スペースX スターシールドとは? わかりやすく解説

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スペースX スターシールド

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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/01/12 13:14 UTC 版)

スペースX スターシールド(スペースエックス スターシールド、英語:Starshield)は、SpaceX社の事業部門であり、米国および同盟国政府に対し軍事宇宙機能を提供することを目的とした低軌道衛星(LEO)の製造と衛星通信サービスを提供する[1][2][3][4]。スターシールドはグローバル通信ネットワークであるスターリンクを改造したものとなるが、目標追跡、光学および無線偵察、早期ミサイル警戒などの追加機能を備えている[5][6][7][8]。主な顧客には宇宙開発局英語版(SDA)、国家偵察局(NRO)、米国宇宙軍などを抱える[5][9][10]。2025年現在、少なくとも183基のスターシールド衛星が打ち上げ済であり、最新の22基の衛星は米国家偵察局の機密ミッション「NROL-145」の一部として2025年4月20日にカリフォルニア州ヴァンデンバーグ宇宙軍基地からスペースX社のファルコン9で打ち上げられ軌道に投入された[11]

概要

スペースX社の社長COOであるグウィン・ショットウェル英語版は、スターシールドに関して開示できる情報は殆どないとしているが、このプログラムに関して諜報機関とスペースXの間で「非常に良好な協力関係」が築かれていると述べている[1]米国議会調査局は、スターシールドが参加する宇宙開発局プログラムの将来像では、迎撃ミサイル、極超音速弾、または指向性エネルギー兵器を搭載する可能性があると報告している[8]。また、同プログラムの創設者は[6]、「レーガン時代以降、技術革新が進んだことで宇宙空間にセンサーと発射装置の双方を配置することは比較的容易である」と付け加えている[7]。宇宙開発局のディレクターを務めるデレク・トゥルニア英語版によれば、今後の通信衛星は飛行中のミサイル間での通信を維持するという「極めて困難な」任務を担うことになるとしている[12]

2019年4月に行われたイーロン・マスク米空軍大将オショーネシーによる会談

アメリカ北方軍を率いた経験を持つ元米空軍大将であるテレンス・オショーネシー英語版は、スペースXの特別プログラムグループの副社長を務めていることからスターシールドに深く関与しているとされている[1]ウォールストリートジャーナル紙は、スターシールドのオンライン求人広告にはペンタゴンの総司令部におけるスターシールドの窓口を務める人物として最高機密のアクセス許可を持つ人物、および国防総省諜報機関などとの経験を持つ人物を求めていると報じた[1]。また、兵器製造に関しスターシールドの上級幹部8名が、宇宙配備型の迎撃機を見据えた量産型の極超音速攻撃兵器を開発するための防衛スタートアップ「カステリオン」を設立した[13][14][15]

最初の衛星は宇宙開発局向けに設計され、弾道ミサイルと極超音速ミサイルの探知・追跡を目的とした高度な赤外線センサーを搭載している[5]。スターシールドは2021年に米国政府と18億ドルの機密契約を締結し、2023年にその契約内容が明らかになった[1]。世界中の標的をリアルタイムで継続的に監視するための数百機のスパイ衛星を建造することを目標とし[9]、これらの衛星は2024年5月のミッション「NROL-146」を皮切りに運用を開始。なお、これらの衛星はノースロップ・グラマンとの協力で製造されている[16]

歴史

スターシールドという名称は2022年12月に公表されたが[17]、2021年には米国政府と18億ドルの機密契約を結んでおり、2023年に詳細が公表された[1]。スペースX社は、この契約による資金が2021年以降の収益の柱になるであろうと述べている[1]ロイターは2024年、この契約は国家偵察局とスペースXの間で締結され、数百の衛星が群れとなって機能する偵察衛星ネットワークに関するものであると報じている[9]。衛星には画像撮影機能が搭載され、この衛星ネットワークにより、米国政府は地球上のほぼどこでも継続的に監視が可能となる[9]。スターシールドは他国からの攻撃に対する堅牢性を持たせる計画である[9]。また、スターシールドの画像撮影機能は米国政府が運用する既存の偵察衛星よりも優れた解像度を持つよう設計されている。ノースロップ・グラマンがスペースXのパートナーに選ばれているが、関係者は「政府にとって、1人の人物が経営する1つの企業に全面的に投資しない方が利益になる」と指摘した[18]

2020年、既にスペースX社は国家偵察局(NRO)向けのスターリンク衛星バスの派生型衛星を設計し打ち上げている。

2020年10月、宇宙開発局はスペースX社との間で弾道ミサイルと極超音速ミサイルを探知・追跡するための衛星4機を開発する1億5,000万ドルのデュアルユース契約を締結した[5]。当初、一連の衛星は宇宙軍における国防宇宙アーキテクチャの一部となるため2022年9月に打ち上げられる予定であった[19]。打ち上げは複数回延期されたが、最終的に2023年4月に打ち上げられている[20][21]

2020年、スペースX社は退役した元空軍大将であるオショーネシーを雇用。いくつかの情報源によれば、オショーネシーはスターリンクの軍事衛星開発に関わっており、スペースX社の最高執行責任者に名を連ねている[22][23]。現役中、オショーネシーは米国上院軍事委員会上で、機械学習人工知能を組み込んだセンサーデータを迅速に収集し対応する階層化能力を提唱した[24]。2024年時点でオショーネシーはスターシールドで高位の役職に就いていると報じられており[1]、スペースX社はミサイル防衛システム「ゴールデンドーム英語版」の契約獲得を目指していると報じられている[25]

スペースX社はより大規模なトランシェ1構想の契約を獲得できず、ヨークスペース・システムズ、ロッキード・マーティン・スペース、ノースロップ・グラマン・スペースシステムズが契約を獲得した[26]

スターリンクがロシア・ウクライナ戦争で利用された際、戦場通信の専門家は、スターリンクの信号は狭く集束したビームを使用するため高軌道を通過する衛星よりも戦時中の敵による干渉や電波妨害を受けにくいと主張した[27]。致死性兵器の開発こそ無いものの、この技術は既に実戦で利用されており「同盟国が運用する衛星に統合されることにより、スターシールドネットワークへの組み込みを可能にする」ことができる[28]。したがって、軍がスターシールド計画を通じてスペースXの衛星を利用する必要が生じた場合、既に3,000基以上の衛星を低軌道に展開していることから、個々のユーザーへ信号を送信している状態にある[29]

2023年9月には、宇宙ミサイルシステムセンターの司令部通信に重点を置いたサービスを含むスターシールドの別の契約が発表された[30][31]。米宇宙軍とのこの契約は、軍向けにカスタマイズされた衛星通信を提供する計画である[32]。これは、宇宙軍の新しい低軌道衛星向けの「増殖する低軌道」プログラムに基づくもので、宇宙軍は今後10年間で最大9億ドル相当の契約を割り当てる予定である。16の企業が契約を競っているが、これまでに締結されたのはスペースX社のみである[30][32]。1年間のスターシールド契約は、2023年9月1日に締結[10]。この契約は、陸軍海軍、空軍、沿岸警備隊などを含む54のミッションパートナーを支援することが期待されている[10]

2024年2月、米国と中国共産党の戦略的競争に関する特別委員会英語版は、イーロン・マスクに書簡を送り、スターシールド計画は契約で「グローバルアクセス」が「おそらく」求められているにも関わらず、台湾に駐留する米軍へのアクセスが提供されていないため、契約違反の可能性があると述べた[33][34]。これに対し、スペースX社は米国政府との契約を完全に遵守していると回答した[35]

違法電波

NRPは2025年10月、スターシールド衛星群から地上へ向けたダウンリンクで未知の通信を送信し始めたと報じた。これは宇宙から地上へのデータ送信である[36]。当該のスペクトルと信号範囲は通常、国際標準によってアップリンク、つまり地上から宇宙へのデータ送信用に確保された周波数帯域であり、国際電気通信連合(ITU)の規約違反となり、他の衛星通信に障害を与えるリスクがある[36]。スターリンクの衛星群によるこの進行中のインシデントは、ブリティッシュコロンビア州の天文愛好家によって発見された[36]。この未知の信号はすべて2025 MHz - 2110 MHzの範囲にあると報告されている[36]

脚注

出典

  1. ^ a b c d e f g h FitzGerald, Micah Maidenberg and Drew. “Musk's SpaceX Forges Tighter Links With U.S. Spy and Military Agencies” (英語). The Wall Street Journal. オリジナルの2024年3月22日時点におけるアーカイブ。. https://archive.today/20240322172945/https://www.wsj.com/tech/musks-spacex-forges-tighter-links-with-u-s-spy-and-military-agencies-512399bd 2024年2月21日閲覧。 
  2. ^ Erwin, Sandra (2023年1月19日). “With Starshield, SpaceX readies for battle” (英語). SpaceNews. 2024年2月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年9月10日閲覧。
  3. ^ SpaceX - Starshield”. www.spacex.com. 2022年12月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年9月10日閲覧。
  4. ^ Sheetz, Michael (2022年12月5日). “SpaceX unveils 'Starshield,' a military variation of Starlink satellites” (英語). CNBC. 2023年9月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年9月21日閲覧。
  5. ^ a b c d Erwin, Sandra (2020年10月5日). “L3Harris, SpaceX win Space Development Agency contracts to build missile-warning satellites”. SpaceNews. 2021年6月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年12月1日閲覧。
  6. ^ a b Erwin, Sandra (2019年4月21日). “Space Development Agency a huge win for Griffin in his war against the status quo”. 2023年12月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年1月1日閲覧。
  7. ^ a b Freedberg, Sydney (2018年8月20日). “Space-Based Missile Defense Can Be Done: DoD R&D. Chief Griffin”. 2019年9月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年1月1日閲覧。
  8. ^ a b Hypersonic Missile Defense: Issues for Congress”. Congressional Research Service (2022年1月22日). 2022年5月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年6月21日閲覧。
  9. ^ a b c d e “Exclusive: Musk's SpaceX is building spy satellite network for US intelligence agency, sources say”. (2024年3月16日). https://www.reuters.com/technology/space/musks-spacex-is-building-spy-satellite-network-us-intelligence-agency-sources-2024-03-16 
  10. ^ a b c Porter, Jon (2023年9月28日). “SpaceX inks first Space Force deal for government-focused Starshield satellite network” (英語). The Verge. 2024年1月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月5日閲覧。
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  13. ^ The Pentagon Is Recruiting Elon Musk To Help Them Win a Nuclear War”. Your home for independent journalism (2025年2月11日). 2025年2月19日閲覧。
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  15. ^ “米新興カステリオン、1億ドル調達 極超音速兵器を開発へ”. ダイヤモンド・オンライン. (2025年1月30日). https://diamond.jp/articles/-/358363 
  16. ^ Berger, Eric (2024年4月18日). “SpaceX and Northrop are working on a constellation of spy satellites” (英語). Ars Technica. 2025年1月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年2月19日閲覧。
  17. ^ “SpaceX reveals 'Starshield' satellite project for national security use”. Space.com. (2022年12月6日). https://www.space.com/spacex-starshield-satellite-internet-military-starlink 
  18. ^ Joey Roulette, Marisa Taylor (2024年4月18日). “Exclusive: Northrop Grumman working with Musk's SpaceX on U.S. spy satellite system”. Reuters. 2024年4月18日閲覧。
  19. ^ Machi, Vivienne (2021年6月1日). “US Military Places a Bet on LEO for Space Security”. Space Development Agency. 2021年12月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年12月1日閲覧。  この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
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  22. ^ Elon Musk's SpaceX, Once a Washington Outsider, Courts Military Business”. The Wall Street Journal (2020年11月4日). 2021年12月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年12月1日閲覧。
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  26. ^ Space Development Agency Makes Awards for 126 Satellites to Build Tranche 1 Transport Laye” (英語). U.S. Department of Defense (2022年2月28日). 2023年8月23日閲覧。
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  28. ^ Musk, Elon (2024年12月10日). “Spacex-Starshield”. 2026年1月11日閲覧。
  29. ^ Marx, Paris (2023年2月3日). “Elon Musk Should Not Be In Charge of the Night Sky.”. pp. 1–2. https://time.com/6250118/elon-musk-should-not-be-in-charge-of-the-night-sky/ 
  30. ^ a b Erwin, Sandra (2023年10月3日). “SpaceX providing Starlink services to DoD under 'unique terms and conditions'” (英語). SpaceNews. 2023年12月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年2月25日閲覧。
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  33. ^ House China committee demands Elon Musk open SpaceX Starshield internet to U.S. troops in Taiwan” (英語). CNBC (2024年2月24日). 2024年2月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年2月25日閲覧。
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  35. ^ “SpaceX Refutes Claim It's Withholding Starshield in Taiwan” (英語). Bloomberg.com. (2024年2月26日). https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-02-26/spacex-refutes-claim-it-s-withholding-starshield-in-taiwan 2024年2月28日閲覧。 
  36. ^ a b c d Brumfiel, Geoff (2025年10月17日). “A classified network of SpaceX satellites is emitting a mysterious signal”. NPR. オリジナルの2025年10月17日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20251017091423/https://www.npr.org/2025/10/17/nx-s1-5575254/spacex-starshield-starlink-signal 

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