飯高次元
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/27 18:16 UTC 版)
代数幾何学において、代数多様体 X 上の直線束 L の 飯高次元 (Iitaka dimension) とは、L によって決定される射影空間への有理写像の像の次元のことである。これは L の section ring
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複素多様体 M から W への m-多重種数写像は、ファイバー構造を引き起こす。 以下は、複素代数多様体で考える。
K を M 上の標準束とする。Km の正則切断 H0(M, Km) の次元を Pm(M) で表し、m-種数 (m-genus) と呼ぶ。
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m-多重写像は双有理不変量である。Pm(M) = Pm(W). 双有理写像
射影空間における双有理写像 ψ: Wm1 → Wm2 の存在 飯高は、n 次元コンパクト複素多様体 M で小平次元 κ(M) が 1 ≤ κ(M) ≤ n − 1 を満たす場合、十分に大きな m1 と m2 が存在して、 と が双有理同値となることを示した。このことは双有理写像 が存在することを意味している。
さらに、 に双有理同値な と、 と の両方に双有理同値な をうまく選んで、
が双有理写像で、 のファイバーが単連結で の一般ファイバー
の小平次元が 0 であるようにできる。
上記のファイバー構造を飯高ファイバー空間 (Iitaka fiber space) と呼ぶ。曲面 S (n = 2 = dim(S)) の場合、W* は代数曲線となり、ファイバー構造は次元 1 であり、一般のファイバーの小平次元は 0、つまり、楕円曲線である。従って、S は楕円曲面である。これらの事実は、一般の次元 n へ拡張可能である。従って、高次元の双有理幾何学の研究は、κ = −∞, 0, n の部分の研究とファイバーが κ = 0 のファイバー空間の研究に分解される。
飯高による次の公式(飯高予想 (Iitaka conjecture) と呼ばれる)は、代数多様体、もしくはコンパクト複素多様体の分類において重要である。
飯高予想 ― を m 次元多様体 V から n 次元多様体 W へのファイバー空間とし、各ファイバー は連結であるとする。このとき
この予想は部分的にしか解かれていない。解かれている例として、モアシェゾン多様体の場合がある。分類理論は、飯高予想を解き、3次元の多様体 V がアーベル多様体であることと κ(V) = 0 かつ q(V) = 3 であることが同値であるという定理やその一般化などを導こうとする努力であるということもできるだろう。極小モデルプログラムもこの予想から導かれるかもしれない。
関連項目
脚注
参考文献
- Iitaka, Shigeru (1970), “On D-dimensions of algebraic varieties”, Proc. Japan Acad. 46: 487–489, doi:10.3792/pja/1195520260, MR0285532
- Iitaka, Shigeru (1971), “On D-dimensions of algebraic varieties.”, J. Math. Soc. Japan 23: 356–373, doi:10.2969/jmsj/02320356, MR 0285531
- Ueno, Kenji (1975), Classification theory of algebraic varieties and compact complex spaces, Lecture Notes in Mathematics, 439, Springer-Verlag, MR 0506253
- 飯高, 茂 (1972), “代数多様体の種数と分類 I”, 数学 (日本数学会) 24 (1): 14-27
- 飯高, 茂 (1977), “代数多様体の種数と分類 II”, 数学 (日本数学会) 29 (4): 334-349
- 飯高, 茂 (1982), “種々の双有理幾何と小平次元”, 数学 (日本数学会) 34 (4): 289-300
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飯高予想
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/19 08:25 UTC 版)
以下は、複素代数多様体で考える。 K を M 上の標準束とする。Km の正則切断 H0(M, Km) の次元を Pm(M) で表し、m-種数 (m-genus) と呼ぶ。 N ( M ) = { m ≥ 1 ∣ P m ( M ) ≥ 1 } {\displaystyle N(M)=\{m\geq 1\mid P_{m}(M)\geq 1\}} とおくと、N(M) は m-種数がゼロでないときの全て正の整数の集合となる。N(M) が空集合ではないとき、 m ∈ N ( M ) {\displaystyle m\in N(M)} に対して、m-多重写像 Φ m K {\displaystyle \Phi _{mK}} は次の写像と定義される。 