需要の価格弾力性とは? わかりやすく解説

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需要の価格弾力性

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/26 06:11 UTC 版)

需要の価格弾力性(じゅようのかかくだんりょくせい、: Price elasticity of demand)は、財の価格が1%上昇したときのその財の需要の変化率のこと[1]。需要の価格弾力性が-2の場合、価格が1%上昇したときに需要が2%減少することを意味する。多くの場合、価格の上昇はその財の需要を減らすので、需要の価格弾力性はマイナスの値をとることが多い。通常、マイナスの値をとるので、マイナスの符号を省いて絶対値を指すことが多い[2]

概要

ある財の需要の価格弾力性は以下のように計算される[3][4][5][2]

線形需要曲線における需要と収入 (価格×数量) の関係を示ている。弾力的は範囲(図の左側)では「需要の価格弾力性」が1よりも大きいので、価格の低下は収入を増やす。一方、非弾力的は範囲(図の右側)では、「需要の価格弾力性」が1よりも小さいので、価格を低下させても需要はそれほど増えず、収入が減少する。収入は、弾力性が1のとき最大値をとる。

価格の変化の大きさに対して、需要の価格弾力性は必ずしも一定ではない[7][8]。価格1%の変化は、初期価格が高いか低いかによって需要の変化に影響する[9]。「価格-数量ダイアグラム(縦軸に価格をとって横軸に数量をとった図)」において、需要曲線が直線で書けるとき、価格弾力性は線形の需要曲線に沿っても一定ではなく、曲線に沿って変化する(右の図を参照のこと)[注 1]

需要の価格弾力性は価格が上昇するときと低下するときで絶対値が等しくならない(対称的でない)[12][13]。価格が10円から16円に上昇し、需要が100単位から80単位に減少したとする。このとき、価格の上昇率が60%で、需要の減少率が20%なので、需要の価格弾力性は(−20%)/(+ 60%) ≈ −0.33となる。

一方で、価格が16円から10円に低下し、需要が80単位から100単位に増加した場合、価格の低下率が37.5%で、需要の増加率が25%なので、需要の価格弾力性は(+25%) /(−37.5%) = −0.67となる。これをインデックス・ナンバー問題英語版(Index number problem)と呼ぶ。

その他の定義

弧弾力性

弧弾力性英語版(こだんりょくせい、またはアーク弾性、英: Arc elasticity)は、ヒュー・ダルトン英語版が提示した弾力性の定義である。弧弾力性は、インデックス・ナンバー・プロブレムを克服している。弧弾力性は、以下のように定義される[13][14][15]

マーシャルが需要の価格弾力性を定義した図

アルフレッド・マーシャル1890年の『経済学原理英語版』で「需要の価格弾力性」を最初に定義したとされる[18]クールノー需要曲線から、需要の価格弾力性の定義式を導出している。マーシャルは、「市場における需要の弾力性は、価格の下落に対して需要がどれくらい増加するか、あるいは減少するかを測る指標である」と述べている[19]。彼は、「財の価格が上昇したら、通常は需要は減少する。しかし、減少度合いが大きい場合も小さい場合もある。減少度合いが大きい場合は、わずかな価格の変化が大きな影響を与えるということである」と述べている[20]。マーシャルの需要の価格弾力性は点弾力性であり、微積分を用いて弾力性を計算している[21]

限界収入との関係

次式が成立する。

ただし

MRは限界収入
pは価格
eは需要の価格弾力性

この式は以下のように示せる。

収入をRとする。このとき、

需要曲線と限界収入(MR)曲線の両方が描かれた図において、限界収入が正となる数量では、需要は弾力的(|e|が1よりも大きい)になる。限界収入がゼロとなる数量では単位弾力的(|e|が1)となり、限界収入が負となる数量では非弾力的(|e|が1よりも小さい)となる[22]

決定要因

需要の価格弾力性は、価格変更後に消費者の購入行動を変えるかどうかで決まる[23]。したがって、消費者の購入行動に影響する要因は需要の弾力性に影響する[24]

代替品の存在

購入可能な代替品が多く、より身近であるほど、わずかな価格変更でもその財の購入をやめる消費者が多くなるため、需要の価格弾力性は大きくなる[24][25][26]。代替品が存在しない場合、需要は非弾力的になる。

財のカテゴリーの幅広さ

財のカテゴリーを広く定義すると、弾力性は低く計算される。例えば、コカ・コーラペプシコーラを異なる財と定義して、ペプシコーラの価格が上昇したときのコカ・コーラの需要の価格弾力性を計算すると、弾力性(の絶対値)は大きくなるだろう[27]。しかし、清涼飲料水と広く財を定義して、アルコール飲料の価格の上昇に対する清涼飲料水の需要の価格弾力性を計算すると、コカ・コーラとペプシ・コーラの場合と比較して、弾力性は小さくなる。

所得に占める割合

その財への支出額が消費者の所得に占める割合が高くなるほど、消費者は価格の変化に敏感になるため、需要の価格弾力性は大きくなる[24][25][28]。その財への支出額が所得のごくわずかな部分しか占めていない場合、需要は非弾力的となる。

