悪魔
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悪魔の姿形
悪魔の姿を見た、という伝承は古来から様々な形で残るものの、信頼に足る記録などは現在のところ存在しない。
悪魔の観念が固定しつつあった11世紀ごろの芝居に登場する悪魔は黒い服を着たグロテスクな異形であり[12]、今日でもロマネスク様式やゴシック様式の建造物のレリーフにそういったデーモンを見ることができる。
よくある類型的な悪魔像は、ある程度「人間に似た形」をし、肌が紺色、あるいは黒や赤色で、目は赤く、とがった耳を持ち、とがった歯を有する裂けた口を持ち、頭部にはヤギのような角を生やし、とがった爪の付いたコウモリのような翼に、矢印のように鋭く尖った尻尾を持つ、といったもの。また、かかとがないことも重要な特徴とされる。絵に描かれた悪魔は、これらの特徴のほぼすべてを備えているものもあれば、一部のみを有するものもある(バフォメット(山羊頭の悪魔)の項目を参照)。
高等な悪魔は外見が男性的であったり、女性的であっても実際は両性具有であるという説もある。中世には、女性に近づく悪魔は上品な身なりの伊達男や兵士、騎士の姿をしていると言われていた[12]。
ペルシア神話や初期ゾロアスター教の悪魔アンラ・マンユはトカゲ・ヘビ・人間の若者と姿形を変化させることができるとされたが、後期の文献では、実体を持った物質世界は神の創造した善の領域であり、悪魔は実体を持たず人間や動物の中に住むと説明している[30]。
比喩・強調としての「悪魔」
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悪魔という言葉は、残忍・非道でずる賢い人間の喩えとしても用いられる。
議論の方法として、あえて個々人の賛否について反対の立場から議題を眺め、批判や矛盾点を明らかにするという方法がある。このときの役割を担う人を悪魔の代弁者と呼ぶ。
「小悪魔」という表現は、見せかけの可愛らしさと性的魅力とで男性を誘惑する女性を指すことがある。「悪魔のささやき」は常に甘美である。神に従うのは潔癖さや信仰への忠誠が求められるなど厳しい道であるが、悪魔に従うのは堕落であり、むしろこちらの方が魅力的な場合が多い。
音楽
楽器の速弾きによる超絶技巧は往々にして悪魔に結びつけられる。神業でもあるのだが、音楽においては神のそれはゆったりしたものとの定見がある。遅いテンポで美しい旋律が流れる音楽は「天国的」といわれる。
また、モーツァルトの音楽は悪魔が書かせたもの、との言葉がある。音楽美において、アポロン的美とディオニューソス的美を対立させる考えがあり、モーツァルトのそれは後者の代表とされるが、ギリシャ神話は多神教で悪魔の性質も神々が抱えており、中でも酒の神であるディオニューソスは集団的狂乱を呼び起こしたりと悪魔的な側面が強い。哲学者のニーチェはこのディオニーソス的な狂乱を美徳とし、ディオニーソス賛美の著書を記した。
科学の世界の悪魔
デカルトが「我思う、故に我在り」を導くために悪魔を仮定したことで知られる。
ゲーテの『ファウスト』で描かれるところのメフィストフェレスは「理性は持っているが悟性は持たない」ことになっている。
科学の分野でも悪魔の存在を仮定する例がある。「ラプラスの悪魔」や「マクスウェルの悪魔」が有名で、いずれもパラドックスに関わっている。
近年でも、化学兵器や核兵器など大量破壊兵器に関わる学者は「悪魔の科学者」といわれることがある。創作の中でのマッドサイエンティストはその例である。
シンボル・マスコット・名称としての「悪魔」
- BSDデーモン - FreeBSDに代表されるBSDオペレーティングシステムのマスコット。
- デーモン (ソフトウェア) - Unix系のオペレーティングシステム (OS) で、主にバックグラウンドで動作するプロセス。
注釈
