レーティッシュ鉄道ABe8/12 3501-3515形電車 概要

レーティッシュ鉄道ABe8/12 3501-3515形電車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/07 17:28 UTC 版)

概要

スイスの鉄道では、1990年代以降、低床式の客車や電車の導入により、バリアフリー化が推進されており、レーティッシュ鉄道でも1999年製のBDt 1751-1758形部分低床式制御客車の導入によって一部列車のバリアフリー化および終端駅での機関車付替作業の省略による効率化を図ってきたが、引続き近い将来代替が必要となる旧型の機材による運行が主体となっていた。そのため、2007年にはさらにバリアフリー化や冷房化などのサービス向上と運行の効率化を図り、旧型の機材を代替するための4ステップからなる長期計画が以下の通り策定されている。

レーティッシュ鉄道2007年機材近代化計画
ステップ 機種 導入数 予定運行区間 予算額 備考
第1ステップ 交直流電車 3両15編成 ベルニナ線、クール・アローザ線、ラントクアルト - ダヴォス 約150百万スイス・フラン 2010年運行開始予定
第2ステップ 交流電車 4両5編成 クール近郊区間 約50百万スイス・フラン 2007年末までに最終決定[註 1]
第3ステップ 客車 5両7編成 クール - サンモリッツ 約80百万スイス・フラン 2008-09年に導入の最終意思決定[註 2]
第4ステップ 交流電車 5両10編成 ディセンティス/ミュスター - シュクオール・タラスプ - 導入については後日決定[註 3]

本形式はこの計画の第1ステップ用の機材として計画されたもので、スイスのシュタッドラー[1]ボンバルディア・トランスポーテーションによる提案を受け、結果前者に発注がされた機体であり、194753年製で本線系統用のGe4/4I電気機関車および1964 - 72年製でベルニナ線用のABe4/4 41-49形電車を代替できる、電化方式AC 11 kV・16 2/3 Hzの本線系統とDC 1000 Vのベルニナ線の双方で使用可能な交直流電車である。なお、本形式は片運転台式の電車であるABe4/4 351形電車と中間客車のBi 356形部分低床式客車、同じく片運転台電車のABe4/4 350形電車[2]からなる3両固定編成を総称してABe 8/12 3501-3515形としたものである。

本形式の設計は、スイスのシュタッドラー[1]1997年から製造している、走行機器を集中搭載した4輪単車の動力車に1車体片側1台車で片持ち式の部分低床式客車を組み合わせたGTW[3]シリーズや、2004年から製造している都市近郊列車用で、両先頭車の先頭部に走行機器を集中搭載した連接式部分低床式電車であるFLIRT[4]シリーズといったモジュラー式構造の電車をベースとしているが、本形式はこれらの機体とは異なり、固定編成の電車列車で客車列車を代替するものではなく、従来の機関車兼用電車と同様に長編成の客車列車を牽引する運用を想定した設計となっているのが特徴で、可変電圧可変周波数制御により、本線用のGe4/4III[5]電気機関車に匹敵する2600 kWの定格出力、260 kNの牽引力と100 km/hの最高速度の性能を持ち、35 で245 tを牽引可能な性能を持つ強力機であるとともに、低床部の床面高さをレール面上480 mmとしたバリアフリー対応の機体でもある。車体と機械部分の製造および最終組立をシュタッドラーが、主要な電機品の製造をABB Schweiz[6]が担当している。

なお、本機は2007年長期計画の第2ステップで導入されるクールおよびラントクアルト近郊用の電車であるABe4/16 3101-3105形とともにレーティッシュ鉄道沿線で使用されているロマンシュ語で「こんにちは」「ようこそ」などを意味する「アレグラ」(Allegra)の名称がつけられており、レーティッシュ鉄道内では本形式をALLEGRA-Zweispannungstriebzüge (ZTZ)、ABe4/16形をALLEGRA-Stammnetztriebzüge (STZ)として区分している。姉妹鉄道である日本の小田急箱根でも、2014年登場の3000形に「アレグラ号」の愛称を付与している。

