ユニコーン ユニコーンの概要

ユニコーン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/24 09:18 UTC 版)

ドメニコ・ザンピエーリ(1581 – 1641) 「処女と一角獣」 フレスコ画、1604 – 1605年、ファルネーゼ宮ローマ

形態

コンラート・ゲスナー(1516 – 1565) 『動物誌 第1巻 胎生の四足動物について』より、彩色木版画、1551年、チューリッヒ

ユニコーンは、そのほとんどが、ライオン牡ヤギ顎鬚、二つに割れた[2] を持ち、額の中央に螺旋状の筋の入った一本の長く鋭く尖ったまっすぐなをそびえ立たせた、紺色の目をした白いウマの姿で描かれた。また、ヤギヒツジシカに似た姿で描かれることもあった。角も、必ずしもまっすぐではなく、なだらかな曲線を描くこともあれば、弓なりになって後ろの方へ伸びていることもあり、の上に生えていることもあった。ユニコーンは、山のように大きいこともあれば、貴婦人の膝に乗るほど小さいこともあった。時には様々な動物の体肢を混合させてできた生き物であった。ユニコーンと水には医薬的、宗教的な関係があるため、魚の尾をつけて描かれることもあった。アジアでは時おり翼を生やしていることすらあった。体の毛色も白色、ツゲのような黄褐色、シカのような茶色と変わっていったが、最終的には、再び輝くばかりの白色となった。

中世ヨーロッパの『動物寓意譚』(ベスティアリ, Bestiary, 12世紀)の中で、モノセロスとユニコーンはしばしば同じものとして扱われるが、中にはそれぞれを別のものとして扱うものもある。その場合、モノセロスはたいがいユニコーンより大きく描かれ、角も大きく非常に長い。またモノセロスの挿絵には処女が一緒に描かれていない。

フランスの小説家のフローベール(1821 – 1880年)が『聖アントワーヌの誘惑』(La Tentation de saint Antoine, 1874年)第7章の中で一本の角を持つ美しい白馬としてユニコーンを登場させ、現在ではその姿が一般的なイメージとなっている。

生態

アルベルトゥス・マグヌス著、ヴァルテルム・リュフ訳 『動物について』(ドイツ語版)より、木版画、1545年、フランクフルト・アム・マイン
モレット・ダ・ブレシア 「一角獣を連れた聖ユスティナと寄贈者」 油彩画、1530 – 1534年頃、美術史博物館ウィーン

ユニコーンは極めて獰猛で、力強く、勇敢で、相手がゾウであろうと恐れずに向かっていくという。足が速く、その速さはウマシカにも勝る。角は長く鋭く尖っていて強靭であり、どんなものでも突き通すことができたという。例えば、セビリア教会博士聖イシドールス([560? – 636年)が著した『語源集』(Etymologiae, 622 – 623年)第12巻第2章第12 – 13節には、ユニコーンの強大な角の一突きはゾウを殺すことができるとある。このユニコーンとゾウが戦っている挿絵が『クイーン・メアリー詩篇集』(The Queen Mary Psalter, 1310 – 1320年頃、大英図書館蔵)に載っている[3]。また、ドイツのスコラ哲学者、自然科学者のアルベルトゥス・マグヌス(1193? – 1280年)は『動物について』(De animalibus, 年代不詳)第22巻第2部第1章第106節で、ユニコーンは角を岩で研いで鋭く尖らせて、戦闘に備えているという[4]大ポンペイウス(前106 – 48年)はユニコーンをローマに連れて来て見世物にさせたという[5]

ユニコーンの角には水を浄化し、毒を中和するという不思議な特性があるという。さらに痙攣やてんかんなどのあらゆる病気を治す力を持っているという。この角を求めて人々は危険を覚悟で、ユニコーンを捕らえようとした。グリム童話の『勇ましいちびの仕立て屋』(KHM 20)には、仕立屋が国を荒らすユニコーンを捕まえる場面が出てくる。仕立屋は、ユニコーンを激怒させると素早く樹の後ろに隠れた。そこへ怒り狂うユニコーンが仕立屋をめがけて突進して来るが、その武器である貴重な角をうっかり樹に突き刺してしまう。こうしてユニコーンは、縄で縛られ、王の所に連れて行かれた。エドマンド・スペンサー(1552? – 1599年)の『妖精の女王』(第1章5歌10連)に出て来るライオンも、この方法を使ってユニコーンを出し抜いている。

ユニコーンを捕らえるもう一つの方法は処女の娘を連れて来てユニコーンを誘惑させて捕まえるというものである。不思議なことにユニコーンは乙女に思いを寄せているという。美しく装った生粋の処女をユニコーンの棲む森や巣穴に連れて行き、一人にさせる。すると処女の香りを嗅ぎつけたユニコーンが処女に魅せられ、自分の獰猛さを忘れて、近づいて来る。そして、その処女の膝の上に頭を置き眠り込んでしまう。このように麻痺したユニコーンは近くに隠れていた狩人達によって身を守る術もなく捕まるのである。しかし、もし自分と関わった処女が偽物であることがわかった場合は、激しく怒り狂い、自分を騙した女性を殺してしまうという。

