寄生獣 (映画)
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製作
この日本映画版から遡ること約10年前の2005年にはアメリカの配給会社であるニュー・ライン・シネマが原作の排他的な映像化権を獲得し[2][37]、ハリウッド映画化が発表されていたものの[37][38]、結局この時はその後の続報がないまま[38] 企画が休止となり[37][注釈 18]、そのまま2013年に入って映画化権の契約期間が終了している[2][37]。
しかし、原作漫画の人気は根強く[37]、以前から映像化の機会をうかがっていた日本国内の数十社によって争奪戦が繰り広げられ、最終的に東宝が映画化権を取得した[2][9][37]。2013年11月20日には日本での実写映画化およびテレビアニメ化が同時に正式発表され、実写映画版のスタッフ・主要キャストが公開された。
監督の山崎は、本作の原作漫画を『月刊アフタヌーン』で連載を開始した当時から読んでおり、ハリウッドに渡っていた映像化権が日本に戻ってくる前から、企画に加わりたいという意向をアピールしていたという[9]。脚本は、山崎が初期稿を書き、古沢がそれとは大きく内容や構成が異なったものを書き、多くの部分は古沢の脚本に準拠しつつ双方の内容を取捨選択して取り込む形で決定された[10]。実写映画版では設定やストーリーの変更も行われているが、もともと原作にあったモチーフを強調する形での変更となっている[7]。原作にあったエピソードは踏襲しつつも、順序は変更されており、一部の主要登場人物は原作における複数の登場人物の役割を担っている。
物語の時代設定は原作から変更されており[19]、同年のテレビアニメ版と同様、主要登場人物たちがインターネットや携帯電話を利用する描写がされている。ただし監督の山崎は、原作の内容は映画の制作時点から見ても古びておらず、携帯電話が繋がらなかったり着信側が電話を取らなかったりする状況を描けば映画公開当時の時代の話としても違和感がないので、そのことで苦労したことはなかったとしている[8][9]。
劇中に登場する寄生生物・パラサイトのVFXは、CGや模型を組み合わせて撮影された[39][注釈 19]。俳優の顔が異形の姿に変形する場面のVFXにはコナミデジタルエンタテインメントの技術が、また主人公の右腕に寄生するパラサイト・ミギーの動きをモーションキャプチャーで取り込む際にはスクウェア・エニックスの技術が用いられるなど、日本のゲームメーカーの先端技術が特別な許可を得て借用された[9][16][注釈 20]。
原作にあった人間がパラサイトに捕食される場面などの残虐表現は、レイティングがPG12に抑まる範囲の限界を模索する形で再現され[41]、一見するとPG12指定の作品とは思えないような表現がなされたが[42]、本作の観客が求めているものは決して気持ちの悪い流血表現ではないだろうという点も考慮された[10]。人体が損壊する瞬間ははっきり見せないといった自主規制には従いつつ[41]、人体の切断面はグロテスクにせず臓器と骨の層構造を美しく見せるという方針が取られ[40]、パラサイトが人間を捕食する場面も自然ドキュメンタリー番組のような映像を意識し、野生動物の狩りのように演出することが意識された[41][10][9]。
設定
- 舞台設定
- 物語の舞台となるのは架空の都市で、全国各地にある複数のロケ地を繋ぎ合わせて描かれている[43]。またパラサイトたちが住む地域には、原作と同じく「東福山市」という架空の地名が設定されている。この架空の都市は、設定上では高台にはパラサイトたちの住居が、坂の下には人間たちの住居があり、主人公たちの住居はその中間である坂の途中というイメージで描かれている[44]。
- パラサイトが住む世界と人間が住む世界を視覚的に区別したいという意図から、人間たちの居住空間は雑然としたものとして描き、パラサイトたちの居住空間はセンスが良く無駄を廃した空間として描くというコンセプトが掲げられた[44]。
- 主人公たちが通う高校は、原作では単に「西校」と呼ばれていたが、実写映画版では「西稜館高等学校」という架空の学校名が設定されている。
