シジミチョウ科 シジミチョウ科の概要

シジミチョウ科

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/24 13:16 UTC 版)

シジミチョウ科
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: 鱗翅目(チョウ目) Lepidoptera
階級なし : 有吻類 Glossata
階級なし : 異脈類 Heteroneura
階級なし : 二門類 Ditrysia
上科 : アゲハチョウ上科 Papilionoidea
: シジミチョウ科 Lycaenidae
学名
Lycaenidae Leach, 1815[1]
タイプ属
ベニシジミ属[2]
Lycaena Fabricius, 1807[1]
和名
シジミチョウ科[2]
亜科

本文参照

形態は多様だが、いっぱんに成虫は小型で、幼虫ワラジムシ型の種が多い。アリと関係の深い分類群としても知られる。本科の分類にかんしては議論があり、シジミタテハ科 Riodinidae亜科として含む分類体系などがあるが、本項では基本的にシジミタテハ科を含めない(狭義の)シジミチョウ科を扱う。

分布と多様性

世界からおよそ 5200が知られる[4][注釈 1]南極大陸以外のすべての大陸ニュージーランド、および小笠原諸島ハワイ諸島タヒチなどのいくつかの海洋島に分布する[7]。種多様性は熱帯で高い[7][8]生物地理区別に見ると、種多様性がもっとも高いのは東洋区で、次いでエチオピア区で高い[7]新熱帯区にも多数の種が分布するが[8]旧世界と比べ、分類群(ここではおよび)に大きな偏りが見られる。新熱帯区を多様性の中心とするシジミタテハ科とは対照的な分布パターンを示すことから、両科の起源と分散の過程が異なる可能性が示唆されている[7]

DeVries (1991) による、本科とシジミチョウ科の地域別の種多様性の推定[注釈 2]
科 和名 オーストラリア区 アジア
東南南アジア[9]
旧北区 アフリカ
マダガスカルを含む[9]
北米 新熱帯区
シジミチョウ科 420 1200 >95 1300 >100 1100
シジミタテハ科 21 32 10 13 20 1200

日本に分布する種

日本にはヒメシジミ亜科 39種、ミドリシジミ亜科 36種、ベニシジミ亜科、アシナガシジミ亜科、ウラギンシジミ亜科がそれぞれ 1種ずつ分布するとされる[10][注釈 3]。一部の種は環境省によって絶滅危惧種に指定されており、そのうちオガサワラシジミ Celastrina ogasawaraensis は2021年時点で絶滅状態にある可能性が高いとされている[11]

形態

成虫はいっぱんに小型のチョウであり、前翅開帳が最小で 6-7 mmになる Brephidium exilisMicropsyche ariana といった、世界最小とされる種も含まれる[12]。後翅には尾状突起を有する種が多く[13]、特にミドリシジミ亜科で多く見られる。この尾状突起は捕食者の攻撃から身を守るために役立っていると考えられており、特に、捕食者からの攻撃をそらせるための「偽の頭部(false head)」として機能しているという仮説がよく知られているが[14][15]、尾状突起の形状は多様であり、また、被食回避効果を実際に検証・評価した研究はすくない[15]。翅の斑紋には性的二型が見られる種が多い[16]

本科の形態は多様であり、形態的特徴から厳密に定義づけるのはむずかしいとされている[17][18][19]。たとえば、本科においては多数の成虫の前脚跗節退化することが知られているが、これは科内で普遍的に見られる特徴ではなく、雄の前脚が退化しない属も多い[20]。シジミタテハ科を含む(広義の)本科の成虫は、触角の基部と密接した複眼が部分的に凹むことによって定義づけることができるとされる[18]

幼虫は後述する一部の下位分類群を除き、いっぱんにワラジムシのような形態(onisciform)を示し[19][21]、発達した前胸の下に頭部をひっこめて隠すことのできるものが多いが[21][22][23]、幼虫期が未知の種も多い[21]

本科の形態
Pseudolycaena damo, メキシコ. 本種の尾状突起は「偽の頭部」として機能している可能性が高い[15]
Lycaeides melissa samuelis の老齢幼虫(下面), アメリカ

