圧縮コイルばね
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/12/25 05:21 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動圧縮コイルばね(あっしゅくコイルばね、英語:helical compression spring)とは、圧縮の荷重を受けて用いられるコイルばねの一種である[1]。圧縮ばねと呼ばれることもある[2]。ばね部品の中でも最も広く使用され、多くの機械や器具で使用されている[3][4]。主に、圧縮方向の荷重を受け止める、圧縮させて反力を利用する、圧縮方向の衝撃や振動を緩和する、といった用途に使用される[5]。
円筒状のコイルばねが最も一般的だが、円錐状や樽形に巻いたものなど様々な種類がある[6]。軽荷重用の小型のものから重荷重用の大型のものまで、大きさも幅広い[7]。
コイル状にする素線自体には、主にねじりモーメントが加わり、素線がねじり変形を起こすことで、ばねが全体として伸び縮みする[8]。ばねが変形するときの単位体積当たりの弾性エネルギーは他のばね部品と比較して大きく、エネルギー吸収効率が高い[9][3]。そのため、取り付けに必要な空間は比較的小さいという長所もある[3]。
目次
基本形状と各部位の名称
標準的な圧縮コイルばねは、素線と呼ばれる棒状あるいは線状の材料を螺旋状に等間隔で巻くことで作られる[10]。圧縮コイルばねの各部位は以下のような名称で呼ばれている。
- 線径(d):素線の直径[11]。
- コイル内径(Di):コイルばね内側の直径[12]。
- コイル外径(De):コイルばね外側の直径[12]。
- コイル平均径(D):コイル内径とコイル外径の平均値((Di + De)/2)[12]。
- 平均コイル半径(R):コイル平均径の半分(D/2)[13]。
- 座巻:コイルばねの端面からばねとして作用しない部分までを指す[14]。「ざまき」とよぶ[15]。
- 総巻数(Nt):コイル全体の巻数[16]。
- 有効巻数(Na):総巻数の内、ばねとして作用する部分の巻数[17]。圧縮コイルばねの場合は総巻数から両端の座巻数を引いた数となることが多い[12]。
- 自由長さ(L0):無負荷時のコイルばねの長さ。特に圧縮コイルばねの場合は自由高さとも呼ぶ[12]。
- 密着長さ(Lc):荷重をかけてコイル同士を密着させたときのコイルばね長さ。特に圧縮コイルばねの場合は密着高さとも呼ぶ[12]。実際には密着にならない範囲で使用されるのが普通である[18]。
- ピッチ(p):一巻した隣のコイルとの距離[19]。
- ピッチ角(α):コイルの勾配を角度で表したもの[20]。
- 巻方向:コイルばねを巻く方向のことで、右巻と左巻がある[15]。
また、以下のような寸法比も設計上の目安となる。
種類
圧縮コイルばねの種類は多岐に渡る[22]。以下にそれらの分類を示す。これらの種類の組み合わせも存在するので、可能性のある種類は膨大な数となる[23]。しかし、全ての組み合わせが可能なわけでなく、設計的あるいは製造的に不可能な組み合わせもある[23]。
素線断面形状による分類
素線の断面形状はいくつかの種類があり、それによって次のように分類される[24]。
- 円形断面ばね:素線断面が円形のばね[25]。大きな短所がなく、最も広く使用されている[26]。
- 異形断面ばね:円形断面以外のばねの総称で、以下のような種類がある[27]。円形断面と比べると、いずれの種類も材料入手や製造が難しいという短所がある[28]。
荷重特性による分類
ばねの荷重とたわみの関係のことを荷重特性と呼ぶ[32]。荷重特性は、荷重とたわみの関係が直線でばね定数一定の線形と、それ以外の関係である非線形に分けられる[33]。荷重特性によって圧縮コイルばねは大まかに以下にように分けられる[23]。
- 線形特性:等線径、等ピッチの円筒コイルばね[23]。ただし、このようなばねでも、荷重とたわみが厳密に直線関係となることはない。たわみが密着長さに到達する前からいくつかの素線が接触しだし、見かけ上の有効巻数が減ってくる。これによって実際の圧縮コイルばねでは、たわみが大きくなるほどばね定数もやや大きくなっていく[34]。
- 非線形特性:以下のようなものが挙げられる。いずれも形状変化によってコイル同士の接触を偏らせて起こし、荷重増加に伴って有効巻数を変化させて非線形特性を得ている[35]。
全体形状による分類
コイルばねの全体的な形状で分類する場合は、以下のように分類がある[38]。
- 円筒コイルばね:最も一般的な形状で、円筒形状のもの[7]。製造し易さ、吸収エネルギー効率のバランスの良さなど、長所がある[36]。
- 円すいコイルばね:端から片端まで徐々にコイル径が小さくなっていく形状をした、円錐状のコイルばね[39]。コイル径が大きな側は大きくたわむので、先にこちらからコイルの接触が起こる。これによって荷重・たわみ線図が右肩上がりとなる特性を持つ[40]。
- たる形コイルばね:コイル径が不等で、ばねの両端付近のコイル径が小さくなっており、樽のような形をしたもの[41]。
- つづみ形コイルばね:コイル径が不等で、ばねの真ん中付近のコイル径が小さくなっており、鼓のような形をしたもの[42]。
- 異形コイルばね:上記以外のもの。以下のような種類がある[43]。
特性
ばね定数
円形断面・等ピッチの一般的な円筒コイルばねのばね定数は、次の簡略式で計算できる[44]。
自動車のサスペンション
自転車のサドル
自動循環式
チェアリフト
公園のスプリング遊具
寝具のマットレス
駅の車止め
橋の同調質量ダンパ
脚注
- ^ JIS B 0103 2015, p. 7.
- ^ JIS B 0103 2015, p. 2.
- ^ a b c d 渡辺・武田 1989, p. 11.
- ^ a b c 日本機械学会(編) 2005, p. 133.
- ^ 山田 2010, p. 32.
- ^ ばね技術研究会(編) 1998, pp. 8–9.
- ^ a b c 日本ばね学会(編) 2008, p. 171.
- ^ 村上 1994, pp. 73–74.
- ^ 日本ばね学会(編) 2008, pp. 2, 171.
- ^ 小玉 1985, p. 99.
- ^ 渡辺・武田 1989, p. 12.
- ^ a b c d e f JIS B 0103 2015, p. 19.
- ^ ばね技術研究会(編) 2001, p. 1.
- ^ 渡辺・武田 1989, p. 16.
- ^ a b JIS B 0103 2015, p. 20.
- ^ 小玉 1985, p. 108.
- ^ 渡辺・武田 1989, p. 17.
- ^ 山田 2010, p. 51.
- ^ 小玉 1985, p. 100.
- ^ a b 蒲 2008, p. 66.
- ^ 渡辺・武田 1989, p. 18.
- ^ 蒲 2008, p. 22.
- ^ a b c d ばね技術研究会(編) 1998, p. 7.
- ^ a b c 日本ばね学会(編) 2008, p. 175.
- ^ a b c JIS B 0103 2015, p. 8.
- ^ ばね技術研究会(編) 1998, p. 11.
- ^ ばね技術研究会(編) 1998, p. 9.
- ^ 蒲 2008, p. 24.
- ^ 小玉 1985, p. 125.
- ^ “卵型断面ばね”. 村田発條. 2016年9月24日閲覧。
- ^ 日本ばね学会(編) 2008, p. 176.
- ^ 日本ばね学会(編) 2008, p. 8.
- ^ 門田 2006, p. 166.
- ^ 山田 2010, p. 44.
- ^ a b 日本ばね学会(編) 2008, p. 173.
- ^ a b c ばね技術研究会(編) 1998, p. 8.
- ^ 小玉 1985, p. 121.
- ^ 日本ばね学会(編) 2008, pp. 171–172.
- ^ JIS B 0103 2015, pp. 7, 35.
- ^ ばね技術研究会(編) 2001, p. 12.
- ^ JIS B 0103 2015, pp. 7, 36.
- ^ ばね技術研究会(編) 2001, p. 14.
- ^ 日本ばね学会(編) 2008, p. 172.
- ^ 門田 2006, p. 174.
- ^ a b 渡辺・武田 1989, p. 13.
- ^ JIS B 2704-1 2009, p. 6.
- ^ 村上 1994, p. 128.
- ^ 日本ばね学会(編) & 2008 212.
- ^ 山田 2010, p. 59.
- ^ JIS B 2704-1 2009, p. 8.
- ^ ばね技術研究会(編) 1998, p. 13.
- ^ 蒲 2008, p. 126.
- ^ “第17回 懸架用ばね”. 日経テクノロジーオンライン. 日経BP (2010年1月25日). 2016年9月24日閲覧。
- ^ ばね技術研究会(編) 1998, p. 89.
- ^ 小玉 1985, p. 124.
参照文献
- 日本ばね学会(編)、2008、『ばね』第4版、 丸善出版 ISBN 978-4-621-07965-2
- ばね技術研究会(編)、1998、『ばねの種類と用途例』初版、 日刊工業新聞社〈ばね技術シリーズ〉 ISBN 4-526-04232-3
- ばね技術研究会(編)、2001、『ばねの設計と製造・信頼性』初版、 日刊工業新聞社〈ばね技術シリーズ〉 ISBN 4-526-04705-8
- 日本機械学会(編)、2005、『機械工学便覧 デザイン編 β4 機械要素・トライボロジー』初版、 丸善 ISBN 4-88898-129-9
- 日本工業標準調査会、2015、『JIS B 0103 ばね用語』
- 日本工業標準調査会、2009、『JIS B 2704-1 コイルばね-第1部:圧縮及び引張コイルばね基本計算方法』
- 渡辺彬・武田定彦、1989、『ばねの基礎(訂正版)』訂正1版、 パワー社〈基礎シリーズ(5)〉 ISBN 4-8277-1245-X
- 蒲久男、2008、『絵とき「ばね」基礎のきそ』初版、 日刊工業新聞社 ISBN 978-4-526-06112-7
- 門田和雄、2006、『絵とき「機械要素」基礎のきそ』初版、 日刊工業新聞社 ISBN 978-4-526-05655-0
- 小玉正雄、1985、『ばねのおはなし』第1版、 日本規格協会〈おはなし科学・技術シリーズ〉 ISBN 4-542-90109-2
- 村上敬宜、1994、『材料力学』第1版、 森北出版〈機械工学入門講座1〉 ISBN 4-627-60510-2
- 山田学、2010、『めっちゃ、メカメカ! 2 ばねの設計と計算の作法―はじめてのコイルばね設計』初版、 日刊工業新聞社 ISBN 978-4-526-06578-1
- Erik Oberg, Franklin Jones, Holbrook Horton, Henry Ryffel, Christopher McCauley (2012). Machinery's Handbook (29 ed.). Industrial Press. ISBN 978-0-8311-2900-2.
外部リンク
THE MAKING (58)ばね(自動車用)ができるまで - YouTube - 科学技術振興機構