- パラサイト
- 実写映画版では、パラサイトたちは地球上で誕生したものであり異星人ではないという設定を強調する意図から[45]、パラサイトのディテールや人間を捕食する際の動きには深海生物のモチーフが取り入れており[46]、映画の冒頭でもそのことを踏まえた変更がなされている[47]。
- 原作では、パラサイトたちは自分たちのことをパラサイトと名乗ることはなく、自分たちを「仲間」「我々」と称していたが、実写映画版において広川剛志や「田宮良子」が所属する集団は、自らの組織を「パラサイトネットワーク」と名乗っている。
- 実写映画版では、パラサイトに脳を乗っ取られた人間にも脊髄などに宿主の人間性が残っており、そのことがパラサイトにも影響を与え、寄生部分と人間部分が混じり合うことで個性が生まれるという解釈がなされている[8]。また原作におけるパラサイトは、地球の意思が彼らを送り込んだというガイア理論的な解釈ができる描かれ方をしていたのに対し[4]、実写映画版では人間自身がパラサイトを呼び寄せ、人間がパラサイトの本能に対して人間を食い殺すよう囁いているという解釈が用意され[4][注釈 21]、完結編の終盤で「後藤」による主張という形で示される。
主な撮影地
- 茨城県小美玉市(旧小川高校校舎[15])
- 東京都大田区[15]、
- 東京都府中市[48]
- 神奈川県横浜市金沢区(横浜・八景島シーパラダイス[22])
- 神奈川県鎌倉市(一般住宅 - 泉宅外観[15][44])
- 静岡県駿東郡長泉町(旧長泉高校校舎[15])
- 愛知県名古屋市西区(円頓寺商店街)
- 三重県四日市市(海星高校[49][15]・スーパーマーケット[49][50]・港湾施設[49])
- 京都府綾部市(交流プラザ[44])
- 大阪府大阪市淀川区(阪急淀川橋梁 - 新一と寄生された母とのバトル現場[50])
- 大阪府堺市堺区(堺魚市場)
- 兵庫県神戸市東灘区(アイランドセンター駅 - 広川剛志演説会場[50])
ロケ地は西日本を中心に全国15府県から選ばれ[43]、前編と完結編の撮影は同時期に行われた[43]。原作が「命」を重要なテーマとして扱っていることから、そうした要素を感じ取れる場所として水族館、動物園、魚市場などがロケ地として選ばれた[5][51]。撮影は5か月に及んだ[43]。
クランクイン初日は、主人公とヒロインが下校する場面から撮影が開始され、東京都府中市が最初のロケ地となった[48]。劇中で主人公らが初めて他のパラサイトと遭遇することになる中華料理店は、外観を東京都大田区で[48]、内部を撮影スタジオ内に作られたセットで撮影された[22]。主人公の自宅は、外観を神奈川県鎌倉市にあるカフェを兼ねた昭和モダン風の住宅で[15][44]、内部を複数のスタジオ内のセットで撮影されており[48][15]、主人公の家族がそれまでどのように住んでいたのかという裏設定を用意した上で間取りや家具の配置が決められた[44]。
主要登場人物が通う西高こと「西稜館高等学校」は、茨城県立小川高等学校(閉校)、静岡県立長泉高等学校(閉校)、三重県の海星高等学校の3つの学校で撮影され[15]、劇中において1つの学校のように見えるよう編集された。このうち海星高校のみ撮影時点で存続している学校であり、エキストラには生徒も参加したが、このような廃校となっていない学校で映画の撮影が行われるのは珍しいという[49]。海星高校の所在する四日市市では他にも、映画の冒頭で寄生前のパラサイトたちが海から港へと上陸し、トレーラーなどに侵入して各地へと散っていく場面や[49]、物語中盤で主人公とヒロインがスーパーマーケットで夕食の買い物をする場面が撮影された[49][50]。
パラサイトが捕食した人間を貪り食う「食堂」となる建物内部や、「田宮良子」が両親を殺害する場となる自宅の撮影は、なかなか撮影許可が下りなかったものの、最終的には建築家の安藤忠雄が手掛けた建築物群を中心に、複数の場所で撮影がなされた[44]。実写映画版においてパラサイト「田宮良子」が主人公を「A」や「島田秀雄」と引き合わせる場となる水族館[注釈 22]のロケ地は神奈川県の横浜・八景島シーパラダイスであり、来園者がいない夜間の閉園時間中に慌ただしく撮影された[22]。パラサイトに与する政治家・広川が選挙演説を行う場面は、兵庫県神戸市に所在するアイランドセンター駅にて撮影され、このために約300人のエキストラが集められた[50]。主人公が、母親を乗っ取ったパラサイト「A」との最後の戦いを繰り広げる場面は、大阪府の淀川にかかる阪急電鉄の橋梁下の河川敷であり、頻繁に頭上を電車が行き交う場所で撮影された[50]。
倉森と「田宮良子」の最期の舞台となる動物園[注釈 1]は、福岡県北九州市にある到津の森公園で撮影された[51][52]。動物園での撮影は閑静な裏門近くで行われたため、動物園らしい賑やかさを出すためのセットが飾り付けられたが、そのうち橋の上に描かれた動物の足跡は動物園の要望によってそのまま残された[52]。
広川率いるパラサイトネットワークの本拠地となり、SATとの銃撃戦の舞台となる東福山市役所は、外観を大阪府堺市の堺市役所[53][52]、会議室を滋賀県彦根市の夏川記念会館[43][52]で撮影された。いずれも看板や案内板を劇中の地名に書き換えたり[53]、無機質感を意図して内装を模様替えしたり[52]といった手が加えられている。
最大の敵となる「後藤」との決戦の舞台となるごみ焼却施設は、外観を三重県鈴鹿市の鈴鹿市清掃センター[53]、内部をCGで描くことを前提に、グリーンバックのセットで撮影された[54]。劇中では釣り下げられた大型の移動クレーンに飛び乗って戦う描写となっているが、このクレーンは愛知県名古屋市の処理場に所在するクレーンをモデルに[52]、スタッフが鉄やベニヤ板で制作した実物大のセットとなっている[53]。新一役と「後藤」役を演じる役者は転落防止のワイヤーで吊るされ、それぞれ右手を後ろ手に固定して片腕の状態を再現したり、モーションキャプチャー用のスーツや鍵爪状のブーツを着込んだりした状態で[注釈 23]、狭い足場で落ちそうになりながらの死闘を演じた[54]。クレーンに挟まっているごみは、古着、肥料、オガクズ、とろろ昆布を混ぜたもので、撮影現場は昆布臭かったという[52]。CGで描かれた背景は「とびきり格好良いごみ処理場」という要望が監督から出されており[52]、煉獄をモチーフに[33]、焼却中のごみが燃えさかる広大な施設として描かれている。
映画の最後で里美を人質に取った浦上と新一が対決する場面は、神奈川県横浜市のマンションの屋上で撮影された[55]。この場面は登場人物が屋上から転落する場面などの一部の例外を除き、敢えてグリーンバックのセットを使わず、役者が命綱をつけながら実際の屋上の縁で撮影するという方針が取られた[55]。登場人物が転落する場面は、スタジオ内の25メートルの高さのクレーンから役者がグリーンバックの背景を背にしてバンジージャンプする要領で撮影された[55]。
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注釈
- ^ a b 原作では「ひかり第一公園」という名称の公園という設定であったが、実写映画版では「東福山動物公園」[52]という名称の動物園に変更されている。
- ^ 原作では、パラサイトたちは物語冒頭において空から降ってくるという描写がされていたのに対し、実写映画版ではパラサイトが深海から浮上するという描写に変更されている[7]。「#設定」も参照。
- ^ 原作では、「A」を新一と引き合わせた高校教師のパラサイト「田宮良子」は間もなく学校を去って黒幕的な立場となり、また新一は蘇生した直後に母親の仇討ちのために旅立つが、実写映画版では「A」は行方をくらまし、「田宮良子」は学校に残って、ミギーとの融合で変化した新一の観察を継続する。
- ^ 物語途中で他の部員から里美をモデルにしているのではないかと勘ぐられて怒り、剥離剤をかけて一度台無しにしている。なおこの剥離剤はその後、「島田秀雄」が正体を現した際に里美によって投げつけられ、原作において裕子が投げつけた硫酸の瓶の役回りを担う。
- ^ 劇中では幾度もAppleのロゴマークが描写されている。
- ^ 原作では数学教師という設定であった。
- ^ これも母性をテーマとして強調することを意図した変更の一環であることが読み取れる[17]。
- ^ ただし原作では里美の自宅であったのに対し、実写映画版では「後藤」との対決の場でもあるごみ焼却施設に捨てられている寝具の上というロケーションに変更されている。
- ^ 原作では裕子から投げつけられるが、実写映画版では里美から投げつけられる。原作では硫酸[23]であったと言及されていた薬品は、同年のテレビアニメ版と同じく油彩剥離剤。
- ^ a b 原作では「A」が「田宮良子」の策略によって爆殺され、テレビアニメ版では原作の描写に沿って大型の酸素ボンベで爆殺される様子が描写されているが、実写映画版では「島田秀雄」が「田宮良子」から手製の火炎瓶を投げつけられて負傷する展開となっている。
- ^ 原作では「田村玲子」の殺害を決断するのは「草野」の独断とされ[28]、その後の広川も「田村玲子」と「草野」らの間に何が起こったのかを掴みかねている描写になっている[29]。
- ^ やや上質の仕立てという設定で作られており[30]、あまりに役者の体型に細かく合わせて作られた背広であったので、役を演じた北村は撮影が終わったらそのまま貰えるのかと思ったほどだったという[26]。
- ^ 原作では、山中に不法投棄された産業廃棄物の山の上であった。
- ^ この設定変更については、ある放射線科医師により「科学考証上、放射性物質が悪影響を及ぼす過程について、映画鑑賞者に根本的な誤解を与える」との指摘がある。「寄生獣 完結編」終盤の問題について(TwitLonger より抜粋)
- ^ 原作では「後藤」との戦いの詳細が描かれ、彼の率いる特殊部隊が与えたダメージが新一の最後の戦いでヒントになるという役割が与えられていた。
- ^ 劇中では「島田秀雄」によって惨殺される場面で、里美から名前を呼ばれる描写がある。
- ^ 公式ウェブサイトの人物紹介一覧には掲載されておらず、また映画プログラムでもこの女子生徒の名前が「裕子」であるという短い言及があるのみで[19]、登場人物としての紹介はされていない。
- ^ ただし、このように映像化権の獲得を経て映画化が発表されながらも、企画段階のまま立ち消えとなってしまうことは、ハリウッド映画ではよくあることである[37]。
- ^ 多くの場面はCGが用いられているものの、模型を用いた部分もある。例えば主人公とミギーが入浴する場面は、水没する部分をすべてCGで表現することは技術的に困難であるため、ミギーの下半分は模型、目玉や手などの上半分はCGを用いている[40]。また前編のクライマックスにおいて、主人公の母親を乗っ取った「A」と決着を付ける場面でミギーが変形した剣は、CGではなく模型が用いられている[40]。
- ^ これは日本においては映画業界よりも、ゲーム業界の方が資金力を持っており、日本の映画業界が持っていない技術や施設を保有しているためであるという[9]。
- ^ ただし具体的な説明はされず、それがパラサイトが人造生命体であることを意味するのか、宿主側に残った人間性がそのような行動に駆り立てるという意味なのか、あるいは「後藤」の的外れな推測に過ぎないのかといった答えは示されない。
- ^ なお原作では、「田宮良子」が主人公を「A」と引き合わせるのは喫茶店で、「島田秀雄」はまだ登場していないという描写となっており、水族館が登場するのは実写映画版独自の描写である。
- ^ セットでの撮影現場でモーションキャプチャーの収録を同時に行うのは、本作が日本映画では初の試みであるとしている[26]。
- ^ 『完結編』公開前夜に前編をテレビ放送用に再編集(PG12指定を受けたシーンに配慮など)し、後篇(完結編)の一部も加えたアナザーバージョンに相当する作品となっている。監督自らが新たに書き下ろして物語の再構築を行い、ミギーによる回想の形式で描かれた内容になっている。特別版の制作にあたっては、阿部サダヲが新たに「ミギーの心の声」を収録している。
出典
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