各機体の編成番号と各車の機番、発注年、製造(予定)年、機体名(グラウビュンデン州に縁のある人名)は以下の通り

  • ABe8/12 3501 - ABe4/4 35101 + Bi 35601 + ABe4/4 35001 - 2007年 - 2009年10月14日 - Willem Jan Holsboer[7]
  • ABe8/12 3502 - ABe4/4 35102 + Bi 35602 + ABe4/4 35002 - 2007年 - 2009年11月6日 - Friedrich Hennings[8]
  • ABe8/12 3503 - ABe4/4 35103 + Bi 35603 + ABe4/4 35003 - 2007年 - 2010年3月19日 - Carlo Janka[9]
  • ABe8/12 3504 - ABe4/4 35104 + Bi 35604 + ABe4/4 35004 - 2007年 - 2010年4月1日 - Dario Cologna[10]
  • ABe8/12 3505 - ABe4/4 35105 + Bi 35605 + ABe4/4 35005 - 2007年 - 2010年4月16日 - Giovanni Segantini[11]
  • ABe8/12 3506 - ABe4/4 35106 + Bi 35606 + ABe4/4 35006 - 2007年 - 2010年7月1日 - Anna von Planta
  • ABe8/12 3507 - ABe4/4 35107 + Bi 35607 + ABe4/4 35007 - 2007年 - 2010年8月1日 - Benedetg Fontana[12]
  • ABe8/12 3508 - ABe4/4 35108 + Bi 35608 + ABe4/4 35008 - 2007年 - 2010年9月9日 - Richard Coray[13]
  • ABe8/12 3509 - ABe4/4 35109 + Bi 35609 + ABe4/4 35009 - 2007年 - 2010年11月9日 - Placidus Spescha[14]
  • ABe8/12 3510 - ABe4/4 35110 + Bi 35610 + ABe4/4 35010 - 2007年 - 2010年11月12日 - Alberto Giacometti[15]
  • ABe8/12 3511 - ABe4/4 35111 + Bi 35611 + ABe4/4 35011 - 2007年 - 2010年12月9日 - Otto Barblan[16]
  • ABe8/12 3512 - ABe4/4 35112 + Bi 35612 + ABe4/4 35012 - 2007年 - 2011年1月6日 - Jörg Jenatschr[17]
  • ABe8/12 3513 - ABe4/4 35113 + Bi 35613 + ABe4/4 35013 - 2007年 - 2011年1月27日 - Simeon Bavier[18]
  • ABe8/12 3514 - ABe4/4 35114 + Bi 35614 + ABe4/4 35014 - 2007年 - 2011年3月3日 - Steivan Brunies[19]
  • ABe8/12 3515 - ABe4/4 35115 + Bi 35615 + ABe4/4 35015 - 2007年 - 2011年3月31日 - Alois Carigiet[20]

  1. ^ ABe4/16 3101-3105形として2013年から運行開始、シュタッドラー・レール製
  2. ^ レーティッシュ鉄道ABi 5701-5706形客車として当初予定の5両編成から展望車・制御客車付の7両編成とした6編成が2016年より順次運行開始。シュタッドラー・レール製
  3. ^ エンガディン線用の機体も含めたABe4/16 3111-3146形4両36編成を2019年以降に導入することを2015年に決定
  1. ^ a b Stadler Rail AG, Bussnang
  2. ^ レーティッシュ鉄道では2007年11月1日より新しい5桁からなる機番体系に移行しており、本機も当初計画時はABe4/4 861-875形、Bi 2811-2825形、ABe4/4 811-825形であった
  3. ^ Gelenktriebwagen
  4. ^ Flinker Leichter Innovativer Regional-Triebzug、軽量高速で革新的な近郊用電車の意
  5. ^ 1時間定格出力3200 kW、最大牽引力200 kN。35パーミルの坂・300 tを60 km/hで牽引可能
  6. ^ ABB Schweiz AG, Baden、ABBグループにおけるスイス国内会社の一つ
  7. ^ レーティッシュ鉄道の創始者
  8. ^ 建築家、アルブラ線建設時の設計責任者
  9. ^ グラウビュンデン州出身のアルペンスキー選手
  10. ^ グラウビュンデン州出身のクロスカントリースキー選手
  11. ^ グラウビュンデン州で活動した画家
  12. ^ 1400年代のグラウビュンデン州の英雄
  13. ^ グラウビュンデン州出身の土木建設家、レーティッシュ鉄道の橋も手掛ける
  14. ^ グラウビュンデン州トゥルン出身のベネディクト会修道士でアルプス探検家
  15. ^ グラウビュンデン州出身の彫刻家
  16. ^ グラウビュンデン州シャンフ出身の作曲家オルガニスト
  17. ^ グラウビュンデン州サメダン出身の政治指導者
  18. ^ グラウビュンデン州クール出身の政治家、連邦参事会の一員
  19. ^ グラウビュンデン州出身で、スイス唯一の国立公園であるグラウビュンデン州のスイス国立公園の設立提唱者
  20. ^ グラウビュンデン州トゥルン出身で絵本画家として知られる画家、グラッフィックデザイナー
  21. ^ design & technik AG, Altenrhein、FFA(Flug- und Fahrzeugwerke Altenrhein)やSWP(Schindler Waggonfablik)の流れを汲んでおり、鉄道車両の車体および内装のデザインおよび設計、製造を行う
  22. ^ Ruf Informatik AG, Ruf Telematik AG, Ruf Multimedia AG, Ruf Services AG, W&W Informatik AG, Ruf Diffusion SAで構成される鉄道情報システムメーカー
  23. ^ レーティッシュ鉄道では古くから暖房用電源はAC 300 Vを使用していたが、長編成化などによる使用電力増に対応するため、これを順次AC 1000 Vとするよう機材の改造を進めている
  24. ^ Hasler Rail AG, Bern
  25. ^ なお、それまでの最高記録はベルン-ソロトゥルン地域交通(RBS)のRABe4/12 21-26形(通称NExT)が2009年7月1日に記録した134 km/hである
  26. ^ RegioExpress、ドイツではレギオナルエクスプレス
  27. ^ Einheitswagen II






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