NMR分光研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/19 14:45 UTC 版)
シクロオクタトリエンの脱水素化により生じたこの化合物を 1H NMR分光法を用いて調べていた際、彼らは同じメチレン架橋炭素に結合したプロトンに対応する共鳴が驚くほど違う化学シフトを示していることを観測した。 この観測結果から、Pettit et al. は古典的シクロオクタトリエニルカチオン構造は間違っていると結論づけた。そして、彼らはビシクロ[5.1.0]オクタジエニル化合物を提案し、八員環の内部に生じたシクロプロパン結合がそれなりの非局在化を受けているはずだと考えることで化学シフトの劇的な違いを理論的に説明した。さらなる考察の過程で、Pettit はむしろ、内部シクロプロパン結合を排して電子の非局在化のみをもつ、「ホモトロピリウムイオン」としてこの化合物を表現するようになった。この構造は非局在化が環状で、六つの π 電子を含むことによりヒュッケル則に合致している。よって、NMRの磁場により環状電流が誘起され、これによりメチレン基に結合しているexo位のプロトンとendo位のプロトンで共鳴に顕著な違いが現われる。Pettit et al. はこの化合物と芳香族であるトロピリウムイオンとの特筆すべき類似性を強調し、既知の芳香族に対するウィンスタインが予言した通りの新たな「ホモ相対物」としてこれを説明した。 後のウィンスタイン他のNMR研究により、ホモトロピリウムイオンとの金属カルボニル錯体の物性が探られ、モリブデン錯体と鉄錯体との比較により特に興味深い結果が得られた。モリブデントリカルボニルはトリトロピリウムカチオンに配位時に6つのπ電子を受けとり、ホモ芳香族性を保つと予測された。対照的に、鉄トリカルボニルは配位時に四つのπ電子しか受け取ることができず、錯体中でカチオン上の電子は局在化する。これらの錯体を 1H NMR分光により研究した結果、メチレンプロトンの化学シフト値はモリブデン錯体においてホモ芳香族構造と矛盾しないが鉄錯体においては二つのプロトンは同等でほとんど共鳴に差がないことが検出された。
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