悪魔 悪魔の概要

悪魔

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/26 05:20 UTC 版)

ミケランジェロ作「聖アントニウスの苦悩」。様々な誘惑をする悪魔達にもがき苦しむ大アントニオスを描いている。
アルハンゲリスク州の都市の紋章, ロシア, 悪魔との大天使の戦いミカエルを示している。

悪魔は、仏教において仏教を妨害する邪神を意味することもある。キリスト教ではサタンを指し、を冒涜し試みる、人間を誘惑する存在とされる[2]。サタン以外の西洋文化における悪霊(悪魔)も、現代日本語では悪魔と呼ばれることが一般的。イスラム教では、悪魔は シャイターンイブリースと呼ばれている。

一枚岩の宗教においては神に敵対するものを指し、他宗教の神に対する蔑称でもある(後述)。

日本語の悪魔

漢語の「悪魔」は本来、漢訳仏典に由来する仏教語であるが、現代日本語では西洋のサタン、デビル、デーモンの訳語としても用いられている[3]ハビアンの『破提宇子』には「ヂヤボ」(ポルトガル語の Diabo の音訳)、「悪魔」、「天狗」といった、キリシタンによるキリスト教の悪魔の翻訳例が示されている[4]

仏教語としての悪魔はサンスクリット語マーラの音訳「魔羅」「魔」と同義である。「」という漢字は、仏教関係者の新しい作字であり、死者を指し超自然的なものを含意する意符「」と、マーラの音を表す音符「麻」とを組み合わせたものである。唐の僧侶湛然によれば、古くは「磨」と書かれていたのをの武帝蕭衍以来「魔」と書くようになったという(『止観輔行伝弘決』: 「古訳経論 魔字従石 自梁武帝 謂魔能悩人 字宜従鬼」)。康煕字典でも、前述した説文解字のあとに正字通からの引用として「訳経論にいわく。魔は古(いにしえ)は石に作って磨となす。䃺を省く也。梁武帝、改めて鬼となす。[この字は『訳経論』によれば磨の異体字である。元々石のところを梁の武帝が鬼に改めたのだ])」として記されている。[5]ただし、前述のように『説文解字』に出ている他、梁の武帝よりも前の時代に書写されたと推定される「魔」の字を含む考古学史料が存在する[6]。日本の民俗信仰では、災いをなす原因と想定されるモノを漠然と擬人的に「悪魔」と呼ぶようになった[7]通り悪魔も参照)。

西洋語の悪魔

悪魔・魔王を指す西洋語の「デビル」 (: Devil, : Teufel) はヘブライ語のサタンのギリシア語訳ディアボロス (古希: Διάβολος: Diabolus) から派生した言葉であり、キリスト教の神に敵対する存在を指す。

悪魔とも悪霊とも和訳される西洋語の「デーモン」(フランス語読みで「デモン」とも)の語源は、ギリシア語のダイモーン古希: δαίμων、ラテン翻字 daimon)である(デーモンを指す西洋諸語 : demon, : Dämon はギリシア語のダイモーンから派生した)。ダイモーンのラテン語綴り daemon はキリスト教的文脈においてほぼ悪霊・悪魔の意味で用いられている。英語でも daemon は demon と同様に [diːmən] と発音され、ギリシア神話のダイモーンの意味で用いられる場合もあるが、悪霊としての demon の別綴りとして用いられることもある[8]

デビルとデーモンはいずれも、ラテン語で神を意味するデウス (deus) と同様に、サンスクリットを意味する語である「デーヴァ」(देव女性形は「デーヴィー」 देवी)と同じ印欧祖語語根 div (輝く)の派生であるという説もある[9]

英語での悪魔の俗称「オールド・ニック Old Nick」は北欧神話の「オーディン Woden」に他ならないという説がある[10]