- ^ 『首楞嚴經』には、仏教を信じれば十方の仏が現れて救われ浄土が顕現することを述べたあと、夜叉や羅刹でも仏像を拝んだり、仏戒を守ったり、陀羅尼を覚えたり、禅定を護持すればブッダに救われるだろうとしている。経文の原文では「即爲飛仙大力鬼王。飛行夜叉地行羅刹。遊於四天。所去無礙。其中若有善願善。心画像護持我法。或護禁戒隨持戒人。或護神呪隨持呪者。或護禪定保綏法忍。是等親住如來座下。」(即ち飛仙、大力鬼王、飛行の夜叉、地行の羅刹…と為すも、その中にもし善有り、善を願えば…是等は親しく如来の座下に住まん)。文は『大正新修大蔵経』の「大佛頂如來密因修證了義諸菩薩萬行首楞嚴經」によった。
出典
- ^ 中村元、福永光司、田村芳朗、今野達、末木文美士 編 『岩波 仏教辞典 第二版』 岩波書店、2002年、p.6
- ^ 大貫隆・名取史郎・宮本久雄・百瀬文明編『岩波キリスト教辞典』岩波書店、2002年、16-17頁
- ^ 南條竹則 『悪魔学入門』 講談社、2010年、pp.20-21
- ^ 破提宇子 (吉利支丹史料)
- ^ 『康熙字典』亥集上:武英殿本(内府本)6998頁、第16字の「魔」字項より。
- ^ 船山徹 『仏典はどう漢訳されたのか - スートラが経典になるとき』 岩波書店、2013年、185-187頁。
- ^ 福田アジオ、新谷尚紀、湯川洋司、神田より子、中込睦子、渡邊欣雄 編 『精選 日本民俗辞典』 吉川弘文館、2006年、p.9 「悪魔」(池上良正 筆)
- ^ 『リーダーズ英和辞典』、『ジーニアス英和大辞典』など。
- ^ フレッド・ゲティングズ 『悪魔の事典』 青土社
- ^ S・ベアリング=グールド『民俗学の話』今泉忠義 訳、角川文庫、1955年、62頁。
- ^ 稲垣良典 『天使論序説』 講談社学術文庫
- ^ a b c d シュメルツァー 1993, pp. 54–61.
- ^ [監修]岡田温司『「聖書」と「神話」の象徴図鑑』ナツメ社 p166
- ^ a b 谷口茂(編}『宗教における罪悪の諸問題』 山本書店 1991年 ISBN 4-8414-0163-6 pp.151-157.
- ^ 田中雅志 『魔女の誕生と衰退』 三交社、2008年、pp.34-41
- ^ J・B・ラッセル 『ルシファー 中世の悪魔』 野村美紀子訳、教文館、1989年、p.32
- ^ テモテヘの第一の手紙(口語訳)#3:7
- ^ テモテヘの第二の手紙(口語訳)#2:26
- ^ ヤコブの手紙(口語訳)#4:7
- ^ ヨハネの第一の手紙(口語訳)#5:19
- ^ J・B・ラッセル 『ルシファー 中世の悪魔』 野村美紀子訳、教文館、1989年、p.52
- ^ 大貫隆、名取四郎、宮本久雄、百瀬文晃 編 『岩波キリスト教辞典』 岩波書店、2002年、p.17 「悪魔」(大貫隆筆)
- ^ 誠信書房 『新佛教辞典』
- ^ ルーサー・リンク 『悪魔』 高山宏訳、研究社出版、1995年、p18
- ^ J・B・ラッセル 『悪魔の系譜』(新装版)、大瀧啓裕訳、青土社、2002年、p16
- ^ A・リチャードソン、J・ボーデン編 『キリスト教神学事典』 古屋安雄監修、佐柳文男訳、教文館、2005年、p25
- ^ J・B・ラッセル 『ルシファー 中世の悪魔』 野村美紀子訳、教文館、1989年、pp.51-52
- ^ "devil", Encyclopædia Britannica. 2007. Encyclopædia Britannica Online. 29 June 2007.
- ^ ダイアン・フォーチュン 『心霊的自己防衛』 国書刊行会 pp.90-91
- ^ ジョン・R・ヒネルズ『ペルシア神話』井本英一、奥西峻介訳 青土社 1993年 ISBN 4791752724 pp.107-119.
悪魔と同じ種類の言葉
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