Φ m K : M ⟶ P N z ↦ ( φ 0 ( z ) : φ 1 ( z ) : ⋯ : φ N ( z ) ) {\displaystyle {\begin{aligned}\Phi _{mK}:&M\longrightarrow \ \ \ \ \ \ \mathbb {P} ^{N}\\&z\ \ \ \mapsto \ \ (\varphi _{0}(z):\varphi _{1}(z):\cdots :\varphi _{N}(z))\end{aligned}}} ここで、 φ i {\displaystyle \varphi _{i}} は、H0(M, Km) の基底である。すると、 Φ m K {\displaystyle \Phi _{mK}} の像 Φ m K ( M ) {\displaystyle \Phi _{mK}(M)} は、 P N {\displaystyle \mathbb {P} ^{N}} の部分多様体として定義される。 ある m に対し、 Φ m k : M → W = Φ m K ( M ) ⊂ P N {\displaystyle \Phi _{mk}\colon M\rightarrow W=\Phi _{mK}(M)\subset \mathbb {P} ^{N}} を m-多重写像とする。ここに W は射影空間 PN に埋め込まれた複素多様体である。 小平次元 κ(M) = 1 である曲面の場合は、上記の W は楕円曲線である曲線 C (κ(C) = 0) となる。この事実を一般の次元に拡張し、右上の図に示すような解析的ファイバー構造を得たい。 双有理写像 φ : M ⟶ W {\displaystyle \varphi \colon M\longrightarrow W} が与えられると、m-多重種数写像は左の図に描かれている可換図式をもたらす。これは、 Φ m K ( M ) = Φ m K ( W ) {\displaystyle \Phi _{mK}(M)=\Phi _{mK}(W)} であることを意味する、つまり、m-多重種数写像は、双有理不変である。 飯高は、n 次元コンパクト複素多様体 M で小平次元 κ(M) が 1 ≤ κ(M) ≤ n − 1 を満たす場合、十分に大きな m1 と m2 が存在して、 Φ m 1 K : M ⟶ W m 1 ( M ) {\displaystyle \Phi _{m_{1}K}\colon M\longrightarrow W_{m_{1}}(M)} と Φ m 2 K : M ⟶ W m 2 ( M ) {\displaystyle \Phi _{m_{2}K}:M\longrightarrow W_{m_{2}}(M)} が双有理同値となることを示した。このことは双有理写像 φ : W m 1 ⟶ W m 2 ( M ) {\displaystyle \varphi \colon W_{m_{1}}\longrightarrow W_{m_{2}}(M)} が存在することを意味している。 さらに、 M {\displaystyle M} に双有理同値な M ∗ {\displaystyle M^{*}} と、 W m 1 {\displaystyle W_{m_{1}}} と W m 1 {\displaystyle W_{m_{1}}} の両方に双有理同値な W ∗ {\displaystyle W^{*}} をうまく選んで、 Φ : M ∗ ⟶ W ∗ {\displaystyle \Phi :M^{*}\longrightarrow W^{*}} が双有理写像で、 Φ {\displaystyle \Phi } のファイバーが単連結で Φ {\displaystyle \Phi } の一般ファイバー M w ∗ Φ − 1 ( w ) , w ∈ W ∗ {\displaystyle M_{w}^{*}\Phi ^{-1}(w),\ \ w\in W*} の小平次元が 0 であるようにできる。 上記のファイバー構造を飯高ファイバー空間 (Iitaka fiber space) と呼ぶ。曲面 S (n = 2 = dim(S)) の場合、W* は代数曲線となり、ファイバー構造は次元 1 であり、一般のファイバーの小平次元は 0、つまり、楕円曲線である。従って、S は楕円曲面である。これらの事実は、一般の次元 n へ拡張可能である。従って、高次元の双有理幾何学の研究は、κ = −∞, 0, n の部分の研究とファイバーが κ = 0 のファイバー空間の研究に分解される。 飯高による次の公式(飯高予想 (Iitaka conjecture) と呼ばれる)は、代数多様体、もしくはコンパクト複素多様体の分類において重要である。 飯高予想 ― f : V → W {\displaystyle f\colon V\rightarrow W} を m 次元多様体 V から n 次元多様体 W へのファイバー空間とし、各ファイバー V w = f − 1 ( w ) {\displaystyle V_{w}=f^{-1}(w)} は連結であるとする。このとき κ ( V ) ≥ κ ( V w ) + κ ( W ) . {\displaystyle \kappa (V)\geq \kappa (V_{w})+\kappa (W).} この予想は部分的にしか解かれていない。解かれている例として、モアシェゾン多様体の場合がある。分類理論は、飯高予想を解き、3次元の多様体 V がアーベル多様体であることと κ(V) = 0 かつ q(V) = 3 であることが同値であるという定理やその一般化などを導こうとする努力であるということもできるだろう。極小モデルプログラムもこの予想から導かれるかもしれない。
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