繰延税金資産の計上の前提と問題点・社会問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/10/11 08:12 UTC 版)
「税効果会計」の記事における「繰延税金資産の計上の前提と問題点・社会問題」の解説
一般に、収益力の低い企業が多額の繰延税金資産を計上するのは、健全な会計処理とはいえない。損金計上の認められる将来時点では、繰延税金資産が減少し、同額だけ当期純利益が減少するが、将来それに見合う税引前当期純利益が確保できない場合には、税引後当期純利益が赤字となってしまうためである。 このように、収益力が低く、課税所得が少ないと判断される場合には、法人税等の額を減少させる効果が期待できない(つまり、税金を前払いする能力に乏しいと判断される)。したがって、税効果会計における繰延税金資産計上にあたっては、(一時差異の解消すると見込まれる)将来時点において課税所得が十分確保されることを大前提にしていると言えよう。 つまりは、将来の課税所得の範囲において回収できる一時差異についてのみ、繰延税金資産を計上することができる。繰延税金資産は将来における税金の支払額が減額されるという将来減算一時差異に基づいて計上されるが、将来において課税所得が生じなければ税金支払額の減額効果が発生しないため、その場合にはそもそも将来減算一時差異が認識されない事になる。対して、将来において課税所得が生じれば、繰延税金資産の分だけ支払い税金額が減少する事から、これを「繰延税金資産の回収」という。このため、将来の課税所得の見積りに用いる事業計画の内容や、一時差異解消のスケジュールによって繰延税金資産の計上額が変動することとなる。なお、将来において課税所得が見込まれていても、繰延税金資産を下回る課税所得が見込まれている場合は、繰延税金資産のうち回収できない部分を計上する事は出来ない。この回収不能の繰延税金資産には、評価性引当を行い計上を取り崩す。 問題点は、急激な経済環境の悪化により、一定の収益力を確保して繰延税金資産を計上していた企業が以後数期にわたって収益力が回復しない見込みのケースである。将来減算を行うスケジュールが立たなくなり、法人税等を取り戻す機会が失われて多額の繰延税金資産が毀損する事がありえる。金融危機や経済危機においては必ず話題となる会計関連項目である。 これについて大きな社会問題が引き起こされた例もある。りそな銀行の2003年3月決算期において、監査法人は繰延税金資産組み入れの前提となる将来の収益性を疑問視し、りそな銀行の主張する繰延税金資産5年分を否定して、3年分の組み入れしか認めない方針を明らかにした(この過程において共同監査をしていた朝日監査法人が辞退して会計監査が大幅に遅延した。またこの直前に原因は不明だが同行担当の会計士が自殺している)。このため同行の自己資本比率は、国内基準である4%を大幅に下回る2%台に転落する可能性が出たため、預金保険法第102条第1項第1号に基づく資本注入が行われ、普通株での資本注入が行われた為に、りそな銀行は事実上国有化された。
※この「繰延税金資産の計上の前提と問題点・社会問題」の解説は、「税効果会計」の解説の一部です。
「繰延税金資産の計上の前提と問題点・社会問題」を含む「税効果会計」の記事については、「税効果会計」の概要を参照ください。
- 繰延税金資産の計上の前提と問題点社会問題のページへのリンク