1番のりば、京都駅7番のりばで実施[41]

再リニューアル

2016年春に再びリニューアル工事を施工。デッキ部に大型荷物置き場の設置(1・5号車)、多目的室の設置(5号車)、窓側座席にモバイルコンセントの設置、温水洗浄便座の設置・小便器の取り替え(2 - 4号車)が行われた。車体および車内のLED案内装置(次駅案内、観光案内など)も3色LEDからフルカラーLEDに更新している[42][43]


  1. ^ 夜間滞泊のため回送列車として和田山 - 福知山間も走行
  1. ^ a b c 概要 p.59
  2. ^ a b c d 要旨p.83
  3. ^ a b c d e f g h 車両動向 p.201
  4. ^ a b c d e 車両動向p.188
  5. ^ a b c d e f g RF608 寺田 p.110
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n RF730 寺田p.113
  7. ^ a b c d RF608 寺田 p.109
  8. ^ 智頭急行ヒストリー
  9. ^ RF730 寺田p.110
  10. ^ 智頭急行 営業概要
  11. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 福井 p.31
  12. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x 主要諸元続きp.85
  13. ^ a b c d e f g h i j HOT7000、HOT7010の形式図p.86
  14. ^ a b c d e f g h i j k HOT7020の形式図p.87
  15. ^ a b c d e f g h i j k HOT7030の形式図p.88
  16. ^ a b c d e f g h i j k HOT7040の形式図p.89
  17. ^ a b c d e f g h i j k l m n o HOT7050形 車両概要 p.154
  18. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 主要諸元 p.61
  19. ^ a b c d e f g h 車両諸元 p.194
  20. ^ a b c d 福井 p.30
  21. ^ a b c d 車両諸元表 p.182
  22. ^ a b c d e 概要やエクステリア p.60
  23. ^ 台車・ブレーキ装置などp.131
  24. ^ a b c d e f 車両概要など p.130
  25. ^ a b c d e f g 設計の狙いと主要諸元p.84
  26. ^ a b c d 振子制御装置続きと車体及び車体設備p.91
  27. ^ a b c d e f g h 車体及び車体設備の続き(乗務員室や空調設備など)p.96
  28. ^ 車体及び車体設備の続き(台車関連)p.97
  29. ^ a b c d e f デザインや振子制御装置や基本編成図p.90
  30. ^ a b c d e f インテリアや振り子装置 p.62
  31. ^ a b c d 福井 p.32
  32. ^ a b c d e f g h i 福井 p.33
  33. ^ a b c d e ブレーキ装置など p.99
  34. ^ 非貫通側運転台詳細図p.93
  35. ^ 貫通側運転台詳細図p.94
  36. ^ a b 床下機器配置図 p.98
  37. ^ a b c 平成21年度までに全34両で工事施行 智頭急行HOT7000系リニューアル車 p.70
  38. ^ 「スーパーはくと」が6月から全席禁煙に
  39. ^ 智頭急行スーパーはくとの詳細
  40. ^ 鉄道車両 [特急列車リニューアル スーパーはくと HOT7000系]
  41. ^ HOT7000系リニューアル車の展示会
  42. ^ 智頭急行、『スーパーはくと』の内装を更新中…座席や情報表示器などをリニューアル
  43. ^ 智頭急行HOT7000系の側面表示がフルカラーLEDに
  44. ^ 坂本 p.50
  45. ^ JR気動車客車編成表 '95年版
  46. ^ a b 坂本 p.51
  47. ^ RF730 寺田p.112





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「智頭急行HOT7000系気動車」の関連用語

智頭急行HOT7000系気動車のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



智頭急行HOT7000系気動車のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの智頭急行HOT7000系気動車 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS