リス 語源

リス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/06 04:24 UTC 版)

語源

日本語の「リス」という名前は、漢語の「栗鼠」(りっそ、りっす)が転じたものである[9]。木鼠(きねずみ)、栗鼠(くりねずみ)ともいわれる。

英語のsquirrelは、ラテン語のsciurus(尻尾を日傘のようにするという意味)、古代ギリシャ語のskiouros(影の尾、つまり自分の尻尾の影に座るものを意味する)に由来する[35][36]。ラテン語のsciurusは、リス属の学名(Sciurus)になっているほか、多くのリスの学名をつける際に使用されている。

日本のリス

ニホンリス(2006年11月撮影)
シマリス(滋賀県東近江市御池岳にて)

日本に棲むリス類としては、樹上性リス2属3種4亜種(うち、2亜種は外来種)、滑空性リス(モモンガ属、ムササビ属)の2属3種5亜種(すべて在来種)、地上性リス(シマリス属)1属1種2亜種(うち、1亜種は外来種)の計5属7種11亜種が挙げられ、移入種を除けば4属6種8亜種となる。

リス亜科では、北海道エゾリスエゾシマリスが、本州九州四国にはニホンリス(ホンドリス)が生息している。ただし、ニホンリスの九州での生息は、最近は確認されていない。

これらの在来種のほか、タイワンリスやチョウセンシマリス(Tamias sibiricus uthensis)、キタリスが移入し、ニホンリスやヤマネのような在来種に対する圧迫が心配されている。伊豆大島ではタイワンリスによる食害が深刻化している。

エゾリスはユーラシア北部に広く分布するキタリスの亜種、タイワンリスはアジア南東部から東部に分布するクリハラリスの亜種、エゾシマリスとチョウセンシマリスはアジア東部から東北部にかけて分布するシマリス(シベリアシマリス、アジアシマリスとも)の亜種である。

滑空性のリスでは、本州、四国、九州にムササビ(ホオジロムササビ)とホンドモモンガ(ニホンモモンガ)、北海道にエゾモモンガが生息する。エゾモモンガは、ヨーロッパ北部からシベリア、中国北部まで広く分布するタイリクモモンガの亜種である。ムササビはキュウシュウムササビ、ワカヤマムササビ、ニッコウムササビの3亜種に細分することもある。

これらのうち、ニホンリス、ムササビ、ニホンモモンガの3種は日本固有種である。

人間との関係

毛皮

キタリスの毛皮はヨーロッパで広く用いられ、ロシアをはじめとして今日でも盛んに使用されている。

中世ヨーロッパでは、リスの毛皮が衣服の裏地に用いられた。中でもシベリア産のキタリスの毛皮が珍重され、腹部の白い毛を用いるヴェア(vair、ヴェールとも)は最高級品で、14世紀をピークに広くみられた。たとえば1枚のマントあたり数百頭といった規模で毛皮を使用するため、富や権力の象徴であり、身分に応じて毛皮の質や白と灰色の密度などが決められていた。ヴェアの文様をもとにしたヴェアという紋章も生まれている。ヴェアよりやや価値が劣るが、リスの背の灰色の毛皮を用いた「グリ」もあり、これらはアーミン黒貂と並んで最高級の毛皮であった[37]

食用

アメリカ合衆国のいくつかの地域では、近年までリスの肉は食肉としてとらえられ、好まれていた。非常に多くのレシピにリスの肉の調理について記されていることがその証拠となる。主婦イルマ・ロンバウアー(Irma S. Rombauer)が1930年代に著した料理本『料理の喜び (The Joy of Cooking)』 の初版においてもリスの肉の調理法が記されていた。レシピによるとリスの肉はウサギの肉や鶏肉よりも柔らかいものの、それらの代わりとして利用できる。リスの肉には野生動物の肉らしい臭みはわずかしかない。

アメリカの多くの地域、特にアメリカ南部では現在でもリスは食用として狩猟の対象となる。

また、一般的とは言えないが、イギリスでもリス肉が食されている。特に、北米原産のハイイロリスはイギリス在来種のアカリスを圧迫しており、その駆除のためにという大義名分もあって、狩猟肉専門の肉屋や一部のレストランで取り扱われるようになっている[38]

現在は禁止されているが、日本でもアイヌ民族がシマリスを食用として狩猟していた。

リスをめぐる逸話

古代ローマ博物学者プリニウスによると、リスは嵐がくるのを予知する能力があり、嵐の風上側に巣穴の入り口がある場合は前もってふさぎ、新たに風下側に入り口を作るという。なお、プリニウスは、ハリネズミについても「この動物は自分たちのねぐらに引っ込むことによって、北風が南風に変わることを予言する」と記している。

ペットとしてのリス

日本では昭和40年ごろからシマリスに人気が出始めた[9]。ニホンリスやキタリスなどの日本に生息しているリスは鳥獣保護法により捕獲が禁止されているため、外国から輸入されたリスが販売されている。2005年からは、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第56条の2として「動物の輸入届出制度」が規定された[39]ことで、プレーリードッグが輸入禁止になるなど、齧歯類の輸入規制が始まった。現在業者が輸入販売できるのは、シマリスとジリスのみとされている。2010年の輸入元国別の輸入届出頭数は、中国12,908、アメリカ1,602、オランダ930となっている[40]。また鎌倉近辺に生息しているタイワンリスは特定外来生物として駆除の対象になっており、ペットとして飼うことも禁止となった。飼育下での寿命は、シマリス6 - 7年[9]、ジリス10 - 12年、プレーリードッグ8 - 10年程度である[41]

芸術

リスは葡萄との組み合わせで多幸・多産を象徴する吉祥として扱われており、16世紀ごろから中国で陶器漆器の題材として流行するようになった。その影響を受けた日本でも、葡萄とリスの意匠が取り入れられるようになった。さらに日本語では葡萄とリスは「武道に律する」という語呂合わせになることから、日本刀にも用いられるようになった[42][43]

リスのモチーフ


  1. ^ a b Richard W. Thorington, Jr. & Robert S. Hoffmann, “Family Sciuridae,” In: Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (eds.), Mammal Species of the World (3rd ed.), Volume 3, Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 754–818.
  2. ^ a b 川田伸一郎・岩佐真宏・福井大・新宅勇太・天野雅男・下稲葉さやか・樽創・姉崎智子・横畑泰志世界哺乳類標準和名目録」『哺乳類科学』第58巻 別冊、日本哺乳類学会、2018年、1–53頁。
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  38. ^ イギリスで、リス料理がじわじわ人気 All About 2008年12月17日
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