鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる
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冬 |
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評 言 |
先日、宮崎在住の畏友、中尾和夫氏から一冊の本が届いた。てっきり、ご自分の句集を恵贈されたのかなと思った。添付の書簡で、厳父、中尾良也先生の遺品の中の一冊とのこと。 「加藤楸邨句集 起伏 榛の木書房」 (限定五百部ノ内第六十五冊 頒價参百四拾圓 昭和二十四年七月二十五日発行) と奥付にある。 扉に、 「白菊のもはや昏れざるまで昏れぬ 楸邨」 楸邨の流麗な筆跡で一句、揮毫してある。和夫氏の言葉どおり、かなり粗雑な紙質の本であるが、終戦直後の当時としてはやむを得ない事情が窺える。精一杯の製本であろうと世相も伝わってくる。 その本に油紙で丁寧にカバーを付けてあり、背に「起伏」とペン字で書いてある。「天街」創刊時の大先達であり、当時はいちばんの若造であった僕にはそれこそ雲の上の存在であった良也師の、秘蔵のものであったことが知られる。 さて、掲出の一句は、楸邨の句の中で私の好きな句である。現役時、工業高校生相手に吊るし切りを解説し、ついでにあん肝がどんなに旨いかも付け加えたことも鮮やかに記憶している。大野林火氏や川﨑展宏氏が「ペーソスとユーモアの重なりを同時に感ずる」と評しておられるように、鮟鱇の姿に闘病中の自分の身を重ね、眼差しは暖かく鮟鱇を見ている。 「雉の眸のかうかうとして売られけり」の鋭い透徹した眼差しとはまた違った一面の句である。 私の書棚の一番上の棚に飾って、今後は愛読の書の一冊にさせてもらおうと思っている。 写真提供:「森井書店」 |
評 者 |
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備 考 |
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