悪魔 キリスト教の悪魔

悪魔

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/09 01:51 UTC 版)

キリスト教の悪魔

悪魔を踏みつけるミカエル

堕落の教理

教父たちは、かつては神に仕えた天使の罪について論じた[10]。 中世のスコラ学では善良な天使と邪悪な天使との人間の交流についての思弁的な論究が交わされた。13世紀に入ると悪魔の存在が現実の危機として考えられるようになり、より具体的、現実的な考察が行われるようになった。特に悪魔と人間の肉体交渉について神学者は関心を寄せ、教義の一つへと発展していった[11]

なかでも、当時絶大な権威を持っていた神学者トマス・アクィナスは、悪魔(インキュバスサキュバス)は人間の姿をとって人間と交わることが可能であり、神の許しのもとに人間にあらゆる害を与える力があると主張し議論を決定づけた[11]

キリスト教神学では、神に対して謀反を起こした堕天使(サタン)の手先である。神学では、人間を誘惑して堕落させ、カトリック教会を滅ぼそうとするものとされた。また、角、翼・蹄・尻尾などを持つ姿で表現されるほか、黒い影でも表現された。一方で、教化のため教会が利用した[12]

近代的な合理主義的思考が定着するにつれて、悪魔は言い知れぬ恐怖の存在から、より具体的、肉体的な実在性を帯びるようになる[13]1632年に発生したルーダンの悪魔憑き事件英語版のような悪魔の仕業とされる事件や、悪魔憑きの現象や対抗措置としての悪魔払いは、近現代に至るまで否定されることなく続いている[13]

キリスト教と異教

ギリシア語の旧約および新約聖書では悪霊的存在がダイモーン(またはダイモニオン)と記されており、使徒パウロ、教父アウグスティヌスは、異教の神と悪魔を同一のものとして記述している。アウグスティヌスは『神の国』第10巻において、人を欺くダイモーンの危険性を指摘した新プラトン学派の哲学者ポルピュリオスの不徹底を批判し、ダイモーンはすべて悪霊であって、異教の神々は悪霊が偽装したものであるとした[14]

11世紀の東ローマ帝国の知識人で宮廷の有力者でもあったミカエル・プセルロス悪魔学の著作を遺している (Greenfield, Traditions of Belief in Late Byzantine Demonology を参照)。新プラトン主義的な発想や民俗的デーモン観を取り入れたプセルロスの鬼神論は、東方正教会の中心地であったコンスタンティノポリスで重んじられたほか、ラテン語訳されてルネサンス期に西方教会の領域にも広まった[15]

悪魔の罠

悪魔はを用いるとされる[16][17]。悪魔に立ち向かうようにと勧められてはいるが[18]、全世界は悪しき者の配下にあるとされているため[19]、悪魔の罠を見破るのは一般人には容易ではない。


  1. ^ a b 中村元福永光司田村芳朗、今野達、末木文美士 編 『岩波 仏教辞典 第二版』 岩波書店、2002年、p.6
  2. ^ 大貫隆、名取四郎、宮本久雄、百瀬文晃 編 『岩波キリスト教辞典』 岩波書店、2002年、pp.16-17
  3. ^ 南條竹則 『悪魔学入門』 講談社、2010年、pp.20-21
  4. ^ 芥川龍之介『るしへる』 - 青空文庫
  5. ^ 船山徹 『仏典はどう漢訳されたのか - スートラが経典になるとき』 岩波書店、2013年、185-187頁。
  6. ^ 福田アジオ、新谷尚紀、湯川洋司、神田より子、中込睦子、渡邊欣雄 編 『精選 日本民俗辞典』 吉川弘文館、2006年、p.9 「悪魔」(池上良正 筆)
  7. ^ 『リーダーズ英和辞典』、『ジーニアス英和大辞典』など。
  8. ^ フレッド・ゲティングズ 『悪魔の事典』 青土社
  9. ^ S・ベアリング=グールド著、今泉忠義・訳『民俗学の話』角川文庫、1955年、62p。
  10. ^ 稲垣良典 『天使論序説』 講談社学術文庫
  11. ^ a b c d シュメルツァー 1993, pp. 54–61.
  12. ^ [監修]岡田温司『「聖書」と「神話」の象徴図鑑』ナツメ社 p166
  13. ^ a b 谷口茂(編}『宗教における罪悪の諸問題』 山本書店 1991年 ISBN 4-8414-0163-6 pp.151-157.
  14. ^ 田中雅志 『魔女の誕生と衰退』 三交社、2008年、pp.34-41
  15. ^ J・B・ラッセル 『ルシファー 中世の悪魔』 野村美紀子訳、教文館、1989年、p.32
  16. ^ テモテヘの第一の手紙(口語訳)#3:7
  17. ^ テモテヘの第二の手紙(口語訳)#2:26
  18. ^ ヤコブの手紙(口語訳)#4:7
  19. ^ ヨハネの第一の手紙(口語訳)#5:19
  20. ^ J・B・ラッセル 『ルシファー 中世の悪魔』 野村美紀子訳、教文館、1989年、p.52
  21. ^ 大貫隆、名取四郎、宮本久雄、百瀬文晃 編 『岩波キリスト教辞典』 岩波書店、2002年、p.17 「悪魔」(大貫隆筆)
  22. ^ 誠信書房 『新佛教辞典』
  23. ^ ルーサー・リンク 『悪魔』 高山宏訳、研究社出版、1995年、p18
  24. ^ J・B・ラッセル 『悪魔の系譜』(新装版)、大瀧啓裕訳、青土社、2002年、p16
  25. ^ A・リチャードソン、J・ボーデン編 『キリスト教神学事典』 古屋安雄監修、佐柳文男訳、教文館、2005年、p25
  26. ^ J・B・ラッセル 『ルシファー 中世の悪魔』 野村美紀子訳、教文館、1989年、pp.51-52
  27. ^ "devil", Encyclopædia Britannica. 2007. Encyclopædia Britannica Online. 29 June 2007.
  28. ^ ダイアン・フォーチュン 『心霊的自己防衛』 国書刊行会 pp.90-91
  29. ^ ジョン・R・ヒネルズ『ペルシア神話』井本英一、奥西峻介訳 青土社 1993年 ISBN 4791752724 pp.107-119.






悪魔と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「悪魔」の関連用語

検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



悪魔のページの著作権
Weblio 辞書情報提供元は参加元一覧にて確認できます。

  
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの悪魔 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2022 GRAS Group, Inc.RSS