蛾の名前
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/01 05:18 UTC 版)
1931年当時、この物語の鍵となる蛾(Nachtpfauenauge、直訳では「夜の孔雀の目」)には和名が存在せず、高橋は「楓蚕蛾(ふうさんが)」と訳していた。後に日本昆虫協会副会長を努めるほどの昆虫好きなドイツ文学者となる岡田が、大学時代(1950年代)にドイツ語の資料を調べたところ、ドイツで「Nachtpfauenauge」(de)と呼ばれる蛾は複数おり、「Mittleres(中型) Nachtpfauenauge」 (en:Saturnia spini)、「Wiener(大型) Nachtpfauenauge」(en:Saturnia pyri)、「Kleines(小型) Nachtpfauenauge」(en:Saturnia pavonia)の3種が問題の蛾の候補に挙げられた。このうちWiener Nachtpfauenaugeはポケットに入れるには大きすぎること、Kleines Nachtpfauenaugeは希少性が低いことから、Mittleres Nachtpfauenaugeこそがエーミールの蛾であると断定し、岡田によってそれぞれ「クジャクヤママユ」「オオクジャクヤママユ」「ヒメクジャクヤママユ」の和名が付けられた。一方、クジャクヤママユであれば行わない『敵に対する威嚇行動』が作中で説明されている点については、Nachtpfauenaugeと名前の似ている、スズメガ科のAbendpfauenauge(en:Smerinthus ocellatus、ヨーロッパウチスズメ)の行動をヘッセが混同していた可能性を岡田は指摘している。なお、右のクジャクヤママユ図は、ヘッセが少年時代に飽かず見ていた19世紀末の銅版画図鑑から採ったそのものである。 岡田は大学院時代(1960年ごろ)、指導教授であった高橋に請われて蛾について講釈した折に、「楓蚕蛾」から「クジャクヤママユ」への修正を進言した。高橋の訳である1982年の「ヘッセ全集 2」では、クジャクヤママユではないが、同じヤママユガ科で日本固有種の「ヤママユガ」と表記されている。 岡田は後に、『Jugendgedenken』の初稿である『Das Nachtpfauenauge』を『クジャクヤママユ』の邦題で翻訳している。『Jugendgedenken』も岡田によって新たに訳され、2010年12月に、これを収録した「少年の日の思い出 ヘッセ青春小説集」が出版された。
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