必需品

毎日摂取しなければならない何らかの疾病の治療薬のように、消費者にとって必ず必要な財であれば、需要の価格弾力性は低くなる[10][25]

価格変更の期間

価格の変更が継続して長く続くほど、代替品を探す時間ができる消費者が増えるため、弾力性は高くなる[24][26]。例えば、ガソリン価格が突然上昇しても、その価格上昇が一時的なものであれば、ガソリンへの需要はあまり変化しないと考えられる[25]。一方で、ガソリン価格が高止まりするようであれば、より多くの消費者が公共交通機関に切り替え、ガソリンへの需要を減らすと考えられる[25]

ブランド・ロイヤルティー

特定のブランドに愛着がある消費者が多い場合は、そのブランドの財の需要の価格弾力性は小さくなる[27][29]

誰が支払うのか

航空機のチケット代が高くなっても、企業の経費で支払われるなど、購入者自身が支出するわけではない場合は、需要は非弾力的になる[29]

中毒性

中毒性の高い財の需要は、非弾力的である。タバコ麻薬アルコールなどが挙げられる。消費者はそのような財を必需品として見るため、大幅な価格変動があっても購入せざるを得なくなる。

脚注

注釈

  1. ^ 弾力性が一定である非線形の需要曲線が存在し、例えば逆需要関数がで与えられるとき、需要の価格弾力性はで定数となる(は単なるパラメーターである)[10][11]CES型効用関数から導かれる需要関数では、需要の価格弾力性は定数となる。

出典

  1. ^ Price elasticity of demand | Economics Online” (英語) (2020年1月14日). 2021年4月14日閲覧。
  2. ^ a b c Gwartney, Yaw Bugyei-Kyei.James D.; Stroup, Richard L.; Sobel, Russell S. (2008). p. 425.
  3. ^ Png, Ivan (1989). p. 57.
  4. ^ Parkin; Powell; Matthews (2002). pp. 74–5.
  5. ^ a b Gillespie, Andrew (2007). p. 43.
  6. ^ Gillespie, Andrew (2007). p. 57.
  7. ^ Ruffin; Gregory (1988). p. 520
  8. ^ McConnell; Brue (1990). p. 436.
  9. ^ Economics, Tenth edition, John Sloman
  10. ^ a b Parkin; Powell; Matthews (2002). p .75.
  11. ^ McConnell; Brue (1990). p. 437
  12. ^ a b Ruffin; Gregory (1988). pp. 518–519.
  13. ^ a b Ferguson, C.E. (1972). pp. 100–101.
  14. ^ a b Wall, Stuart; Griffiths, Alan (2008). pp. 53–54.
  15. ^ a b McConnell;Brue (1990). pp. 434–435.
  16. ^ Ferguson, C.E. (1972). p. 101n.
  17. ^ Browning, Edgar K. (1992). Microeconomic theory and applications. New York City: HarperCollins. pp. 94–95. ISBN 9780673521422. https://archive.org/details/microeconomicthe0000brow/page/94/mode/2up 
  18. ^ Taylor, John (2006). p. 93.
  19. ^ Marshall, Alfred (1890). III.IV.2.
  20. ^ Marshall, Alfred (1890). III.IV.1.
  21. ^ Schumpeter, Joseph Alois; Schumpeter, Elizabeth Boody (1994). p. 959.
  22. ^ Reed, Jacob (2016年5月26日). “AP Microeconomics Review: Elasticity Coefficients”. APEconReview.com. 2016年5月27日閲覧。
  23. ^ Negbennebor (2001).
  24. ^ a b c d Parkin; Powell; Matthews (2002). pp. 77–9.
  25. ^ a b c d e Walbert, Mark. “Tutorial 4a”. 2010年2月27日閲覧。
  26. ^ a b Goodwin, Nelson, Ackerman, & Weisskopf (2009).
  27. ^ a b Gillespie, Andrew (2007). p. 48.
  28. ^ Frank (2008) 119.
  29. ^ a b Png, Ivan (1999). pp. 62–3.

参考文献

外部リンク


需要の価格弾力性

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/08 02:33 UTC 版)

弾力性」の記事における「需要の価格弾力性」の解説

需要の価格弾力性を考えてみる。価格変化率(%)に対す需要の変化率(%)が需要の価格弾力性と呼ばれるのである1%価格変化したときに、需要が何%変化するかを表すことになる。変化率(%)を用いるのは、例え100円変化した時の需要の変化は、もともと100円商品なのか10,000円の商品なのかで意味が大きく異なるからである。 弾力性絶対値が1を越えると弾力的、1を下回ると非弾力的と呼ぶ。 需要の価格弾力性が弾力的であれば需要曲線傾き緩やかになる。この場合値上げする需要急に小さくなる。 需要の価格弾力性が非弾力的であれば需要曲線傾き急になる。この場合値上げして需要大きく変化しない

※この「需要の価格弾力性」の解説は、「弾力性」の解説の一部です。
「需要の価格弾力性」を含む「弾力性」の記事については、「弾力性」の概要を参照ください。

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