注釈

  1. ^ 『首楞嚴經』には、仏教を信じれば十方の仏が現れて救われ浄土が顕現することを述べたあと、夜叉や羅刹でも仏像を拝んだり、仏戒を守ったり、陀羅尼を覚えたり、禅定を護持すればブッダに救われるだろうとしている。経文の原文では「即爲飛仙大力鬼王。飛行夜叉地行羅刹。遊於四天。所去無礙。其中若有善願善。心画像護持我法。或護禁戒隨持戒人。或護神呪隨持呪者。或護禪定保綏法忍。是等親住如來座下。」(即ち飛仙、大力鬼王、飛行の夜叉、地行の羅刹…と為すも、その中にもし善有り、善を願えば…是等は親しく如来の座下に住まん)。文は『大正新修大蔵経』の「大佛頂如來密因修證了義諸菩薩萬行首楞嚴經」によった。

出典

  1. ^ 中村元福永光司田村芳朗、今野達、末木文美士 編 『岩波 仏教辞典 第二版』 岩波書店、2002年、p.6
  2. ^ 大貫隆・名取史郎・宮本久雄・百瀬文明編『岩波キリスト教辞典』岩波書店、2002年、16-17頁
  3. ^ 南條竹則 『悪魔学入門』 講談社、2010年、pp.20-21
  4. ^ 破提宇子 (吉利支丹史料)
  5. ^ 『康熙字典』亥集上:武英殿本(内府本)6998頁、第16字の「魔」字項より。
  6. ^ 船山徹 『仏典はどう漢訳されたのか - スートラが経典になるとき』 岩波書店、2013年、185-187頁。
  7. ^ 福田アジオ、新谷尚紀、湯川洋司、神田より子、中込睦子、渡邊欣雄 編 『精選 日本民俗辞典』 吉川弘文館、2006年、p.9 「悪魔」(池上良正 筆)
  8. ^ 『リーダーズ英和辞典』、『ジーニアス英和大辞典』など。
  9. ^ フレッド・ゲティングズ 『悪魔の事典』 青土社
  10. ^ S・ベアリング=グールド『民俗学の話』今泉忠義 訳、角川文庫、1955年、62頁。 
  11. ^ 稲垣良典 『天使論序説』 講談社学術文庫
  12. ^ a b c d シュメルツァー 1993, pp. 54–61.
  13. ^ [監修]岡田温司『「聖書」と「神話」の象徴図鑑』ナツメ社 p166
  14. ^ a b 谷口茂(編}『宗教における罪悪の諸問題』 山本書店 1991年 ISBN 4-8414-0163-6 pp.151-157.
  15. ^ 田中雅志 『魔女の誕生と衰退』 三交社、2008年、pp.34-41
  16. ^ J・B・ラッセル 『ルシファー 中世の悪魔』 野村美紀子訳、教文館、1989年、p.32
  17. ^ テモテヘの第一の手紙(口語訳)#3:7
  18. ^ テモテヘの第二の手紙(口語訳)#2:26
  19. ^ ヤコブの手紙(口語訳)#4:7
  20. ^ ヨハネの第一の手紙(口語訳)#5:19
  21. ^ J・B・ラッセル 『ルシファー 中世の悪魔』 野村美紀子訳、教文館、1989年、p.52
  22. ^ 大貫隆、名取四郎、宮本久雄、百瀬文晃 編 『岩波キリスト教辞典』 岩波書店、2002年、p.17 「悪魔」(大貫隆筆)
  23. ^ 誠信書房 『新佛教辞典』
  24. ^ ルーサー・リンク 『悪魔』 高山宏訳、研究社出版、1995年、p18
  25. ^ J・B・ラッセル 『悪魔の系譜』(新装版)、大瀧啓裕訳、青土社、2002年、p16
  26. ^ A・リチャードソン、J・ボーデン編 『キリスト教神学事典』 古屋安雄監修、佐柳文男訳、教文館、2005年、p25
  27. ^ J・B・ラッセル 『ルシファー 中世の悪魔』 野村美紀子訳、教文館、1989年、pp.51-52
  28. ^ "devil", Encyclopædia Britannica. 2007. Encyclopædia Britannica Online. 29 June 2007.
  29. ^ ダイアン・フォーチュン 『心霊的自己防衛』 国書刊行会 pp.90-91
  30. ^ ジョン・R・ヒネルズ『ペルシア神話』井本英一、奥西峻介訳 青土社 1993年 ISBN 4791752724 pp.107-119.






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