グローバリゼーション 議論

グローバリゼーション

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/19 01:44 UTC 版)

議論

グローバリゼーションの進展については、肯定的に推進しようとする意見もある一方で、批判的意見もあり、さまざまな立場から撤廃しようとする意見が提示されている(反グローバリゼーション脱グローバリゼーション)。さまざまな分野においてその功罪につき議論されている。

考察

  • 経済学者のトマ・ピケティは「グローバル化そのものはいいことであり、経済が開放され一段の成長をもたらした。格差拡大を放置する最大のリスクは、多くの人々がグローバル化が自身のためにならないとして、極端なナショナリズムに向かってしまうことである」と指摘している[34]
  • 経営学者・経済学者の高巖は「グローバリゼーションに関して、『グローバリゼーションそのものが貧困問題を解決する』『グローバリゼーションによって貧困問題はより深刻化する』という2つの見解がある」と指摘している[35]
  • 経済学者のジョセフ・E・スティグリッツは、グローバリゼーションそれ自体は評価しつつ、そのプロセスは正しい政策の組み合わせ・順序を踏まえるべきとしている[36]
  • 経済学者ダニ・ロドリックは著書『グローバリゼーション・パラドクス』で、グローバル化の今後の選択肢として、「民主主義を犠牲にしてでもグローバル化を進める」「グローバル化を進めるとともに政治統合を推進させ、グローバル民主主義を実現させる」「各国の政策的自律性を保証し、国家レベルでも民主主義を維持する代わりに、グローバル化に一定の制限を加える」という3つの道があると指摘している[37]
  • 経済学者の竹中平蔵は「グローバル化の進展で起きることは、財政制度・金融制度などの制度の競争である。制度の均一化が起きてくることが、グローバリゼーションである」と指摘している[38]。また竹中は「グローバリゼーションという流れの中で、人の移動は活発となっているが、実際問題として普通の人が国境を越えて移動することは容易ではない。重要なのは、普通の人が国内でも所得価値を生み出せる仕組みをつくることである」と指摘している[39]
  • 国際政治学者サミュエル・P・ハンティントンは著書『文明の衝突』で、「世界がグローバル化していくと最終的にイデオロギーの対立はなくなるが、東西の対立(東洋の文明と西洋の文明の対立)が浮き彫りになってくる」と指摘していた[40]
  • 評論家の森永卓郎は「日本人が"グローバル化"と言う場合、それは誤いなく"アメリカ化"という意味である。アメリカが世界標準であると言う根拠はどこにもなく、当のアメリカだけが、自分たちのことを世界であると思い込んでいる」と指摘している[41]。また森永は「日本にとって本当のグローバル化とは、アメリカを相対化することであり、アメリカを追従せず、アメリカ化を拒絶することが本当の意味でのグローバル化である」と指摘している[42]

肯定的見解

  • 国際的分業(特化)が進展し、最適の国・場所において生産活動が行われるため、より効率的な、低コストでの生産が可能となり、物の価格が低下して社会が豊かになる(比較優位[要出典]ジャーナリストトーマス・フリードマンは著書『フラット化する世界』で、地球上に分散した人々が共同作業を始めインド・中国へ業務が委託され、個人・各地域が地球相手の競争力を得ている、あるいは貢献しているとしており、紛争回避にもつながっているとしている[43]
  • BRICsと呼ばれるブラジルロシアインド中国の4か国のように、グローバリゼーションの波に乗って工業や資源輸出などによって経済的に富を蓄えることで、長らく低開発状態だった国家が高い経済成長を示す例がある[44]ジェフリー・サックスは「グローバリゼーションは、貧困問題の解決に役立ってきた」と指摘している[35]。サックスは、富はゼロサムゲームのように誰かが大きな富を得たからといって貧しい者がより貧しくなるわけではなく、むしろグローバリゼーションが貧困解消の一助となっているとしている[45]。サックスは著書『貧困の終焉』で「グローバリゼーションが、インドの極貧人口を2億人、中国では3億人減らした。多国籍企業に搾取されるどころか、急速な経済成長を遂げた」と指摘している[43]
  • 投資活動においても、多くの選択肢からもっともよいものを選択することができ、各企業・個人のニーズに応じた効率的かつ高収益な投資が可能となる[46]
  • 全世界のさまざまな物資、人材、知識、技術が交換・流通されるため、科学や技術、文化などがより発展する可能性がある。また、各個人がそれを享受する可能性がある[要出典]
  • 各個人がより幅広い自由(居住場所、労働場所、職種などの決定や観光旅行、映画鑑賞などの娯楽活動に至るまで)を得る可能性がある[要出典]
  • 各国が経済的に密接に結びつくことによって、戦争が抑制される可能性があるという説がある。この説の起源は古く、1910年にはイギリスのラルフ・ノーマン・エンジェルが当時の貿易統合の高まりを見て、経済緊密化による戦争抑制を唱えた[47]ものの、その4年後の1914年には第一次世界大戦が勃発した。
  • 環境問題や不況貧困金融危機などの大きな経済上の問題、人権問題などの解決には国際的な取り組みが必要であり、これらに対する関心を高め、各国の協力、問題の解決を促す可能性がある[要出典]
  • 経済学者のタイラー・コーエンは著書『創造的破壊』で「グローバル化によって文化の多様性が失われる」という通説について、社会間の多様性は減少する可能性もあるが、個々の社会の中ではむしろ多様性は促進されるとしている[48]
  • 経済学者のポール・クルーグマンは主に覇権国家や多国籍企業の利益追求を肯定・促進する(新自由主義)ために広められるドグマの一種であるとしている[要出典]。ただし、クルーグマンはグローバリゼーションそのものに反対しているわけではない[49]

否定的見解

  • 安い輸入品の増加や多国籍企業の進出などで競争が激化すると、競争に負けた国内産業は衰退し、労働者の賃金の低下や失業がもたらされる。
  • 投機資金の短期間での流入・流出によって、為替市場や株式市場が混乱し、経済に悪影響を与える[50]。この危機は1990年代以降何度も発生しており、特に1997年に発生したアジア通貨危機は東アジアや東南アジア諸国に甚大な被害をもたらした[51]
  • 他国・他地域の企業の進出や、投資家による投資によって、国内・地域内で得られた利益が他地域・国外へと流出する。
  • 従来は特定地域に留まっていたテロリズムや武力紛争が活発化・全世界化し、各地域の安全が脅かされる[52]
  • 多国籍企業の進出や人的交流の活発化によって、生活と文化が世界規模で均質化し、地域固有の産業や文化が消滅する[53]
  • 地域間競争の活発化によって、投資・経済活動の巨大都市(世界都市)や一部国家への集中が進み、国家間・地域間における富の偏在が起きる[46]
  • 多国籍企業の影響力増大によって、各国の国家主権地方自治が破壊される[54]
  • 投資家やエリート官僚が政治を牛耳るようになり、各国・各地域の民主主義はグローバルな寡頭制に置き換えられる恐れがある[要出典]
  • 厳しい競争の中で企業を誘致したり国内産業を育成しようとするため、労働環境は悪化し、環境基準が緩められ、社会福祉が切り捨てられるようになる恐れがある(底辺への競争[55]
  • 富裕層にさらなる富の集中が起きる一方で中流層や貧困層の没落が起き、各国内で所得格差が激しくなる[56]

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