処女を好むことから、ユニコーンは貞潔を表わすものとされ、さらにはイエス・キリスト聖処女マリアの胎内に宿ったことや、角を一本だけ有するユニコーンと「神のひとり子」 (unigentitus) とのアナロジーから、キリストにも譬えられた[6]。しかし一方で、「悪魔」などの象徴ともされ、七つの大罪の一つである「憤怒」の象徴にもなった。レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452 – 1519年)は『動物寓意譚』の中で「ユニコーンはその不節制さのために自制することを知らず、美しき処女への愛のために自分の獰猛さと狂暴さを忘れて乙女の膝の上に頭を乗せ、そうして狩人に捕らえられる」と言っている。ここではユニコーンは「不節制」(intemperanza)を象徴するものとされた[7]フランス文学者啓蒙思想家ヴォルテール(1694 – 1778年)は『バビロンの王女』(La Princesse de Babylone, 1768年)第3章の中で、ユニコーンを「この世で最も美しい、最も誇り高い、最も恐ろしい、最も優しい動物」(C'est le plus bel animal, le plus fier, le plus terrible et le plus doux qui orne la terre)として描いている。


  1. ^ ギリシア語 Μονόκερως = μόνος 「一つ」+ κέρας 「角」
  2. ^ 偶蹄目の蹄。よく「割れている」と誤解されるがそうではなく、ヒトで言えば中指と薬指に相当する。
  3. ^ ゾウと戦うユニコーン。『クイーン・メアリー詩篇集』(The Queen Mary Psalter)第100葉裏より、1310 – 1320年頃、大英図書館蔵。
  4. ^ プリニウスの『博物誌』(Naturalis historia)第8巻第29(20)章第71節アエリアヌスの『動物の特性について』(Περὶ Ζῴων Ἰδιότητος)第17巻第44章 では、サイゾウとの戦いに備え、角を岩で研ぐとある。
  5. ^ アルベルトゥス・マグヌス 『動物について』(De animalibus)第22巻第2部第1章第106節「ユニコーンについて」 より。
  6. ^ 尾形希和子 『教会の怪物たち』 講談社〈講談社メチエ〉、2013年、90頁。
  7. ^ レオナルド・ダ・ヴィンチ一角獣をつれた貴婦人」 1470年代、ペン画、アシュモレアン博物館、オックスフォード
  8. ^ Odell Shepard, The Lore of the Unicorn, London: Merchant Book Company Limited, 1996. シェパードは一角獣の方を unicorn、その武器である角の方を古いイタリア語の形式の alicorno (ポルトガル語では alicornio)に基づいて、alicorn と使い分けている。
  9. ^ ヴォルフラム・フォン・エッシェンバハ『パルチヴァール』(加倉井粛之、伊東泰治、馬場勝弥、小栗友一 訳) 郁文堂 1974年 ISBN 4-261-07118-5。改訂第5刷 1998年、256頁上・下、482-483詩節。
  10. ^ アストラガロスΆστραγάλους)とは、くるぶしの間にある距骨(ターロス、Talus)と呼ばれる動物の骨の部分で、古代ギリシア人やローマ人は、この骨をサイコロとして使っていた。
  11. ^ ここに出て来るヘラジカ(Alces)には、後肢の膝関節がなく、一度横たわると二度と起き上がれないと言う(カエサル『ガリア戦記』第6巻第27節)。これと似た話が プリニウスの『博物誌』第8巻第16(15)章第39節 にも見られる。そこにはアクリス(Achlis)というヘラジカに似た生き物が紹介されているが、後肢の関節を持たないことなどカエサルの言うヘラジカ(Alces)と内容が一致している。
  12. ^ 逸名作家『西洋中世奇譚集成 東方の驚異』(池上俊一訳)講談社学術文庫 2009 (ISBN 978-4-06-291951-7)、122頁。
  13. ^ 中世のラテン語訳聖書では h が付いたり付かなかったりする。
  14. ^ ノアの方舟に乗らないユニコーンたち。Tobias Stimmer, Neue künstliche Figuren Biblischer Historien, Basel 1576 の中の木版画。ユニコーンのつがいが、ノアの方舟に乗り込むことを拒否している。
  15. ^ バールラームとヨサファートの物語は、中世ヨーロッパにおいて、沢山の異本が知られており、6世紀のビザンチンに起源を持つという。さらに、いくつかの物語は、仏陀の生涯にかなり類似しているという。
  16. ^ The Worshipful Society of Apothecaries of London






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