注釈

  1. ^ シジミタテハ科を亜科として含む場合、本科の種数は6000種を超え、チョウ全体の三分の一を占める[5][6]
  2. ^ 1991年時点の推定であり、2022年現在の種数とは異なる。また、ELIOT (1973) とは異なり、もっとも種多様性が高い地域はアフリカであるとしている。
  3. ^ 亜科については#分類節を参照。
  4. ^ Dupont et al. (2016) はアリノスシジミ幼虫の体表に特殊化した PCOs が存在する可能性を示している[29]
  5. ^ 同翅類排泄する甘露honeydew)と同一視されることも多いが、こちらは分泌物であることから、Pierce et al. (2002) は両者を区別している[34]
  6. ^ a b c d キマダラルリツバメ族[70]Aphnaeini の分類学的地位にかんしては議論が多い。ELIOT (1973) は本族をミドリシジミ亜科に含めたものの、亜科内における本族の系統的地位の決定が困難であることを示している[69][71]。本族の系統的地位が他の族とは異なる可能性は生物系統地理学的研究[72]分子系統学的研究からも示唆されており[9][51][69]、したがって、本族を亜科に格上げし、亜科 Aphnaeinae として扱う研究者も多い[50][69]
  7. ^ a b c 亜科和名は特記のない限り、Shiraiwa (1996-2021) を参照した。また、和名は併記しないものとした。
  8. ^ 以下の下位分類群は一部を除いて省略した。シジミタテハ科の下位分類についての詳細は シジミタテハ科 および species:Riodinidae を参照。

出典

  1. ^ a b ELIOT 1973, p. 422.
  2. ^ a b 日本産蝶類和名学名便覧 2010-2013a.
  3. ^ 高野 1907, pp. 218–220.
  4. ^ van Nieukerken et al. 2011.
  5. ^ New 1993, pp. 1–4.
  6. ^ Pierce et al. 2002, p. 734.
  7. ^ a b c d ELIOT 1973, pp. 457–465.
  8. ^ a b DeVries 1991.
  9. ^ a b c d Espeland et al. 2015.
  10. ^ 猪又 & 松本 2006, p. 138.
  11. ^ 苅部 (2020-2021).
  12. ^ a b New 1993, p. 1.
  13. ^ New 1993, p. 8.
  14. ^ ELIOT 1973, pp. 398–399.
  15. ^ a b c Novelo Galicia, Luis Martínez & Cordero 2019.
  16. ^ a b New 1993, p. 7.
  17. ^ ELIOT 1973, pp. 375–381.
  18. ^ a b DE JONG, VANE-WRIGHT & ACKERY 1996.
  19. ^ a b c Shiraiwa (1996-2021).
  20. ^ ELIOT 1973, pp. 394–396.
  21. ^ a b c ELIOT 1973, pp. 409–414.
  22. ^ Pierce et al. 2002, pp. 737–738.
  23. ^ a b c d e f g h i j k l JERATTHITIKUL et al. 2013.
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  25. ^ New 1993.
  26. ^ Pierce et al. 2002.
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  31. ^ a b c d e f g h Pierce et al. 2002, pp. 734–737.
  32. ^ a b 寺山 & 丸山 2007, pp. 10–11, 20–26.
  33. ^ Pierce et al. 2002, p. 753.
  34. ^ a b c d e f Pierce et al. 2002, pp. 737–739.
  35. ^ Pierce et al. 2002, pp. 743–744.
  36. ^ Pierce et al. 2002, pp. 737–739, 743.
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  38. ^ Pierce et al. 2002, p. 737.
  39. ^ New 1993, pp. 5–7.
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  53. ^ a b c 森下 1978.
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  59. ^ ELIOT 1973, p. 426.
  60. ^ ELIOT 1973, pp. 426, 457–465.
  61. ^ a b c d Pierce et al. 2002, pp. 754–755.
  62. ^ ELIOT 1973, p. 428.
  63. ^ a b c d ELIOT 1990.
  64. ^ a b New 1993, p. 1-4.
  65. ^ ELIOT 1973, pp. 428–429, 457–465.
  66. ^ ELIOT 1973, pp. 441, 457–465.
  67. ^ Pierce et al. 2002, pp. 734–737, 754–755.
  68. ^ ELIOT 1973, pp. 441–442, 457–465.
  69. ^ a b c d BOYLE et al. 2015.
  70. ^ 日本産蝶類和名学名便覧 2010-2013b.
  71. ^ ELIOT 1973, p. 470, footnote.11.
  72. ^ Pierce et al. 2002, pp. 758–759.
  73. ^ New 1993, pp. 8–9.
  74. ^ a b Pierce et al. 2002, pp. 753–754.
  75. ^ New 1993, pp. 9–19.
  76. ^ CABI 2021.
  77. ^ Abbes et al. 2020.
  78. ^ 横浜植物防疫所 2010.
  79. ^ 沖縄県 2017.


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