ブラウワーの不動点定理とは? わかりやすく解説

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ブラウワーの不動点定理

(Brouwer fixed point theorem から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/02 15:39 UTC 版)

1886年、アンリ・ポアンカレ(写真)はブラウワーの不動点定理と同値な結果を証明した。その正確な証明は、三次元の場合は1904年にピアース・ボウル英語版によって行われ、一般の場合は1910年にジャック・アダマールライツェン・ブラウワーによって行われた。

ブラウワーの不動点定理(ブラウワーのふどうてんていり、: Brouwer's fixed-point theorem)は、位相幾何学における不動点定理で、ライツェン・ブラウワーの名にちなむ。この定理では、コンパクト凸集合からそれ自身への任意の連続函数 f に対して、f(x0) = x0 を満たす点 x0、すなわち不動点が存在することが述べられている。ブラウワーの定理の最も簡単な形式のものは、実数直線内の閉区間 I あるいは閉円板 D からそれ自身への連続函数 f に対するものである。後者に対するより一般のものは、ユークリッド空間の凸コンパクト部分集合 K からそれ自身への連続函数に対するものである。

不動点定理は数多く存在する[1]が、中でもブラウワーの不動点定理は数学の多くの分野をまたいで利用されるため、非常に有名である。元々の分野において、この結果はジョルダン曲線定理毛球の定理英語版およびボルサック=ウラムの定理英語版とともにユークリッド空間のトポロジーを特徴付ける重要な定理となっている[2]。このため、この定理は位相幾何学における基礎的な定理に位置付けられている[3]。この定理はまた、微分方程式の重要な結果を証明するために用いられ、微分幾何学の入門的なほとんどの課程において扱われている。この定理はまた、ゲーム理論のような分野でも用いられている。経済学において、ブラウワーの不動点定理とその拡張である角谷の不動点定理は、1950年代にノーベル経済学賞受賞者のケネス・アロージェラール・ドブルーによって示されたように、マーケット経済の一般均衡の存在の証明で中心的な役割を果たしている。 さらに数値解析の分野においては、非線型方程式の数値解に対する精度保証付き数値計算の基礎として利用される[4]

この定理ははじめ、アンリ・ポアンカレエミール・ピカールを中心とするフランスの数学者によって微分方程式の観点から研究されていた。ポアンカレ=ベンディクソンの定理のような結果を証明する上で、位相幾何学的な手法を利用することが求められていた。19世紀末においてこの研究は、いくつかの定理を証明するに至った。一般的な場合は1910年にジャック・アダマール[5]ライツェン・ブラウワー[6]によって証明された。

内容

この定理には、使用される文脈と一般化の程度に応じて、いくつかの異なるヴァージョンがある。最も簡単なものは次である:

平面における定理
円板からそれ自身へのすべての連続函数は少なくとも一つの不動点を持つ[7]

これは任意の有限次元空間に対して次のように一般化される:

ユークリッド空間における定理
ユークリッド空間閉球からそれ自身へのすべての連続函数は不動点を持つ[8]

より一般的な場合は次である[9]

コンパクト凸集合における定理
ユークリッド空間のコンパクト部分集合 K からそれ自身へのすべての連続函数は不動点を持つ[10]

より一般的な場合は、次のような異なる名前で知られている:

シャウダーの不動点定理
バナッハ空間のコンパクト凸部分集合 K からそれ自身へのすべての連続函数は不動点を持つ[11]

各条件の重要性

この定理は、コンパクト、すなわち「有界」かつ「閉」で、さらに「凸」である集合に対してのみ成立する。次の例は、これら三つの条件がなぜ重要なのかという点を示すものである。

有界性

R からそれ自身への連続函数

レトラクション F の図

背理法より、連続函数 f : Dn → Dn は不動点を持たないと仮定し、矛盾を示す。Dn 内の各 x に対して、仮定より f(x) と x は異なる値なので(f が不動点を持たないとは f(x) ≠ x を意味することに注意)、f(x) を端点として x を通る唯一つの半直線を引くことが出来る。この半直線に沿って、Sn − 1 上のある点が得られるので、これを F(x) とする(図を参照)。これは、レトラクションとして知られる特別なタイプの連続函数 F : Dn → Sn − 1 を定義する。すなわち、終域(この場合は Sn − 1)のすべての点がその函数の不動点となる。

直感的に、Sn − 1 の上への Dn のレトラクションはあり得ないように思われる。実際、n = 1 の場合は S 0(すなわち、閉区間 D 1 の終点)が連結ですらないため、これはあり得ない。また n = 2 の場合はこれほど明らかではないが、各々の空間の基本群を利用した基本的な議論で証明することが出来る:レトラクションは、S 1 の基本群から D 2 の基本群への単射群準同型を導くが、はじめの群は Z と同型である一方で二つ目の群は自明群であり、これはあり得ない。n = 2 の場合はまた、非消失ベクトル場に関する定理に基づき矛盾を示すことも出来る。

n > 2 の場合にレトラクションがあり得ないことを証明するのはさらに難しい。一つの方法として、ホモロジー群を利用する方法がある:ホモロジー Hn − 1(Dn) は自明であるが、Hn − 1(S n − 1) は無限巡回群である。このことにより、再びレトラクションが前者から後者への単射群準同型を導くため、矛盾となる。

一般化

ブラウワーの不動点定理は、多くのより一般的な不動点定理への出発点となるものである。

無限次元への直接的な一般化、すなわち、ユークリッド空間の代わりに任意のヒルベルト空間の単位球を用いるような一般化は上手くいかない。この場合の大きな問題は、無限次元ヒルベルト空間の単位球はコンパクトでないということである。例えば、実あるいは複素の二乗加可算列のヒルベルト空間 2 において、列 (xn) を ℓ2 の閉単位球から、次で定義される列 (yn) に写す写像 f : ℓ2 → ℓ2 を考える:




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