線型安定性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/10/04 08:42 UTC 版)
線型常微分方程式に対する安定性は 線型安定性 (linear stability)、あるいは 絶対安定性 (absolute stability) という。線型テスト方程式 y ′ = λ y , t ≥ 0 , y ( 0 ) = 1 , λ ∈ C {\displaystyle y'=\lambda y,\quad t\geq 0,\quad y(0)=1,\quad \lambda \in \mathbb {C} } を考える。この方程式は簡単に解くことができ、厳密解は y(t) = eλt である。Re λ < 0 が成立するとき、y の t → ∞ の極限も 0 である。理想的に、近似解にもそのような振舞いを期待できる。しかし刻み幅 h が一定のとき、すべての方法に対する近似解がそのような振舞いを持つわけではない。それを区別するのが線型安定性である。 一つの方法による時刻 tn での近似解を yn とする。複素数平面上の集合 D = { h λ ∈ C ∣ lim n → ∞ y n = 0 } {\displaystyle D=\{h\lambda \in \mathbb {C} \mid \lim _{n\to \infty }y_{n}=0\}} は方法に対する 線型安定性領域 (linear stability domain)、あるいは 絶対安定性領域 (region of absolute stability) という。この集合はすなわち、与えられた方法による近似解が期待通りの振舞いを持つすべての hλ (からなる集合)である。特に、ルンゲ=クッタ法に対する線型安定性領域は以下の形で与えられる。 D = { z ∈ C ∣ | r ( z ) | < 1 } ( z = h λ ) . {\displaystyle D=\{z\in \mathbb {C} \mid |r(z)|<1\}\quad (z=h\lambda ).} ここで、r(z) は等式 yn = (r(z))n を成立させる関数であり、時々方法に対する 安定性関数 という。例えば、オイラー法に対応する関数は r(z) = 1 + z である。 一般的に、方法に対する安定性領域(の面積)が大きいほど、その方法はより安定である。よってもっとも安定な方法に対する安定性領域は左複素数平面すべてを含めるべきである。そのような方法を A-安定 (A-stable) という。A-安定な方法は(すくなくとも線型)硬い方程式の場合でも、刻み幅 h を精度のみの考慮で選択することができ、よって硬い方程式を解くために適切な方法だと考えられる。しかし、優れる安定性を持つ方法を実装するには通常高い計算コストが所要される。そのため、実践では常にA-安定な方法を使うわけではなく、方程式の性質、精度の要件や計算コストの制限などの条件を共に考えてから適切な方法を選ぶのが必要となる。
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